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読書感想文ーー『デクリネゾン』

金原ひとみ『デクリネゾン』を読み終わった。

この本は、がっつり新型コロナウイルス時代の日本社会を描いたフィクション。主人公は、40代の子供持ちの女性。職業は作家。

そんな彼女は、2度の結婚をして、2度の離婚をし、そして今は大学生の男子と付き合っている。

年の差は20歳くらい。

彼女は、ある日突然、猪のような化け物(精神的なもの)に激突されて、今の生活が苦しくなって、破壊衝動的に不倫に走り、家庭を壊す。を繰り返してきた。と述べている。

正直、私にはよく分からない。猪云々も含め、どうして「安定」が苦しくて、破壊したい衝動に駆られ、だめだとわかっている行動に突き進み、子供もいる家庭を壊すのか。

子供は、1度目の結婚相手の子。こんなに家庭をめちゃくちゃにしながらも、子供のことが嫌とか、嫌いとか、いなきゃいいのにとかを、思っている節は毛ほどもない。むしろ可愛くて大事で愛していて、誰よりも子供の全てを所有したい欲に溺れている。

子供も中学生の女の子となり、母親の彼氏が大学生という、なんだか微妙な年齢であることに、居心地の悪さを感じる。

母親の重たすぎて、一方的で、身勝手な愛情と、持ち前の理屈っぽさと、中学生女子の思春期特有の一見ちゃらんぽらんで、向う見ずな自由さが、対立することもある。

新型コロナウイルスで、段々社会全体が閉じこもっていく様子も同時に描かれ、そこに、否応なく影響を受けていく家族の形も描かれる。

食事の風景が多く描かれ(「デクリネゾン」というのは、フランス語で様々な調理方法で、ひとつの食材を生かすことを言うらしい)、そのいちいちで、人間は食べずにはいられない動物なんだよねと、思い知る。

「猪の激突」で家庭を壊して、新しい恋をして、また自分はこの恋を壊す日が来るかもしれないと怯えながら、もうそんな体力も残ってないかもな、40だし、と思う主人公。

人間は、どんなに内面が変化しても、外的環境が変わっても、生きていかねばならない。

幸せの形が変わっても、社会が変わっても、生きていくベースが変わっても、生きていかねばならない。死ぬまで。

私は読み終わってから、「デクリネゾン」、一人の女性が葛藤しながら、自分の人生を調理していく様子を思い描いた。ひとつの自分の人生を様々な調理方法で解体し、味付けし、味わう。そして、自分の人生を味わうのは勝手なんだけど、周りの巻き込まれる人間はどうなるのだと思う。

最高にグロテスクだ。

でも、人間の生き方で、グロテスクでないものなんて、そうないなとも思う。

エゴとエゴがぶつかり、摩擦が起きて、認識にズレがあって。個性という輝かしいワードで全てが飾られるけど、分かり合えないという現象には、変わりはない。

いつか「猪の激突」に合うかもしれないと怯えながら、今の幸福をむさぼるように酔いしれる。

矛盾しながら、同時に存在しうる主人公の内面は、とうてい理解不能な部類の話だけど、寂しさを持て余し、安定が欲しくて求め続けながら、同時に破壊し続けてきた人間の性みたいなものも感じた。

余談だけど、この本を読んでいて、インド料理が無性に食べたいと思った。

【今日の英作文】
「もうすぐ就職して2年になります。お祝いはケーキがいいな。」
"It's just about two years since I got a job. I hope the celebration for that would be a piece of cake.''

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