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兎の逆噴射のやつ

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平成30年10月 兎は逆噴射小説大賞に応募した。
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#小説

ケダモノ喰いの青(完全版)

ケダモノ喰いの青(完全版)

それを蜪犬と言う。
身の丈は5尺近く。犬の形をした妖魔で、全身が青く人を食う。
男は、虎の顎でその一頭の頸椎を砕き、次いでもう一頭を虎の爪で裂いた。
しかめた顔の目より上は人間で、不快そうに眉根を寄せるとべっと残骸を吐き捨てた。
『童、誰そ彼時に山に入るなと教わらなんだか』
「……」
廃寺の軒先、妖魔に襲われかけた黒髪の少女が震えている。
『口がきけぬか?』
「あ、ありが」
『ケダモノ同士の縄張り

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ケダモノ喰いの青

ケダモノ喰いの青

それを蜪犬と言う。
身の丈は5尺近く。犬の形をした妖魔で、全身が青く人を食う。
男は、虎の顎でその一頭の頸椎を砕き、次いでもう一頭を虎の爪で裂いた。
しかめた顔の目より上は人間で、不快そうに眉根を寄せるとべっと残骸を吐き捨てた。
『童、誰そ彼時に山に入るなと教わらなんだか』
「……」
廃寺の軒先、妖魔に襲われかけた黒髪の少女が震えている。
『口がきけぬか?』
「あ、ありが」
『ケダモノ同士の縄張り

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ジョン”ザ・ヴァンパイア”ハンター

ジョン”ザ・ヴァンパイア”ハンター

ロンドン、レスタースクウェアにその屋敷はあった。
出入口は二つ。
表通りに面したドアは、生きた患者や客のため。
裏通りに面したドアは、解剖教室で使う死体のため。

その夜、すっかり白くなった髪を撫で付け、ジョン・ハンターは、裏通りのドアから現れた。
間を空けず黒塗りの四輪馬車が目の前に止まり、ジョンは滑るように乗り込む。

「動いたか」
「ええ、先生の仰る通り見張りを付けて正解でした。チャールズ・

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殺しの左腕(さわん)にマリッジリング

殺しの左腕(さわん)にマリッジリング

「ああ!畜生!何でこんな目に!」
地下駐車場。ガトリングの弾を浴び、背中を預けるコンクリート柱は端からじわじわと削られていく。
「おじさまがスケベだからじゃないかしら」
「まだ20代だ!畜生!写真じゃボインだったのに!騙された!」
家出少女の助けてメッセージ(ボインの写真付き!)を受けて、親切にも車で迎えに来たらこのザマだ。待っていたのは身なりはいいが貧相な少女とガトリングガン。車はとっくにお釈迦

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ネゴ!ネゴ!ネゴ!

ネゴ!ネゴ!ネゴ!

ZAP!ZAP!ZAP!
ZAP!KABOOM!
「あーあー。聴こえるかい?木星解放戦線の諸君」
『ザザッ……我々…ここカリストで…神聖なる木…ザッ……ザーーッ、プッ』
「ボスぅ、電波切れたよぉ」
「がんばれキャリコ!がんばれ!繋ぎ直せ!俺はもうこれ以上戦場に踏み込むのヤダぜ!」
ZAP!ZAP!ZAP!ZAP!
頭の上をひっきりなしにレーザーが飛び交う中、ボサボサ頭の少女は、鼻歌混じりに背負式巨

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魔法少女(少年)は邪神と別れたい

『ぼくと契約して魔法少女になってよ!』
あの日、僕は魔法少女になった。

そう、あの日。
夏の輝く太陽が、喧しい蝉の鳴き声が、暑い空気が、全てが唐突に消え失せた空間。
何もない空から、ソレはズルリと落ちてきて、べチャリと地面に張り付いた。
大きさは人間の子どもくらい。その見た目は控えめに言っても腐り溶けた海産物と粘菌の集合体。大きな一ツ目と無数の小さな目がこちらを見ている。
吐き気を催す臭いを

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Vの庭先で肉食を

Vの庭先で肉食を

「姐さん、お客です」
「通せ」
客=鼻と口をハンカチで覆ったインテリ士官は、心底嫌そうに天幕の入口をくぐる。
「やあスチェッキン。ご用件は?」

「昨日からヴィ連軍の進軍が停止していることは?」
「知ってる知ってる。何があった?」
「“牛の盾”です」
「牛かあ!」
喜色を隠そうともしないアリサカに、スチェッキンは軽蔑の色を深くする。
「卑劣な策です。なんとかして頂きたい」
「なんとかね」
「我々

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アイドル♡うぉーず

アイドル♡うぉーず

「バルメ!ステアー!無事!?」
「なんとか~」
「こんなんで死ぬかぁ!」
日が暮れる。今日はもう襲撃(ライブ)はないだろう。
中堅アイドル“スプリングフィールド”のリーダー、ガリルはメンバーの生存に安堵する。
今日は凌げた。だが明日は?
自由アイドル同盟“リベレーター”に救援を要請しているが、所詮はジリ貧の烏合の集。いつになることか。
「AKのションベン弾なんか当たりませんよ~」
「アイドルがショ

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実家で土星を見る話

実家で土星を見る話

「じいちゃんが倒れた!?」
『今朝畑で倒れてるのを南部のおじちゃんが見つけてくれてね。あんたも知ってるでしょ南部のおじちゃん毎朝ミニミちゃんの散歩で』
「いや知らんよ!それよりじいちゃんは!?」
『しばらく入院だって』
「なんだ生きてんじゃないのビックリしたあ」
『人騒がせよねえ。あ、そうそう先生が言うにはね、夏は越せないだろうって』
「は?」
は?
何言ってんだ我が母は。じいちゃんがもうすぐ死ぬ

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カフェ・ナインへようこそ!

カフェ・ナインへようこそ!

…珈琲の香り…?
「おっ、目が覚めたみてえだぞ!」
眩しい…ここはどこだろう。
「大丈夫か兵隊さん。あんた脱出艇で落ちてきたんだ。おうウージー、ベレッタちゃんに頼んで水もらってこい」
数人の農作業姿の男性がこちらを覗き込んでいる。
「ここ…は?」
「ここか?ここはガニメデの」
「カフェ・ナインですよぉ。はいお水どーぞ。私は店主のベレッタです」
「タイプM92!?」
ベレッタと名乗った女性型ドロイド

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