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【ボイトレ】「うたうこと」について読み解いてみた Part11【「第4章 解剖と生理」p38 25行〜p42 3行】

本ブログは以下の2冊について取り扱い、私の理解をシェアするものです。
・1冊目
フレデリック・フースラー、イヴォンヌ・ロッド・マーリング著
須永義雄、大熊文子訳
『うたうこと 発声器官の肉体的特質 歌声のひみつを解くかぎ』
・2冊目
移川澄也著
『Singing/Singen/うたうこと F・フースラーは「歌声」を’どの様に’書いているか』
お手元にこれらの本があると、よりわかりやすいのではないかと思います。
今回は第4章 解剖と生理 p38_25〜 「第2部 喉頭懸垂機構」の続きに入っていきます。


第4章 解剖と生理

今回の三行まとめはこちらです。

・間接的喉頭懸垂筋として肩甲舌骨筋、胸骨舌骨筋がある。

・共鳴腔は「常に固定された生まれ持った形」ではなく周囲の筋肉の働きで変化するもの。

・共鳴腔の形や喉頭の状態に変化を及ぼす喉頭懸垂機構などの外喉頭筋の働きが声の音色を作る原因である。


第2部 喉頭懸垂機構ー弾力のある足場 (p38_25以降)

・間接的喉頭懸垂筋(p38_25〜p39_7)

ここで述べられる筋肉は、間接的と銘打たれてはいますが、直接的なものに勝るとも劣らない重要さで歌声に影響を与える筋肉が登場します。

・舌骨から肩甲骨につながる「肩甲舌骨筋」

・舌骨から胸骨につながる「胸骨舌骨筋」

この2つの筋束が舌骨を下方に引き下げると、その舌骨とつながっている喉頭が一緒に引き下げられると説明されています。

図37で図示されていますが、これは体における片方のみの図、これが左右一対でついています。

この二つの筋肉は甲状軟骨、輪状軟骨、披裂軟骨ではなく、その上にある舌骨につながっております。
本文に登場しない補足情報として、前回登場した筋肉たち、
・喉頭を引き上げる筋群の内の「甲状舌骨筋」
・喉頭を引き下げる筋群の内の「胸骨甲状筋」
これらと今回新たに登場した「肩甲舌骨筋」「胸骨舌骨筋」
これらをまとめて舌骨より下にある筋群ということで、「舌骨下筋群」と総称されます。

注意点を述べておきますと、甲状舌骨筋だけは、喉頭を引き上げる筋肉であること。
他の3つの筋肉は、舌骨および喉頭(甲状軟骨)を引き「下げる」筋肉であるのに対し、「甲状舌骨筋」だけは、喉頭目線で言うと引き「上げる」筋肉です。
喉頭懸垂機構は喉頭の目線に立って引き上げられるか、引き下げられるかで分けられているので、舌骨下筋群の内「甲状舌骨筋」だけが「喉頭を引き上げる筋肉」になります。
舌骨から体の下側につながる筋肉ということで舌骨下筋群とされますが、
『舌骨下筋群!ということは引き下げる筋肉だ!』とはならないようにしましょう。

改めてまとめておきますと

*舌骨下筋群
・甲状舌骨筋
・胸骨甲状筋
・肩甲舌骨筋
・胸骨舌骨筋
これらが主に舌骨下筋群と呼ばれています。

そしてp39_6のフースラーの記述にあるように、この舌骨下筋群の働きにより舌骨より上方の筋肉に誤って力が入りすぎることがなくなる可能性が考えられる、とのこと。

この記述から、「舌骨上筋群」があることが想像ついた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

それは1ページ進んで図39に書かれています。
ここでまとめてそれについても触れることとします。

*舌骨上筋群
・顎舌骨筋
・顎二腹筋 前腹、後腹
・茎突舌骨筋
これらが図39にある「うたうこと」にのっている舌骨上筋群です。
これに加えて
・オトガイ舌骨筋
という筋肉もあり、これらが主に舌骨上筋群と言われています。

なお、これら以外にもオトガイ舌筋、茎突舌筋や、喉頭懸垂機構の「喉頭を引き上げる筋群」で登場した筋肉なども含める場合があったりします。

舌骨下筋群にもあてはまることですが、こういった筋群などの総称については、論文などでは比較的表記が揺れにくいですが、そういった書面以外に説明する場面等ではまとめて呼ぶ筋肉が変わっていることがあります。
(こういった、筋肉、器官をまとめて呼ぶときなどに用いられる表現は多少揺れがある場合がありますので、私自身の考えとしてはある程度柔軟に捉えていく必要があると考えています。)

図を見るなどして舌骨と筋肉の位置関係、つながっている先などを見ていくと、舌骨を前上方、後上方に引っ張る筋肉群であることがわかります。

ちなみにこういった舌骨周辺の筋肉や、咽頭周辺の筋肉等、声に影響を及ぼすものの喉頭の外にある筋肉をまとめて「外喉頭筋」
逆に喉頭の内部にある筋肉を「内喉頭筋」
と呼びますので、こちらは補足情報として覚えておくと、実際に使われている場面で役立つかと思います。


・共鳴腔(p39_8〜p40_22)

まず共鳴腔とは声帯の上に続いている空間、咽頭腔や口腔のことを学問的に「共鳴腔」と名付けていると説明されます。
そしてその共鳴腔は、声を作り出すために生まれつき都合が良い形になっているかそうでないかの類別などが行われているようです。

しかし、フースラーは
”発声訓練教師は、この見解にとらわれないでもらいたい。”(p39_11)
と、直後の文でそれ(共鳴腔という考え方)に囚われるなと述べます。

そしてその理由はなぜか?それも直後に述べられています。

”なぜならこの空間の形成が好都合だ不都合だのといってみたところで、本当に病的な状態でもない限り、ただ喉頭懸垂機構がよく働いているかいないかの結果に他ならないからである。”
”共鳴腔がどのようにして声楽発声に役立つかを考えてみるならば、それは決してすっかり用意が出来上がった状態で、解剖学的に存在するものではなくて、筋運動によって初めて作り出された結果だからである。”

これは前後の文が逆の方が理解しやすいかもしれません。
少し噛み砕いた文にアレンジしてみますと、

『まず共鳴腔というのは固定されたものがそこに存在するのではなく、筋運動によって作り出されるものである。』
『共鳴腔の存在が歌声を作る真の原因ではなく、その共鳴腔を作り出す筋運動、すなわち喉頭懸垂機構の筋運動が真の原因であるから、共鳴腔の生まれつきの形がどうだという考え方に囚われないでいただきたい。』

こういったことを述べているのだと読み取れます。

前回のブログにて「共鳴は二次的な機能のあらわれ」という話がありました。
つまりはここでも同様の考え方です。

「歌声に変化を与えるものはなにか?」
と考えていくとき、声も音という空気の波、物理現象ですから、その音が響く部屋の影響を受けるのは明白です。

では、
「その部屋は固定された形をしているのか?」
これに対する答えはNo、であることは容易に想像がつくかと思います。
上咽頭一つ切り取って考えても、軟口蓋が閉じたり開いたり、収縮筋で狭くなったり広くなったりと変化は目まぐるしいです。

このように声が音となって響く部屋は、すべて周りの筋肉の影響で広くなったり狭くなったり、あるいは形が変わったり、はたまた緊張具合が変わったりします。

つまり、歌声の形成において考えていくとき、「共鳴腔の形」ではなく「喉頭懸垂機構の働き」が「原因」だということです。

ここで振り返ってみるべきこととして、フースラーの述べる「歌声」は現代の一般的な歌声ではなく、感情の発露のような、もっと「原初的な歌声」を「歌声」と呼んでいることです。
子音や母音などが言葉として複雑に使い分けられる前の原初的な、私たち人類が言語を習得する以前の時代で見ていった時の「歌声」であると考えられます。

現代の子音母音が目まぐるしく変化する、言語を伴う歌とそれは違うものですが、フースラーはその「原初的な歌声」の際の「発声器官」の成り立ちを重視しており、その能力が何かしらで上手く使えない状態になってしまっているが故に、私たち現代の人間が現代の歌を歌う上でも必要とされる能力が上手く使えない、といったことを述べていると読み取れます。

ここではそのように考えていった時の大きな「原因」は喉頭懸垂機構にあるということを述べていると捉えて読むのが良いと考えます。

喉頭懸垂機構の状態が、一般的に「正常」な人々は十分に開発されておらず、”発声器官の共鳴腔を、全面的に作り替えなければならない”
逆説的に言えば
『喉頭懸垂機構を十分に開発することで、結果として「共鳴腔が作り替えられる」』
ということ。

そしてフースラーが述べるには(p40_2)
”優れた流派に属する発声指導者や声楽家は誰でも常に直観的にそのことを狙っている”
ということです。

例えば「開いた喉」、「デックング」、「あくびの形」、「喉頭の低い位置」
見慣れない「デックング」と言う言葉はドイツ語で、被う、包むといった意味のデッケン(dekken)から来ている言葉です。

こう考えていくと、あくびの形、と言われると、開いているような、包んでいるような、そんな印象があるのではないでしょうか?
そして実際にあくびの際に喉頭は引き下げる筋群が働くことで下がりますし、口蓋筋群も働いています。

つまりこれらは、言い方こそ違えどほぼ同じ状態を目指している言葉ということです。

これらからわかることは、こういった言葉が使われている流派では、こういった、いわゆるあくびの形の際に働く筋肉たちが、一般的に訓練していない方々と比較すると、「目覚めている」、「解放されている」、すなわち、神経支配が良い状態になっているということ。

それに対してフースラーがp40_7〜11で述べていること、”しかしたいがいは〜”
この部分を要約しますと、

『しかしこれらの訓練では喉頭懸垂機構の一部しか開発されない。』
『なので、私たちは以下のことを理解する必要がある』
『個々の筋肉がすべて活性化され、同一の目的(発声器官の成立)に向かって協力し合う必要があるということを。』

こういった内容です。

p40_12〜22、ここで述べられていることはここまでの話が理解できているとスムーズかと思います。

・喉頭懸垂機構は非常に入り組んでいて変化しやすい機構であるから、徹底的な研究が必要。

・普通の人は喉頭懸垂機構が十分に目覚めていないため、研究するのであれば「優れた歌手」を研究しなければならない。

・この機構が「静的なもの」として見られていたため、咽喉医が喉頭鏡に映る像によって「共鳴腔が狭いから高音が出ないのだ」(=生まれつきそう言う形になっているのだから諦めろという意味)などと、声や声域を推量していたが、それは誤解である。

・誤解の原因はそもそもの発端、声帯のすぐ上の「空間」にばかり目を向け、音響的空間を生み出している「全周」に目が向けられていなかったことが原因、そしてその「全周」を形成するものこそが、筋肉とその運動状態である。

こういったことが述べられています。

ここに補足でページ下の1)が付けられており、こういった医者たちの誤解がなぜ生まれたのかを説明しています。

1)昔の研究者たちが、亡くなった方の喉頭を切り離して、それに空気を送る仕掛けをつけて吹き鳴らした。
その結果「人間の喉頭から発している音とは信じられないような、弱い無表情な音であることに驚かされた。」
この実験結果から導き出された結論は「喉頭だけではこんな貧弱な音しか作ることはできない、美しい含蓄のある声の響きは、声門の上の声が通り抜ける空間、すなわち正門の上に続く管(共鳴腔)によらなければ出来上がらないのである。」

こういった結論からの考え方が、当時の医師たちの「声」に対する常識であったならば、
「共鳴腔」の生まれ持った形(たまたま喉頭鏡で見た時の形)を重視して、
「あなたの共鳴腔の形は高音を出すのに向いていませんね〜」
のような会話が繰り広げられていたのではないかと、ここまでのフースラーの記述からも推察できます。


・懸垂機能の故障による併発症状(p40_23〜p42_3)

さて、第2部 喉頭懸垂機構も残すところこの小見出しのみです。

ここまで以下のことをフースラーは述べてきたとここでまとめます。
ある意味でここまでの要約です。

『声がはっきりした二つの声区「ファルセット」「胸声区」に分裂してしまうという「声の崩壊」。』
『これの原因は要するに、喉頭懸垂機構の故障である。』

はっきりした、というのはファルセットと胸声区で明確に声の音質、音色が異なるという意味ではっきりした、ということと考えます。
そして、邦訳にある「終末端」という言葉は原著英語版で「basically」、これは「基本的に」「本来は」「実は」「要は」といった意味を持ちます。
終末端という言葉は調べた限りではわからず、おそらく誤訳と考えられますので、「要するに」と表現を変えています。

そしてその喉頭懸垂機構の故障によって起こる症状として幾つか説明されます。


①だんご声、押しつぶされた声(p41_1〜11)

押しつぶされた声は上咽頭収縮筋の話の際にも説明がありましたが、ここでは以下のように説明があります。

・喉頭を引き下げる筋群が働かない時、「舌、舌根筋、嚥下筋」が、引き下げる筋群が働かない分を穴埋めするため、喉頭は舌骨上部の筋肉によって上方に引き上げられ、舌が同時に下方向へ押し付ける、これにより「だんご声」となる。
・「舌、舌根筋、嚥下筋」はたくさんあるため、そのほかの変種もたくさんあり得る。例えば押しつぶされた声などである。

上咽頭収縮筋、咽頭収縮筋は嚥下筋に含まれますので、ここの「舌、舌根筋、嚥下筋」に含まれます。

そのほかにここにふくまれるものとして
・「舌」には舌筋(たとえばオトガイ舌筋や茎突舌筋、舌骨舌筋などなど)。
・「舌根筋」=「舌骨筋」以前説明した舌骨上筋群や舌骨下筋群が含まれます。

「舌根筋」というのはおそらく一般的な言葉ではなく、これは「舌骨筋」を指していると私は捉えています。


②白い声(p41_12〜24)

今度は喉頭を引き上げる筋群である甲状舌骨筋が、勝手に喉頭を引き上げすぎる状態になることによって起こると説明されます。

・甲状舌骨筋は、声門閉鎖筋(声唇、緊張筋、内甲状披裂筋などの声帯を緊張する筋束たちの総称と捉えて良いです。)に対して拮抗筋として働くこと。
・そして声門閉鎖筋が過緊張状態で働いて、この甲状舌骨筋が働くことによっても、高音域まで声門の閉鎖を保つことができること。

この2点を見るといいことなのでは?となりかねませんが、

・声門と声帯そのものがつよく短縮する。
・喉頭を引き下げる筋群などの協力が得られなくなる。
・呼吸器官の積極的な協力を得られなくなる。

となっております。
声帯は引き延ばされることで高音がでますが、その働きをする筋肉として輪状甲状筋などがあり、こういった筋肉群の協力が得られなくなること。
これはおきなデメリットとなりますし、なによりこの状態の時「正門閉鎖筋が過緊張状態で働いて」と書かれております。
過緊張状態になることはよいこととは言えず、この記述から繊細な声帯を傷つけやすい声であるとも読み取れます。

そしてこの「白い声」の程度が軽いものは至る所で聞くことができ、特にテノール、コロラトゥーラソプラノの人々のなかで聞くことができるとフースラーは述べます。

これらの記述から読み取れる「白い声」は、現代的な発声の症状として、いわゆるよくないものとして述べられるものの中でいうならば「ハイラリンクス」が最も近いのではないかと考えます。


③圧迫声

圧迫して出される声もまた、喉頭懸垂機構の喉頭を引き下げる筋群の機能不足に原因があると述べられます。
空気が喉頭の下に堰き止められて喉頭を上方へ圧迫、声帯緊張筋と閉鎖筋(内甲状披裂筋などの声唇内の筋肉)は無理に働かせられ、声帯伸展筋(輪状甲状筋)は働きを妨げられます。

ここまで読むだけでも、発声器官の本来持つ能力が存分に発揮することを邪魔されていそうな記述ばかりが並んでいます。

この声はおそらくいわゆる「呼気圧が強すぎる状態の声」だと考えられます。

そしてこれらの場合はまず第1に全体の呼吸筋が動かされ目覚めさせなければならず、そうなることによって呼吸筋と懸垂筋の関連ができあがり、喉頭は呼吸筋の束縛から解放される、と述べられます。

そして「舌を柔らかくする練習」に効果はなく、その練習法では禍(わざわい)の原因を見つけることもできないし、除去することもできないと述べられていますが、この記述はこの圧迫声だけに限らず、ここまでの3種類の声全体に関係する記述と考えています。

此処の記述を読まれた方が気にするところとしては、「呼吸筋が目覚めることで、喉頭懸垂機構との関連が出来上がり、喉頭は呼吸筋尾束縛から解放される」という点かと思います。

フースラーはいわゆる「呼吸法」という練習を否定します。
しかし「呼吸筋が目覚めていないために起こる声の異常に対しては、呼吸筋が目覚める必要がある」と述べます。
一見これは矛盾するように見えますが、それは矛盾しないと、この続きの第3部、呼吸器官の中のフースラーの意見から読み取れます。
そこで矛盾に思われる点が解消されるまでもう少し先までお付き合い願います。

以上で第2部 喉頭懸垂機構が終わりとなります。

最後に見出しにある「弾力のある足場」について少し説明しておきますと、
喉頭懸垂機構自体が、喉頭にとって「弾力のある足場」という意味です。
喉頭をあちこちから引っ張りあっている筋肉群。
喉頭にとって弾力のある足場というのは納得感があるのではないでしょうか。
喉頭懸垂機構を「弾力のある足場」とする表現は、フースラーメソードを学んでいく上ではいつか出会うので、頭の片隅において頂きたく思います。



さて、次回から第3部、呼吸器官に入っていきます。
この部はここまでの1、2部よりも文の量が多いため少々解説に時間がかかってしまうかもしれませんが、引き続き本ブログを読んでいただけますと幸いです。

よろしくお願いいたします。

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