ヘビ石
臥龍橋の手摺りにもたれて
潮の引いた西野川を眺めていた
背後は車が行き交う国道二号線
露出した川床の泥土が黒く光っている
橋の名前からは
龍が臥している姿を想像する
でも 龍に見立てたにしては
この橋は小さいし短過ぎる
龍は何処かこの近くで
のんびり寝ているのかも知れない
なんてことを想いながら
川の中央に目をやる
痩せ細った河水の流れを縦に二分して
川床に石積み造りの導流提が横たわり
ゆったりとカーブを描きながら
ずっと向こうの河口まで伸びて行く
その細長い形から
地元の人はヘビ石と呼んでいる
江戸時代からの遺構だ
でも ちょっと待てよ
あれはヘビじゃなくて
龍の尻尾じゃないのか?
黒灰色の石の一つ一つが龍のウロコだ
ハトやカラスやコサギが舞い降りて
あちこちで餌をつついている
遥かな昔の神話時代
龍は山の方に頭を向けて眠りに就いたのだが
何千年も何万年も動かずにいたら
頭や胴体や四肢は風化して崩れ
川から海へと流れ去り
河口近くの尻尾だけが残ったのだ
うかうか寝ているうちに
ヘビに格下げになってしまったけれど
龍の魂は 今もそこに在る
耳を澄ましてみよう
国道を行き交う車の音に混じって
微かに聴こえて来ないか?
臥龍の寝言が
*ネット詩誌「MY DEAR」316号 <今月の詩>コーナーに加えていただきました。
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