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【ボイトレ】「うたうこと」について読み解いてみた Part10【「第4章 解剖と生理」p35 17行〜p38 24行】

本ブログは以下の2冊について取り扱い、私の理解をシェアするものです。
・1冊目
フレデリック・フースラー、イヴォンヌ・ロッド・マーリング著
須永義雄、大熊文子訳
『うたうこと 発声器官の肉体的特質 歌声のひみつを解くかぎ』
・2冊目
移川澄也著
『Singing/Singen/うたうこと F・フースラーは「歌声」を’どの様に’書いているか』
お手元にこれらの本があると、よりわかりやすいのではないかと思います。
今回は第4章 解剖と生理 p35_17〜 「第2部 喉頭懸垂機構」に入っていきます。


第4章 解剖と生理

今回の三行まとめはこちらです。

・喉頭は左右で対になっている筋肉の網の中に力強く繋ぎ止められている。

・これらの筋肉を喉頭懸垂機構と呼び、上、後上、前下、後下に喉頭を引っ張る。

・喉頭懸垂機構は、歌声形成のために重要な構成要素である。


第2部 喉頭懸垂機構ー弾力のある足場

・喉頭は左右で対になっているいくつかの筋肉の網の中に、力強く繋ぎ止められている。(p35_17〜26)

まず、個別の説明に入っていく前に、「懸垂機構」についての簡単な説明が入ります。
この喉頭懸垂機構と呼ばれるものは、簡単に言えば1番の小見出しの通りで、
左右一対の筋肉群に、喉頭が繋ぎ止められており(吊るされている、とも表現されます。)、喉頭を上下前後へと引っ張ります。
その筋肉群をまとめて「喉頭懸垂機構」(あるいは単に懸垂機構)と呼びます。

喉頭の位置の決定は、喉頭を懸垂している網状の筋群のうち、
上方(上前方へと、上後方へ引くものがある。)へ引っ張るものを「引上げ筋(挙上筋、Elevators」
下方(下前方へと、下後方へ引くものがある。)へ引っ張るものを「引下げ筋(降下筋、Depressors)」
これらによって喉頭を必要な位置に繋ぎ止める…すなわち位置させることができるということが述べられています。
項目としては、これらに加えて「間接的喉頭懸垂機構」というものも登場します。


・解説版の補足的内容について 「共鳴は二次的な機能の現れ」

また、邦訳で触れられている内容ではない上、原著でもそういった記述はこの部分にはないため、出典の記述はありませんが、ここで解説版で挟まれている内容を説明させていただきます。

フースラーは「共鳴は二次的な機能の現れ」であり「その質的特性は腔群が懸垂機構によって適切な位置に動かされた時の正確な反映」と述べていると、解説版で触れられています。

”それまで歌声は「鼻の通路を開くこと」や「意志の力で作為的にある場所を響かせるやり方」によって共鳴させうると考えられてきた。
この考え方は音響学的にも生理学的にも疑問が多いものなのだが広く受け入れられ、「声を頭や鼻や胸に響かせるやり方」は「共鳴を実現する技法」として今でも指導されている”

のに対して、

フースラーは「原因となる一次的な動きが先にあり、共鳴はその結果として現れている機能」と述べているようです。

すなわち、「声が頭や鼻や胸で響いている感じ」があっても、それは「原因」ではなく「結果」であるということ。

この考え方は従来の常識を白紙に戻して考えるならば、音響学的にも生理学的にも無理がない納得のいく説明としています。

この記述についてわかりやすい解説をするとすれば、

歌声の時に体の特定の部位(例えば鼻や頭や胸)が「響いている」という感覚は、
この喉頭懸垂機構が働いて「喉頭の位置」や「共鳴腔の形」が変化するという原因があり、その結果として響いているという体感が現れる、ということです。

共鳴が原因 → 声の音色が決まる 
ではなく、

声の音色が変わる(喉頭懸垂機構による変化)が原因 → 共鳴が現れる。

冷静に考えてみると、これは当たり前と言えば当たり前のことのように私には考えられます。
例えばです。
発声訓練教師に「鼻に響かせて!」と言われた時、
「鼻に響かせるぞ!」という意識を持って体の中の見えない範囲の筋肉、器官を動かしているのだと言われれば、「それはそう」となりませんか?
(それが教師の想定したものになっているかどうかは別の話です。)

体の状態に何も変化が起きていなければ、それまで「鼻に響いていなかった」声が、突然「鼻に響きはじめる」ということは起こりません。
意志の力、気合いだけで音が突然鼻に響き始めたらそれはもうファンタジーです。
音が変わるということはこのように何かしら体の中の見えないところで器官の変化がおこっており、空間の形が変わったり、音の通り道が変わったりと変化を起こしていると考えるのは自然でしょう。

この時歌声に変化を起こしているのは共鳴現象か、体の器官か、と考えていけば、
自ずと原因は体の器官が動いていることと答えが出ます。

少し実際の現象を挙げて例を挙げましょう。
例えば鼻などは、アンチフォルマント、簡単にいってしまえば周波数…音が弱められる現象が発生することがあります。
この現象は一般的にこと歌においては良くない現象として捉えられていると思います。(音が減衰してしまうわけですから…そういった音色を作りたいという場合以外はおそらく望まれる現象ではありません。)

そしてこの現象が顕著に現れる時は、軟口蓋という部位が鼻への空気の通り道を開けている状態の時に強く発生します。
空気の波である音が鼻というトンネルを通る時に減衰するという話ですから、鼻に空気が流れていく状態の時におこるというのは納得感があるかと思います。

この時、
「アンチフォルマント」が原因で、
「声の周波数が減衰する」という結果が現れた、というのではなく、

「軟口蓋が鼻への空気の通り道を開いた状態になった」という原因があって
「鼻に多くの音の波が入っていき、アンチフォルマントが発生する」という結果が現れたと捉えるということです。

今回はわかりやすい例として鼻に音が通った際に発生するアンチフォルマント現象について例を挙げましたが、共鳴現象についても同様です。

体の何かしらの器官が働いたという「原因」があり、
最終的に人間の体から発せられる声の音に変化が起こる「結果」が現れる。
(その際に体の特定の部位に共鳴という現象が起こる)

というのがフースラーの主張であると私は考えています。

さて、解説版についての解説はここまでにして、邦訳の方に戻っていきます。


・引上げ筋(挙上筋) 英:Elevators 「補:喉頭を引き上げる筋群」(p36_1〜15)

喉頭を上へあげる、もっと正しく言えば上方に引っ張る筋肉は、次のものである。
と始まり、筋肉があげられます。
そしてこの「引上げ筋」と呼ばれるものは1つではなく、複数の筋肉をまとめて呼んでいます。
その都合から、読解を助ける補足として、私はこの筋肉たちを「喉頭を引き上げる筋群」と呼ぶこととします。
この筋群の図は、図31、32、35です。

まずは邦訳の記述を追っていきます。
この「喉頭を引き上げる筋群」とされているのは以下の3点

1.甲状軟骨と舌骨を結ぶ筋肉、「甲状舌骨筋」(図31)
2.軟口蓋と喉頭を結ぶ筋肉、「口蓋喉頭筋」ー「口蓋張筋(口蓋帆張筋)」(訳注:「口蓋挙筋(口蓋帆挙筋)」)(図32)
3.「茎状咽頭筋(茎突咽頭筋)」(図35)(訳注:頭蓋底の茎状突起[耳の後方の乳様突起の内側にあって下方に突き出ている骨の突起]から出て咽頭側壁を下に下って甲状軟骨板の後縁についている筋肉)

この3点がここであげられます。
まずは上記の筋肉の一部があまり用いられない表現になっているので、それぞれ括弧付で修正しています。

・2の「口蓋張筋=口蓋帆張筋」
・2の訳注「口蓋挙筋=口蓋帆挙筋」で、口蓋帆張筋とは違う筋肉
・3の「茎状咽頭筋=茎突咽頭筋」

2の書き方だと、口蓋帆張筋の訳注として口蓋帆挙筋とされているので、一見同じ筋肉を指しているようにも見えますが、これは違う筋肉です。
読んでみるとわかるように、番号がつけられて3点あげられていますが、筋肉は3種類ではありません。

補足として、本では触れられていない口蓋舌筋という筋肉もあり、2番の口蓋〜筋をまとめて「口蓋筋群」と呼ぶこともあります。

図35は喉頭懸垂機構と銘打たれている通り、喉頭を上下に引っ張りあっている状態の図が書いてあります。
この図において喉頭から上方向に向かってついている筋肉が、この引き上げる筋肉たちになります。

そして、歌唱時にはこの部位の筋緊張と共に、これから述べられる引下げ筋が働くことで下方向への引っ張りも起こることがここで述べられ、上下に口頭が引っ張られている状態というのがここで説明され、この状態が「あくびの形」と近いゆえにこれを練習するのだということが述べられています。

あくびをするその瞬間を考えてみましょう。
優しく喉に指を触れてあくびをイメージして、可能であればあくびをしてみてください。
注意点として、触れるのは優しく!そっと指を置くだけで十分です。
それだけで喉頭の軟骨が動くのは十分にわかります。

あくびをするとまず、喉の一部の軟骨がぐっと下に下がるのを感じられるかと思います。
おそらく今あなたが触れているのは甲状軟骨、輪状軟骨のいずれかで、それが下にぐっと下がる、ということは喉頭は下に引き下げられていることになります。
これは非常に理解しやすいかと思います。(喉頭を引き下げる筋肉群の話は後ほど出てきます。)

そして、あくびの時は一般的に「あ」の母音が出ます。
「あ」の母音は低母音・広母音と呼ばれ、下の位置は低く、口腔の開き具合が広いという意味です。

そしてこのとき、咽頭はどうなっているかというと咽頭収縮筋や口蓋筋群が働くことで、母音の中でも咽頭は狭くなりやすい状態になります。
意外かもしれませんが、「あ」の母音の時は咽頭…簡単に言えば喉の奥は狭まりやすいということです。
口蓋筋群が働くというのは緊張するということなので、先ほどフースラーが挙げた「喉頭を引き上げる筋群」の2番達がよく働くというのがわかるかと思います。

これが、「あくびの形」なるものが練習されるゆえんです。

そして、咽頭筋のひとつである上咽頭括約筋(正しくは上咽頭収縮筋)は、これらの引上げ筋に近い位置にあり、発声に関与すると従来から考えられているものの、この筋肉が働くことによって咽頭腔がを締め付けてしまい、結果としていわゆる「押しつぶされた声」になってしまうとして、フースラーはこの筋肉を否定します。

さらにこの上咽頭収縮筋は、筋力自体は弱いと考えられており、フースラーの述べている否定的な意見以外にも、「歌声に影響を与えたとしてもその影響度は低い」と考えられ軽視されている場合もあります。

ただし、筋力は弱いものの「歌声に影響を及ぼすものである」ということをフースラーが述べているということは、逆説的に考えるとその筋肉の影響は軽視すべきではないとも取れます。

ここからは私自身の読み取りからの考察も含まれますが、あくまで「当時主流だった音楽ジャンルにおける歌声」においては望ましくなかっただけと私は読み取っています。
どんなものであれ、歌声の音色に影響を及ぼすのだとしたら、その筋肉の働きは軽視するべきではありません。
例えていうならいわゆるクラシック声楽を歌う時、働かせたくないならそれはそれで認識する必要があります。
逆にポップスを歌う時、歌声の音色を作るために装飾的に使う場面があるのであればもちろん重視する必要がある…。
すなわち、どう転ぼうともこの筋肉も一緒に考えていく必要があると捉えているということです。

このフースラーの記述で「上咽頭収縮筋」は「良い歌声に関係ない」と認識してしまうのは少々危険かと思うので、注意が必要と考えます。



・引下げ筋(降下筋) 英:Depressors 「補:喉頭を引き下げる筋群」(p36_16〜p37_23)

先ほどの「喉頭を引き上げる筋群」と同様、こちらも「喉頭を引き下げる筋群」と呼んでいきます。
これから触れる筋肉たちは、「喉頭を引き上げる筋群」の拮抗筋として、喉頭を下に引き下げる筋肉たちです。
図としては図33、34、35になります
先ほどのように3点でまとめられていますが、こちらは1つ1つの記述が長いため、まずは筋肉だけを簡単にまとめて、その後細かい記述を追っていきます。

1.胸骨と甲状軟骨に繋がる「胸骨甲状筋」引っ張る方向は前下方。
2.輪状軟骨と下咽頭部分に繋がる「輪状咽頭筋」引っ張る方向は後下方。
輪状軟骨側面から食道を囲うように、その後壁(脊柱の前面)についている。
3.このほか、気管は下方に、食道は後下方に引っ張る。

では順番に補足を入れていきます。

1.胸骨甲状筋
これは声帯を伸展させる筋肉である輪状甲状筋の相手役とされています。
これは原著英語でも「opposition」で、対抗、対立、反対、反抗などの意味を持つ単語があたっており、「拮抗筋」という意味も持つようです。

が、これは受け入れにくい記述です。

輪状甲状筋は輪状軟骨が固定されているとしたとき、甲状軟骨を前下方向に傾させるような動きをすると考えられます。
仮に輪状軟骨を固定して考えないとしても、甲状軟骨を上方向に挙上させる方向に働くような筋肉のつき方をしていません。
あくまで輪状甲状筋は、輪状軟骨と甲状軟骨を接近させる方向に力が働きます。

そして胸骨甲状筋は甲状軟骨を前下方向に引っ張る働きをします。

こう考えると近い動作を行なっているため拮抗しているというよりは協力しているような面があるように考えられます。
これが、私が「拮抗筋」とするのが受け入れ難いとする理由です。

これについて解説版では嚥下の際に喉頭が挙上、それとこの胸骨甲状筋が拮抗すると解説しています。

実際、嚥下の際に喉頭が挙上するというのは事実で、これは舌骨上筋群が基本的に働いて舌骨が持ち上がり、甲状舌骨筋の働きと共に甲状軟骨を持ち上げます。

ただし解説版の記述には誤りがあると考えられ、それは
「輪状甲状筋が嚥下の際に喉頭を挙上させるように働く」と読み取れる記述です。

先ほど述べたように喉頭の挙上には舌骨上筋群や甲状舌骨筋が関わっており、輪状甲状筋の働きは関わりません。

さらに嚥下のメカニズムとして、輪状甲状筋は嚥下時は活動を抑制され、喉頭挙上後に呼気時と同程度の活動をするとされています。

これらのことから現状では、ここでフースラーが述べている「胸骨甲状筋」と「輪状甲状筋」が「拮抗筋である」というのは誤りだと私は考えています。

考えられる拮抗筋としては茎突咽頭筋と甲状舌骨筋があり、

茎突咽頭筋は
・後上方に引き上げる茎突咽頭筋
・前下方に引き下げる胸骨甲状筋
の拮抗関係で、甲状軟骨が前傾しやすくなるような拮抗が起こると考えられます。

甲状舌骨筋は
甲状軟骨を上下に引き合う形になり、喉頭全体の位置を安定させるように働くと考えられます。

これらのことから拮抗筋については、私の読解では喉頭を引き上げる筋群の中では茎突咽頭筋と捉えるのが良いと考えており、輪状甲状筋については「協力役」と取るのが良いと考えます。


2.輪状咽頭筋

喉頭を後下方に引き下げる筋肉です。
輪状軟骨を後下方向に引っ張るというこの筋肉が働くことで、喉頭を引き上げる筋肉や舌骨上筋群が働きやすくなるということがp36_24〜p37_3で述べられています。

ここでの疑問が芽生える記述としては
p36_21 ”生理学者はこれを「強力な筋肉」のひとつだと言っている”
p37_7 ”輪状咽頭筋は通例、喉頭懸垂網を作っている筋肉のなかで、最も力の弱い筋肉(話し声の発声にはほとんど協力しない)”
この2つの記述が矛盾していると感じることです。

一方で「強力な筋肉」、一方で「最も力の弱い筋肉」
これは完全に真逆の表現をとっています。

これについては先ほどのように明確に誤っていると推察することが難しいため、
前後の記述から矛盾が起きにくいように捉えて推察していきます。
まず生理学者の述べる「強力な筋肉」=筋力自体が強力な筋肉という意味です。
これに対し「他の喉頭懸垂機構の筋群と比べて自覚しにくく、働いている実感が得にくい」という意味で「弱い」。
すなわち、「生理学的には力強い筋肉のようだが、話し声に協力しなかったり働いている実感が得にくいと言った意味で主張力が弱い」ということです。

こう受け取ると、その後の「しかしながら声楽発声のための筋肉としては重要なもの」という記述と矛盾なく繋がります。

そして、この筋肉は歌声のための筋肉としては重要であり、歌手たちはこの主張力の弱い筋肉を自覚し、いわゆるプレイスメント的意識でこの筋肉を活用しているとフースラーは述べています。

ここp37_12〜24までで述べられていることは、「喉頭を引き上げる筋群」と「喉頭を引き下げる筋群」に対するまとめです。
これらをさらに圧縮して2文にまとめると、

『喉頭を保持するこれらの筋肉機構の協力があって初めて、喉頭の機能が歌声のために使えるようになる、すなわち「発声器官」の成立はこれらの筋肉の働きにかかっている。』
『喉頭懸垂機構の喉頭の引っ張り方ひとつひとつが、声帯の形と緊張状態に変化を与えることができ、声の音響的特性も変化する。』

この2文でフースラーが述べていることから、喉頭懸垂機構と呼ばれる筋肉群をいかに重視しているかがわかります。

まず1文目です。
これまでも登場していた「発声器官」に、この喉頭懸垂機構は含まれています。
体の非常に広範囲にわたってさまざまな筋肉たちが協力して「発声器官」を作るのだと言った説明がこれまでにされていたことからもそれは明白です。
そして、「この機構のはたらきいかんにかかっている」という記述から、
前回までの内喉頭筋群と、この喉頭懸垂機構は、人間の体を歌声のための楽器として歌声を出せる状態にするために非常に重要と捉えているということがわかります。

さらに2文目の記述から、
「喉頭懸垂機構」の働きが「声の音響的特性に変化を与える」ということがわかります。
いわゆる声の音色、声色の変化は、この喉頭懸垂機構が働くことで起こるということです。
これについては、声が音であること、すなわち空気の振動であることを考えると理解しやすいです。

①喉頭の位置が変化することで咽頭の空間の形状や狭さ広さに変化が起きますし、そうなると、空気が振動する部屋の状態に変化が起きるため結果として出音に変化が起きます。
②さらに口蓋筋群の働きによって軟口蓋周辺の筋緊張具合に変化が起きたり、形状が変わったりすることもありますし、こう考えていくと空気の振動に影響を与えそうというのは想像しやすいかと思います。

そしてそれらの変化は無段階、すなわちグラデーションです。
例えば咽頭の広さが1段階、2段階と刻んで変わるわけではないのは理解できるかと思います。
この変化がグラデーションになるということは、すなわち音響的な変化もグラデーション、それを無限とフースラーは表現しています。


*喉頭懸垂機構は、歌声形成のためには重要な構成要素のひとつである。(p37_24〜p38_24)

段落が変わってp37_24〜p38_24の範囲、
ここは、喉頭を引き下げる筋群の説明の最後の部分、喉頭懸垂機構の重要性について説明する内容になっています。

つまり、説明に入る前に、結論として言いたいことはこの小見出しの通り、
「喉頭懸垂機構は、歌声形成のために重要な要素である」
ということです。

おそらくここで述べられていることについては比較的理解しやすいので、番号付で順番に要約します。(必要な部分は解説補足します。)

①この筋肉群の一部の筋肉たちは、現代の日常生活の中ではあまり積極的に使われないため、神経支配が悪い状態になってしまっている。(p37_24〜30)

②喉頭懸垂機構は、歌声形成のために重要な構成要素のひとつである。これは少しも誇張ではない。(p38_2〜3)

③仮に喉頭懸垂機構がまったく働かなかった時、弱々しく、音の高さも変えられない「ファルセット」や「胸声」しか出ないだろう。(p38_4〜7)

④この両極端の二つの喉頭機能を結びつけるということは、喉頭懸垂機構の働きの何物かが欠けている。(p38_8〜10)

ここの③、④の記述からも重要なことがわかります。
以前の内喉頭筋の説明の際に、
「緊張筋のみが働いた声はいわゆる胸声」
「伸展筋のみが働いた声はいわゆるファルセット」
といった説明があったかと思います。

この二つの機能が、ここの③で述べられているものと一致しているのは偶然ではありません。
内喉頭筋の筋肉が声帯に対して働いた結果ですから、これらは内喉頭筋の「両極端」の「基礎的な能力」と言えます。

③で述べられているように、周りの協力がない「基礎的な能力」だけの状態では、この「両極端」の「基礎的な能力」がそこにあるだけで、それだけでは「歌声」にならないというのは想像に難くありません。

そしてフースラーの記述から逆説的に考えると、「喉頭懸垂機構が働くことでこの二つの「基礎的な能力」を結びつけて歌声とすることができる」ということ。

喉頭を前後上下に引っ張り合うこの筋肉たちが上手に使えるようになると、胸声とファルセットという両極端の機能を結びつけることができる…。
なんとなく訓練のイメージが見えてきたような、そんな想像ができる記述です。

⑤全く歌えない人を零点から、発声器官が解放された人まで、その間には喉頭懸垂機構の働き具合によって中間形が存在する。(p38_11〜15)

先ほども説明したように喉頭懸垂機構が働いた結果の歌声、アウトプットが「グラデーション」であるということがよくわかる記述です。

⑥医師に「ひどく損なわれた声帯」と診断されても喉頭懸垂機構が働けば歌声を出せることからも、喉頭懸垂機構の重要性がわかる。(p38_16〜20)

⑦歌声が素晴らしい歌手の首をさして「円柱のような首」という諺があり、よく発達した喉頭懸垂機構の筋肉群を備えた首をさしているのだと考えられる。(p38_20〜24)

最後の⑥、⑦に関してはその手前側とは段落が変えられていますが、内容としては繋がっているのでまとめさせていただきました。
「実際に医師に「損なわれた声帯」と言われていてもこれが働けば歌える」
「これがよく働いている人は円柱のような首をしているのか、それをさした諺もある」
これらからもこの喉頭懸垂機構の重要性がわかるよね?とフースラーは述べているのだと考えられます。



さて、今回はここまでとさせていただきます。
次回は第2部の続き、「間接的喉頭懸垂筋」から入っていきます。

よろしくお願いいたします。

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