あの人が振り上げた拳はあなたが振りかざすかもしれないナイフ

凄惨な事件が起こる度に、思うのですよね。その事件を起こした人は確かにやってはいけないことをしたのだけど、その人を理解できない人外の生き物のように扱っている人たちの言ってることも、本当に正しいのだろうかと。

感じるのですよ。自分はそんなこと考えたこともないし絶対にやらない、ああいうことする人は一方的におかしいんだ、と言い張ってる人たちからじわじわ滲み出てくる、恐ろしさを。

私にはよくわからないけど、脳の構造が人と違うとかなんとかで、病気や障害に区分される人たちがいるらしい。それは「個性」ではいけないのだろうかと考えてしまう一方で、本当に他人の人生を破壊することに何の抵抗もないように見える人たちも確かにいて、誰しも自分の命や人生を守りたいのだろうから、症例として対策を取ろうと人類として結論を出したのかもしれないと思う。

ただ、それだけが答えじゃないだろう、とも思うのです。生まれた時から構造が違う人もいるかもしれないけど、それが力を加えることで変わるものなら、大多数と同じだった構造が、様々な要因で変化してしまうこともあるだろうと。
そしてそれは、些細なきっかけで、人間としてこの世に存在するすべての生命に起きることだろうと。


「みんな同じ」
「みんな苦労してる」
「みんなつらい」

何度となく投げ掛けられてきたこの言葉。面倒くさくなった人の常套句。
けど、「みんな」なんて実際にはどこにもいないのですよ。

「みんな同じ」はずの苦労やつらさを、実際には味わっていない人たちはたくさんいるのです。
いじめ。貧困。ハラスメント。病気。障害。差別。孤独。
形を変えれば「みんな同じ」かもしれないけど、人生がそれぞれまったく別物のように、味わってきた苦労や苦しみは違うもの。いじめに遭ったことはあるけど生活の苦労を味わったことのない人もいるだろうし、その逆の人もいるでしょう。一切何もかも味わったことのない人だっているかもしれない。

それらの経験は、時に人間を深く深く追い詰めてしまうことがある。孤独は簡単に人を殺すし、パワハラで壊れたまま引きこもり、貧しさのスパイラルに落ちて立ち上がれなくなることもある。この世界はお金がない者が生きていることを許さない。命よりもお金を優先する世界に押し潰されてしまうこともある。
そういった人たちは、何も死にたくて生きてるわけじゃなく、生きていたくてたまらないのに生きていける気がしないから、絶望するのです。「生きている」とは、当たり前のことじゃない。

その、もがいてもがいて、何とか立ち上がろうとする人たちに、とどめを刺す人々がいる。
彼らは追い詰められたことがなく、「追い詰められた時の闇の深さ」を知らない。もしくは、かつて自分が足を浸した闇の冷たさをすっかり忘れてしまっている。
彼らにとって、闇の中にいる人々は理解不能な珍獣にでも映るようです。彼らの思う人の枠から外れた存在が凄惨な事件を起こすのだと思い込んでいる。

それは、未来の自分の姿かもしれないのに。
ただ自分が、その現在を選び損ねただけかもしれないのに。
何故「自分には無関係」だと思い込めるのか。
私はその方が、よっぽど恐ろしい。

なんて酷いことを、と重い気持ちになる一方で、「刃を振りかざしたのは自分かもしれない」といつも胸をよぎる。紐解かれる犯人の人生を耳にする度に、それはほんの少し右側に歩いただけの自分の姿だと戦慄する。私はただ誰も殺していないだけで、あの人たちと同じだ。
そしてそれは、本当は誰だってそうなのじゃないか。

命は奪わなかったけど、人生を奪ったり、命や人生が奪われるのを黙って見ていただけの人間が、命を奪った人間とどれほど差があるのか。それらの行為が巡りめぐって誰かの命を奪うのだ。
そのことに気付きもせずに、どうして平然と生きていられるの?

生育環境が将来に大きく影響を及ぼすことは、これだけ情報が広がる世の中になったらもう無視はできないと思います。生育環境に関係なくしっかりと生きていける人ももちろんたくさんいます。けど、彼らは決してひとりの力でそうなったわけじゃない。どこかで必ず、愛情や優しさを、助けを受ける機会があったはずです。
あらゆる段階で、その愛情や優しさから漏れた人間がいるのかもしれない。それは単なる運の問題で、幼子が自らその機会を叩き付けてしまうことなど基本的にないでしょう。
そういった、それぞれの人生を加味せずに、「皆同じように」努力して勤労して感謝してまともに暮らせ、それができなければ落伍者だ、と決めつけてしまう。失敗してしまった人間に立ち直る機会を与えない。早くしろ、結果を出せ、他人に頼るな、真面目にやれ。
散々ニュースで犯人の人生を分析したところで、誰も何も学ばない。ただ、凄惨な事件をまるでエンターテイメントのように消費するだけ。

これからも事件は減らないし、日々は何も変わらないのでしょう。隣にいる誰かも救えない、救わない我々に、事件など防げるはずもない。自分のことで精一杯なのは、あなただけじゃない。
「みんな同じ」です。
あなたが、見ようとも聞こうとも知ろうとも、しないだけ。

私はあなたなんかに殺されたくない。
あなたが誰かに殺されたくないように。
生きていたいのは、人間として大切にされたいのは、みんな同じ。


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