蜘蛛ふたつ
女郎蜘蛛
気が付いたら、目の前に女郎蜘蛛がいた。紡錘形のお腹に赤と黄色と緑青色の横縞。背の高いカイズカイブキの生垣の樹間に、脚を広げて下向きに静止している。見ると斜め上にもいる。頭のすぐ上にもいる。腕に触れる枝にも。腰の左右の枝にも。後ずさりして見回すと、生垣の至る所に蜘蛛の巣が張ってあり、女郎蜘蛛が獲物を誘っている。通り抜けるのは止めよう。向こう側ではコスモスの花が風に揺れている。
蝿捕蜘蛛
ツツツ、ツツツツツツツ。黒い点が壁を這い登って行く。ツツ。いっとき静止し、向きを変えてツツツツ。また登って行く。ツツ。すぐに静止して窓の方へツツツツツツツと水平移動すると、今度は斜め下方にツツツツツと降りて来る。ツ。また静止した。チャンス到来。幼児の玩具のような電撃ラケットを片手に、抜き足差し足でそ~っと近付いて、柄のスイッチを親指で押しながら素早くネットを押し当てる。パチッ! 小さな光を放ってご臨終。針金格子に引っ掛かっている。ゴミ箱の角で電撃ラケットをコンコン。まだ引っ掛かっている。もう一度コンコン。小さな黒焦げが落ちて行った。図鑑には「蝿捕蜘蛛」とある。続いて「益虫」と。気の毒なことをした。
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