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かなしみを知らない



あい変わらずぼくは
かなしみを知らなかったから
海辺の掘っ立て小屋に住んでいる
トーイチに会いに行った


真夜中に浜の釣り舟に降りて来て
悪さをする星どもならよう知っとるど
じゃがのう かなしみは知らん
カンナに聞いてみい
ゴミ捨て場でガラクタを漁りながら
トーイチが言い終わった時
ぼくはトーイチになっていた


トーイチのぼくは
カンナ女に会いに磯浜へ行った


海髪豆腐イギスドウフを食べ過ぎて死んだ鳥は
水母に生まれ変わるのはよう知っとるで
じゃがのう かなしみは知らん
イサクンに聞いてみい
磯浜でニナや海藻を採りながら
カンナ女が言い終わった時
トーイチのぼくは
カンナ女になっていた


トーイチと
カンナ女のぼくは
イサクンに会いに岩場へ行った


干潮の時間に姫虎魚ヒメオコゼに刺されたら
満潮まで性夢を見るのはよう知っとるど
じゃがのう かなしみは知らん
あの海に聞いてみい
岩場の黒鮴クロメバルや蛸を銛で突きながら
イサクンが言い終わった時
トーイチとカンナ女のぼくは
イサクンになっていた


トーイチと
カンナ女と
イサクンのぼくは
海の沖へ舟を漕ぎ出した


群青色の海は
沖に小島を浮かべて
どこまでも広く深く
潮の流れが
木切れや漂流物を
大きく弧を描いて運び
所々で渦を巻きながら
魚群を回遊させ
鳥達が魚を狙って
てんでに鳴きながら
夕空を舞っている


鳥達が
鳴き止んだ時
イサクンは
海になった


カンナ女も
トーイチも
海になった


ぼくも
海になった


ぼくは
かなしかった




 *ネット詩誌「MY DEAR」315号
 <今月の詩>コーナーに加えていただきました。



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