マガジンのカバー画像

小説

11
運営しているクリエイター

#短編小説

荒唐無稽な物語(ショートショート)

荒唐無稽な物語(ショートショート)

1月4日、午前7時正月休みも終わり、今日から仕事始め。
とはいっても、ここ最近の感染拡大のためにぼくは自宅勤務だ。

今日は10時からZOOMで、社長の念頭訓示の予定があるぐらいで、あとは自分のペースで仕事ができそうで助かる。

そもそも、職場に出ていたって、初日はそれなりにしか仕事をしないのだから、今日はパソコンの前でのんびりと過ごそう。

そんなことを思いながら、朝食を終えたぼくは、自宅の書斎

もっとみる
ショートショート「ルームシェア」

ショートショート「ルームシェア」

「それでさぁ」

さくらがパソコン越しに話を続ける。

「12時20分くらいになったんだよ、そのせいで。それで、いつものカレー屋さんに行ったら、一人前で席がいっぱいになって。でも、どーしても食べたくってさ。それで、一回職場帰ってもう一度行って、そしたら入れたんだけど、いつものサラダがなくて」

「でもよかったじゃん。食べられて」

向かいに座る雄太が、パソコンをタイピングしながら答える。

「いや

もっとみる
ショートストーリー「赤坂の理髪店(4)」

ショートストーリー「赤坂の理髪店(4)」

総理の重責「最後だと思う」という総理の言葉に、村田には込み上げてくるものがあった。

これまでもたくさんの人のカットをしてきたが、普通、散髪の期間のたった数ヶ月で、その人が年老いていることを感じることはまずない。だが、特定の職業においては違う。そう、まさにこの総理という仕事についている人だけは、明らかにカットのたびに、「老い」を感じてしまうのだ。

それは、わかりやすいところで言えば白髪が増え、シ

もっとみる
ショートストーリー「赤坂の理髪店(3)」

ショートストーリー「赤坂の理髪店(3)」

村田の緊張これまでも何人もの総理をカットしてきた。もちろん、10年以上前に初めて、時の総理をカットしたときは少し手が震えていたが、長年続けていると、もはや総理のカットも日常である。

ただ、実は、今回のカットは少し緊張していた。なぜなら、村田にとって「総理を辞める」と決めた総理のカットをするのは初めてだったのだ。

これまで、村田の理髪店に来る総理は、警備の事情で仕方なくきていた。だから、辞任して

もっとみる
ショートストーリー「赤坂の理髪店(2)」

ショートストーリー「赤坂の理髪店(2)」

定刻通り予約キャンセルの電話がスムーズに終わり、時間が少し空いたので、伝票の整理をしていると、ちょうど1時間前にスーツ姿のSPが2人やってきた。

座ってもらう席やカットする流れを、いつも通り説明し、使用する器具を全て見せる。ハサミは先の尖っていないもの、剃刀はワイヤーがセットされた長手方向には切れにくい特別のものを用意しているのだ。

何度も来ているSPだったこともあり、チェックはすぐに終わった

もっとみる
ショートストーリー「赤坂の理髪店(1)」

ショートストーリー「赤坂の理髪店(1)」

予約変更村田は、店のレジカウンターに置かれたコードレスフォンを手に取り、毎月4日に予約を入れてくれている常連客に電話をかけた。

「すみません、今日の予約、どうしても無理になってしまって」

「え?なんで。えらい急だね。体調不良かい」

「いえ、ちょっと、急なお客さんで、その。。。」

「ああ、そういうことか。わかった。じゃあ来週でいいよ」

「すみません。同じ曜日、時間で取っておきます。ご迷惑を

もっとみる