この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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きみはごめんを言わせてくれない

2人きりで会う約束だったのに段取りミスって3人になっちゃった時とか、お泊まりができなくなっちゃった時とか、きみはよくだまって帰った。 ちょっとコンビニ行って帰ってきたら部屋がもぬけの殻だったりして、ごめんも埋め合わせするねも言わせてくれない。 あとからLINEで「さっきはごめん」って送るんだけど、きみは絶対スルーするよね。 そして何事もなかったように次の会話をはじめてしまう。 でも、わたしはきみのそういうところがずっと好きで、だから5年も友人をやっているのだと思う。

    • 春にほだされんな

      春生まれのきみの指先がつめたいこと。そのことについてかんがえる。 あたたかさってゆるさだ。春のやわらかな日差しのなかで、孤独や空虚さがほだされていく。無条件の幸福が、木々をさくら色にかえて、花びらが悲哀に降り積もって蓋をする。自己の溶解。 春が、 愛しかったあの寂寞を単純な愛へと変えてしまう。   春が、 きみだけの小さな涙を単純な感動へとかえてしまう。 4月はうららかな侵略者だ。うららかな春の陽気のなかで、空虚さも孤独もその輪郭がとろけてゆく。ひらかれる境界線をこえ

      • オールオーケーになるよ、春だし

        あの日の横着や、積み重ねた怠惰によって錆びついてしまっている自分の可動域というものが誰しもあって、他の人たちが苦しみながら何かを獲得していた時期に、しずかに座っていることしかできないような時間が必然的に大きな穴をつくる。 たとえば自転車の乗り方や、国語辞典の引き方、身近な植物や山、道の名前を覚えることや、ふたり分のご飯の作り方とか。人との健康的な距離の保ち方、あるいは、人とまっすぐ真剣に向き合う仕方みたいなもの。 かつてなんとなく楽をしていたことが、大きな欠落となって、ゆ

        • もっと鷹揚な愛情

          なんでも言葉にすればいいと思っていた頃もあったけど、言葉にだすと意味が変わってしまうこともあるとわかったから、正しく伝える方法が見つかるまでしっかりと口を紡いでおこうと思った。 恋愛映画とか友情ドラマとか、言葉を交わさないことによって生じる"転"がいつも付き纏っていて、その幼少期の記憶が私たちを言語コミュニケーションに縛り付けてるんじゃないかなと思う。 話せばわかるとか、言葉にしなきゃ伝わらないとかいうけど、でも本当にそうだろうか。 発話は、いつでも要求をはらんでしまう。

        きみはごめんを言わせてくれない

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          『PERFECT DAYS 』が孕む危うさについて

          (ネタバレです) 途中までは、気分のいい映画だと思ってみていた。軽快なジャズからはじまる「丁寧な生活」。「幸せってお金じゃないよね」的美徳。 彼が口角を少しあげてにこっと笑うあのキュートな仕草に、つられてわたしも笑顔になる。 でも、彼が現像した写真を押入れに仕舞い込む場面で、思わずぞっとしてしまった。 あまりに几帳面すぎるのだ。綺麗に並べられているだけではなくて、ひとつひとつのアルミ缶はすべて同じ種類で同じ色、あげくご丁寧に撮影した年月まで記入されている。 そんなに写真が

          『PERFECT DAYS 』が孕む危うさについて

          3月3日(日)

          水族館がすきで、ちいさなころはよく水族館へ通った。暗い室内で魚の鱗がきらきら光るのを見るのがすき。海の生き物たちについて勉強したかったから大学では生物学を専攻したんだけど、尊敬する教授に水族館ってのは生命倫理上いかがなものか、って言われちゃって愕然とした。た、たしかにそうかも、海の生き物たちがかわいそうかも、とか急に思い始めちゃって、実に単純な私。 単純な私はそのまま大学を中退して、ガラス工芸の道に進むことにする。ふゆは網走で流氷探検ガイドツアーの派遣社員として砕氷船の行手に

          3月3日(日)

          2月27日(火)

          「悲しかった」ってきみは言った。 "っ"の音が何かを飛ばしてしまう。大切にしていたもの、愛情、ブラックコーヒーに注ぐミルクの量、思い出、スキップされていく。 「悲しかった」? 「悲しい」のではなくて? ああ、わたしはそのことがほんとうに悲しい。

          2月27日(火)

          1月3日(水)

          帰るのが惜しくて飲み干せなかったコーヒーが冷めていく。それは離別のためのほろ苦さだった。 ちいさな半券をもらったような気持ちだ。晴れた日だったし、心地の良い風も吹いていた。だからそれを額縁に閉じて、ずっと眺めていようと思った。 やってくるものが朝日かどうかもわからずに祈った。膝を折ると、それはそのまま祈りで、水面に反射する光が眩しい。信じたところで転がり落ちてゆく世界だったけれど、光はあったので僕は祈った。 傷の舐め合いみたいな喫煙所がきらい。同情の匂いのする煙が鼻を刺

          1月3日(水)

          圧倒的正義 - オラファー・エリアソン展 -

          美しいものがつくれるって、素晴らしいなと感嘆してしまった。 ほんとうは、崇高な理念や理想を掲げているという、ただそれだけで素晴らしくあるべきで、実際素晴らしいと思う。 自由とか平等とか平和とか、自然との共生とか、愛とか、そうしたことが根底にあるというだけで、すべてのものはほんとうに尊い。 でも、O.エリアソンがつくる作品を見てしまうと、そうした素晴らしさがなんだか少しぼやけてしまうように感じる。 とてつもなく煌めく球体が回り続ける時の、移ろいゆく影が重なり合う時の、そ

          圧倒的正義 - オラファー・エリアソン展 -

          いちばんかわいい

          いつもいつだって、ズボンの丈がすこし足りない。 足がおおきくて男子用のローファーを買った。 ほんとうは、ヒールのついたやつが履きたかった。 いつもいつだって、着たい服は少し小さく、丈は少し足りない。どうしようもないことだ。 でも、だから、 いつも持ち歩く鍵につけるキーホルダーだけは、かわいいと思ったものにできるだけ正直でいようとしている。 あのかわいいパンプスも、しゃんとしたスラックスも、わたしには着れないけれど、鍵につける小さなお守りくらいは好きなものを身につけたいと

          いちばんかわいい

          12月1日(金)

          プロモーションが上手いことだけが正義として一人歩きをしている。真実かどうかとか、優しさがどうだとか、そういう不器用な悩み事はぜんぶなかったことにされてしまって、真珠みたいな球体だけが浜辺できらきらと光っている。無遠慮に踏み込んでくる貴方の足の裏にちょっとの傷を負わせるくらいには、わたし、鋭いつもりでいます。柔らかくて角のないところだけを愛でているから、皮膚がどんどん薄くなる。お腹をこちらに向けて転がる犬みたいに厚かましい信頼で、やがてあなたは臓器までをも無防備に曝け出すのだろ

          12月1日(金)

          あなたの誕生日を、来年のぶんも再来年のぶんもカレンダーにいれた。 それは私にとっては決意で、約束だった。

          あなたの誕生日を、来年のぶんも再来年のぶんもカレンダーにいれた。 それは私にとっては決意で、約束だった。

          11月24日(金)

          香水 他人のかおりが手首から漂う。 さみしいのがばれてしまったかのよう。 日差しの中でいちじく色のカーテンをまとうみたいに、肌は重たい衣をまとう。気をつけないと裾が地面についてしまうから、わたしずっと回っていた。自転をして、そうすればこの生活がずっと続いていくかのように。新しく、重たく、意味を持つのはいつも一瞬だけで、結局はただの砂に帰ってゆく。好きだと思ったあのパチュリの香りも、いまはもう枯れ果ててしまった。わたしがこうやって生きている限り、他者は他者でなくなり続け、日差

          11月24日(金)

          11月17日(金)

          本物はあまりに綺麗すぎるから、水面に揺れる月で精一杯だった。鏡に反射させた光をつないで、照らす先がわたしであること、なんだか申し訳ない。人工物と人工物との間をぬってあるくと、青い匂いも、ついぞたどれなくなってしまった。生やすことのできない月桂樹の種なんかを持て余している。あるけばあるくほど、ときみが呆れて呟いている間も、わたしはずっと、頭上の枯れ枝にとまる一羽の鳥だった。暗い夜だ。暗さがきみの言葉を頬張ってゆく。吐き出される白い息や、震える指先や、赤く染まった耳なんかを全部食

          11月17日(金)

          11月9日(木)

          僕の表皮は異様に冷えていて、それが良かっただけだろうか。ほてった心を落ち着かせるだけの単なる国語辞典の僕。かわいいって言って、書かれた単語の一つ一つを齧って欲しかった。

          11月9日(木)

          10月15日(月)

          閉じられた部屋のなかでも、燃え続ける炎があるならよかった。締め切ったカーテンが冬の訪れを堰き止めている間に、花びらの欠けない世界をつくりたかった。愛や、永遠や、生きることの情けのない正しさが大通りを凱旋する。叫びと情熱が私の前を通り過ぎた頃、この部屋はとても寒くなる。暖炉、ブランケット、人の吐息。煩わしさのなかで手放した数々の情念たち。つぶやいた言葉がそこらじゅうに散らばって、結局のところ私の小さな花は朽ちてしまうのだろう。古いステレオを胸に押し付けても、私の身体はつめたく振

          10月15日(月)