初夏を聴くーラップフィルム
初夏を聴く。初夏を聴け。そんな言葉を呟きながら、初夏の風が吹くイチョウ並木の道を自転車で走る。ショッピングモールの裏手に差し掛かった時、商品搬入口の半開きのシャッターが、風に打たれてガタッと音を立てた。チラと目を遣った瞬間、白い大型犬がシャッターの上方から飛び降りて来たように見えた。そいつは段ボール箱を積んだキャリーカートの上でフワッと宙返りすると、風に押し戻されて空中で一時静止し、その後ゆっくりと地上に舞い降りて来た時には優雅な女人の立ち姿にも見えた、と思ったら風に折り畳まれ、終いには半透明な塊になってアスファルトの床に蹲っている。自転車を手押しして近付いて見ると、業務用のラップフィルムだ。視線の動きに合わせて皺や折れ面の反射光がキラキラと移動する。端っこが風に吹かれてひらひらしている。微かに音が聴こえる。こんな初夏も聴いた。
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