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[後編]”私たちはまだ弱さをうまく愛せないでいる”頑張りすぎなくていい居場所と作品づくりを。脚本家 板野侑衣子さん

ご訪問いただきましてありがとうございます。いま注目したい、多様な女性の生き様に女性執行役員 藤井が本音で迫ります!!今回は20代の若い女性脚本家、板野侑衣子(ゆいこ)さんにお話を伺いました。

インタビューの内容は、前編と後編に分けてお送りします!今回は後編です。

前編はこちら


今回の案内人

板野侑衣子(いたの ゆいこ)さん
同志社女子大学 学芸学部メディア創造学科卒。
現在はJiGiY worksに所属しながら、フリーランスとして映画業界で活躍されています。
『魚の目』監督・脚本 劇場公開/田辺・弁慶映画祭 キネマイスター賞/関西学生映画祭 グランプリ/京都国際学生映画祭 最終審査員 行定勲賞/シアターセブン、テアトル新宿、シネリーブル梅田にて上映。『煙とウララ』監督・脚本『魚の目』と同時劇場公開。『さめざめと、』監督・脚本・主演 神戸インディペンデント映画 KOBE チョイス/TBS 22nd Digicon6 JPAN 優秀作品/恵那 峡映画祭 実行委員特別賞 『知らない先輩の顔』監督・脚本

この道を選んだ板野さんの生き様にフォーカス!
作品への向き合い方や、生み出し方についてもお聞きしました。

2024/2/23の記事です。


22歳:大学卒業、フリーランスへの挑戦


ーー大学では周りが企業に就職をする中、板野さんはフリーランスに挑戦されています。なぜこの選択をされたのですか?

板野:実は芸術大学の院を受験する予定だったので、就活はしていなかったんですよね。芸大の受験勉強をしながら、就活もすればよかったのですが、テアトルでの作品上映時期も重なり、正直難しかった。

会社員として働くのは興味はありました。受験して落ちた時のことも考えなきゃいけないですし。社会人でも学生でもない人になるということですよね。落ちたら急に ポンって社会に追い出される不安がありました。
映像業界は辞めていく人も多く、人手がないため仕事は選ばなきゃあると聞いていました。有り難いことに大学時代からお仕事があったり、東京の知り合いがいたため「仕事はもらえるだろう!」という、変な自信がありましたね。

ーー映画業界で働いてみての印象は?

板野:まだまだブラック。映画業界の労働環境を守るために「映適」(日本映画制作適正化機構)があります。適応されている現場ではハラスメント講習が事前に行われたり、2週間に1回完全休業日が設けられます。しかし、その映適も適用されてない映画がほとんど。2週間に1度の休みも保証されないことになります。

撮影がおわっても、ホテルに帰って夜中に作業することもあります。朝は早く、夜は遅い。寝る時間がギリギリあるかないか、みたいな。正直なところ休みは全くありません。

フリーランスは労働基準法に当てはまらないので、労働時間や休みの保障がない。好きだけれども、見合わない時間と貸金。若いから仕方ないけど、でもそれじゃ生きていけないし、体も心も壊れます。人も育たないままです。

働く人に恵まれないことも現場によってはあります。毎朝挨拶しても返されないとか、人前で「お前は仕事できない」って言われることもありました。殴ったり蹴ったりのようなパワハラも現場によってはあるみたいです。確かに実力がまだまだだから仕方ないけど、そりゃみんな辞めていくよなと。

フリーランスだからもっと自由でもいいはずなんですが、変に会社っぽい部分もあるというか。例えば、上司が帰るまでは帰らないみたいな習慣とか。尊敬する気持ちがあり残るならまだしも、萎縮からくるものならば効率も悪いし最悪だなと思います。

フリーランスでの働き方


板野:何がいいって仕事の時間や、曜日を自分で決められること。毎日出社して同じことの繰り返しじゃないっていうことに、フリーランスである喜びを覚えています。蓋開けてみたらすっごい大変ですけど。

フリーランスになって将来の仕事とプライベートが不安にはなりますね。まだ1年目で慣れない部分もあります。仕事面では、毎回自分で探さなきゃいけないことが大変です。お仕事の話は来ても休みがあるか、スケジュールが調整できるか、お金がちゃんともらえるのかを自分で見極めなければいけません。来月の家賃を払えるかがすべて自分の決断次第です。

仕事も何でもいいわけじゃなくて、将来やりたいことに対しての仕事であるべきだし、お金が少なくてもやりたいことに繋がるのか、でもお金はなきゃ生活できないというしがらみはあります

プライベートでは、休みはないから友達には会えないし、どんどん減っていく。不安でぐるぐる考えて眠れない夜もあります。涙も出てきます。ただ、これは間違った寂しさだって毎回心に言い聞かせています。

フリーランスであることを、1回やめてもいいのかなと思ってたんですよ

板野:現場を1つ終えたときに、もう無理だと思って就職しようと思いました。ただどこの業界に行ったって、 どこで生活してたって、クソみたいな人間とクソみたいな出来事は絶対起こる。だったら自分が今やりたいことをやれる場所で、目の前のことをやるしかない。それでもクソだなって思ったら、やめればいい、それは逃げじゃない。時間の中でできることは限られているけれど、どれも諦めてたまるかよ!

脚本を書くことについて


ーー脚本を書く面白さとは?

板野:最初の骨組みになる部分を自分で考えられることです。物語が始まって終わるまでを自分で生み出せます。例えば身の回りにある社会現象、悩みから物語を創れること。登場人物が苦悩からゴールまで、どう変化をさせるか自分で決められるわけじゃないですか。それが魅力的だと感じています。

ーー脚本の仕事とは?

板野:原作がある場合は、良さを失わずに書けるかが脚本家としての仕事だと思います。0から1を生み出す作業の、最初の部分かな。 生活の中での断片同士が繋がった時に1つの話ができます。その繋がる感覚が好きです。

ーー社会の中で感じた断片から、ピースが繋がるような感覚ですか?

板野:私が文章書く時は大概日常で起こった出来事と、社会現象、ニュースから思い起こします。その中で共通することがあるじゃないですか。一見全然違う話なんだけど共通してることに気付いて、新しい解釈を生む考え方なんです。

人に教えてもらったことがあるのは
「ワインとウサギで共通するもの何か」ですね。

ーー赤と白…?

板野:そうです!ウサギとワインって全然共通項がないけど、色という部分では共通点がありますよね。物事に対して知っていることがいくつあるか。ウサギとワインに共通点がなかったとしても、違う観点で見れば繋がるところがあります。見えてるところだけではなくどれだけ多面的に捉えられるか。経験をしているか。

本を読むなら、ただ本を読むだけじゃダメなんですよね。細部化して細かくジャンル分けをします。怒りという感情でも分けられますね。怒りについての辞書を作るイメージです。蓄え、経験して、知識として知ってるかどうかをしてないと、うすっぺらい内容になります。
「漫画」であれば、漫画はそもそもどういうものか。原作の背景、書いた人の 人となり まで見なきゃいけないと思うんです。書く時この人はこういうことを考えてつくる人なんだな、じゃあきっと感情はこうだろうと汲み取って、解釈し、咀嚼する作業が必要です。そういうことを日常の中で苦なくやっています。

ーー作品の納得のいくラインは、永遠とこないのでは?

板野:締め切りがそうさせます(笑)  脚本って引き算だから、私がどれだけ知識持ってて詰め込みたくなっても、引かなきゃいけないんです。内容の軸もそうだし、費用面でも検討をします。雨降らすのに1回50万円かかるんだよって言われて、雨降らすのをやめたこともあります。

読んでいるあなたへ


板野:将来何になればいいか悩んでる人に言いたい。
何が好きでそうしてるのかを見つけた方がいいと思います。

例えばコックさん。一流になりたいという夢があるとします。だけど料理を作ることが好きなわけじゃないかもしれない。人気料理店になれなかったとしても、自分の家族、好きな人に美味しい料理を食べてもらえるって嬉しいですよね。

誰のために作るのが好きなのか?お店に来てくれる人が自分にとってのお客さんなのか?大事な人に振る舞える料理だったら満足なのか?色々あると思うんですよ。

それと同じように映画を見るのが好きなのか。つくることが好きなのか。

私は将来、脚本家に今なりたいって思っているけど、元々はメモを書くことで満足していました。 大切な人や遠くにいる人に手紙を書くことでも、満足できます。やりたいことはシンプル。書くことが好きなんです。お金にはならないかもしれないけど、それが一生できるんだったら仕事ってなんでもいいのかもしれないって思うんです、あり方としては。

考え続けることはやめてはいけない


板野:対「人」であることを忘れるのが1番怖いです。パワハラ気味の方と会ったときも「誰と喋ってるんだ」と疑問に思います。

年下で女性だからかもしれませんが、あなたの目の前にいるのは初めて会った人間じゃないのか。 どんな人間でも、どんな立ち位置で、どんな職業で、どんな国籍の人だろうと、見下していい人はいません。

今、私はあなたと喋ってますっていう状況を失ってしまうと、思いやりがなくなっちゃうと思うんですよ。それを失うような人間でありたくないから、気を使うんですよね。その分考えなきゃいけないこともあるし、反省することもある。健康的に考えるために健康的に過ごす。そのためには、体が健康じゃないといけない。心の健康は、体の不調からやってきます。

自分のことを1番自分が大切にしてあげられるように。それは人を大切にすることになります。この生活をなるべく過ごしたいと思っています。

ーーこの年齢だからかもしれませんが、見下す大人の方もある一定数いますよね。

板野:私ってどちらかと言うと、結構わがままで生意気な方だと思うんですよ。なるべく相手と対等に立とうとすると、そうなるんですよね。下に見てくるんだったら、上にいこうと調整をしてます。

結局いろんな目線に立てる人が1番強い。今は20代だけど、40代の考え方も納得できるし、否定するのはもったいないから考え方を理解してあげて、その上で自分の目線で立ちたい。

ーー日々の中で紐づけて解釈することは、重要なことだと思っています。私は社会人になった時に、脳が死んだ感覚がありました。考えることをやめたんです。それが1番まずいと感じました。脚本を書くことに限らず、 頭の思考を止めないことは大事なことですよね。

私も思考停止している時があります。心が先に死んでいるんですよね。常に考えられているわけではなくて、何も考えず過ごす時間があります。癒す時間をちゃんと設けることだと思っています。

ーー頭が働かない時間は、板野さんにとっては癒しなんですね。

板野:何も考えなくていい時間に近いと思います。ずっと考えなきゃいけないのはしんどいじゃないですか。

時間を作るっていうのは、ちゃんと1日休む。 運動してみる、美味しいもの食べる、銭湯行って何も考えずぼーっとする。その間はもう一切、別のことは考えない。お金かかっても、自分の体と心が回復するんだったらやった方がいいです。

うまく息を抜くっていうのを、多分若いうちって知らないんだと思います。周りには大人が多くて、うまく息を抜いている人を見て、いい切り替えはいいマインドになると気づきました。


『居場所。 ひとりぼっちの自分を好きになる12の「しないこと」』という本がおすすめ


板野:自分の居場所をたくさん確保した方が、自分の心の安定に繋がるよという話です。大丈夫でいられる場所をたくさん作ると、不安も和らぐんじゃないかな。

私はそういう場所でありたいとも思います。「大丈夫だよ」って言ってあげられる人になりたい。そういう自分になれるんだったら、この業界ではもうちょっと頑張ってもいいかなと思います。


編集後記


板野さんとは同じ学部、ゼミに所属。話すようになったきっかけは、48時間で映画をつくるコンペで一緒に映画制作をしたことでした。年上の先輩にもまったく物怖じせず、はっきりと伝えてくれる板野さんの姿勢が印象的でとても好きです。
今回の取材を通して、板野さんの芯の強さをさらに感じましたが、一方でこれまで見えなかった弱さと向き合う姿勢も見えました。映画業界に入り、実力社会の中で闘っていく板野さんの姿がたくましい。彼女といっしょに頑張っていこうと思います。

取材にご協力いただきました板野さん、
ここまで長文を読んでいただいた皆様、ありがとうございました!

次の記事でお会いしましょう♪

現在こちらの2作品はU-NEXTで配信、2024年1月10日からアメリカ、イギリスのAmazonプライムで『魚の目』が配信開始されました。

【オハイアリイ〜自分らしさ〜】

いま注目したい、多様な女性の生き様に
女性執行役員 藤井が本音で迫ります。


現在24歳、社会人3年目となる藤井ですが、
キャリアに対するさまざまな疑問と不安を抱えています。キャリアについての悩みは共通テーマだと考えております。そんな私と同じ悩みを持つ方々に、同じ女性として、本音かで生き様・生き方について迫り、新たな考えを知るきっかけを提供したいと思います。
皆さんのライフワークについて考えてもらえるきっかけになれば嬉しいです!!

インタビュアーについて

藤井真鈴(ふじいまりん)1999年生まれ
株式会社イザン・執行役員/女性初3D撮影技師

幼少期に琵琶湖で溺れて死にかけた経験から、悔いのない生き方について考える。新卒入社した企業を3ヶ月目で退職し、ユニークに働くためイザンに入社。多様なキャリアを考えるきっかけづくりに専念。長期インターンシッププログラム「たいせつアーカイブス」運営。
Linkedin(毎日更新してます)

株式会社イザン
「Be unique!」をテーマにメディアテクノロジー事業 と旅応援事業を展開。コロナ前からオフィスレス。それぞれのユニークを大切にする、ちょっと変わった会社です。

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