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10:実験小説!熟年離婚フラグ[B面](鮭の章)

[UMIYAMA_st: フォロワーの皆さん、おはようございます!「毎日が産直フェア」がコンセプトの『海山市場ショッピングタウン』です。今日も元気にオープンしています。ただ今、全店で「東北駅弁フェア」実施中!ご来店お待ちしておりま〜す♪ ** #海山市場 **]
[なぬ!駅弁フェアとな!これは行かねば!それに今日の試食販売は何じゃろ〜?]
[夫の習慣なんてそうそう変わらない]
[たまに優しい言葉かけてくれたって、すぐに元通り。いい気分は一日ぐらいしかもたなかった]
[むくり…腹へった〜]

[UMIYAMA_st: 海の幸山の幸に特化した超スーパーマーケット『海山市場ショッピングタウン』です。産地直送の食材をPRする試食販売も大人気!今日の茜店・試食販売は「宮城産の銀鮭」を使って「ちゃんちゃん焼き」でーす!午後4時開始予定。なくなり次第終了ですので、お早めにどうぞ〜!]
[銀鮭のちゃんちゃん焼きだって〜♪うまそう!]
[夫が買い物についてくるようになった。邪魔。うちで新聞切り抜いていればいいのに]
[琥珀店が近所にあるんだが、これは隣町の茜店に行くしかないぞ!鮭のちゃんちゃん焼きぃ〜!]
[あそこの試食販売はそこらの店よりも数倍うまい!]
[試食実演販売といえばあのコンビが来る!]
[せっかくの息抜きなのに。一人でゆっくり買い物したい]

[UMIYAMA_st: 海山商社本社の社員ですwwやさしくしてやって下さいね。食材の知識と料理の腕は確かです。 RT @RED_QT 試食実演販売といえばあのコンビが来る! ** #海山市場 ** ]
[海山市場なう!ちゃんちゃん焼き、探しちう〜!]

「ちょっと! 生のさんまをそんなにいじらないでいただけません? さんまに傷がつくじゃないですか ……ちょっと、ちょっと! トングを氷水の中に放り出して……拾えないじゃない!」
「あなたですよっ! 知らんぷりして……ひどいわよっ!」

[海山市場茜店なう。おばさん強し。見知らぬ迷惑じいさんを一喝。しかし、じいさん注意されて、ヘソ曲げてプイッと行っちゃったよ。残されたおばさん、怒髪天ちう〜]

「もう、トングが取れないじゃない! 店員さん……ちょっと店員さん! トングをあの人が放り投げちゃって……そう。ひどいと思いません? あ、取り替えてくれるの。早くしてよね」

[どっちもどっちだな。じじい、ムッとして行っちゃうし、おばはん声デカっ!店員さん、かわいそ]
[ゆっくり試食販売見たいのに。夫がうろうろしてると心置きなく楽しめない]
[さっき見たじじいと同一人物かなぁ〜。切り身をパックの上からぐいぐい指で押して、他の客から注意されて、逆ギレしてたぞ。「身の弾力を見て、どこが悪い」って]
[60代ぐらい?どっかの会社の部長みたいな偉そうな態度のじいさんなら見たよ]
[そういう人いた!店員に何か怒ってたの見たよ]
[定年退職したばっかなのかな。会社での立場が抜けきらない人っているよね〜。私ら、あんたの部下じゃないつーの!]
[相談もしないで、自分の欲しい物持ってきて黙ってカゴに入れていく」
[悲しきサラリーマンの性!ああ、考えたくなーい!今は、銀鮭のこと。ちゃんちゃん焼きのことだけ考えたーい]
[置いてさっさと帰ろうか]

「いらっしゃいませ! ただ今より宮城で水揚げされた銀鮭のちゃんちゃん焼き実演調理を始めさせていただきます。皆様ぜひ、ご試食くださいませ。おいしかったらぜひご自宅で作ってみてくださいね〜」

[始まった!海山市場ショッピングタウン名物、試食販売漫才〜!]
[漫才てwww爆笑は巻き起こらんぞー]
[ちょっとレスしないよ。これから試食販売に集中する]

「あら、家でちゃんちゃん焼きなんて、作るの面倒じゃないのぉ〜?」
「いえ〜、フライパン一つで簡単にできるちゃんちゃん焼きなのぉ〜。あとで僕が作ったレシピ差し上げるのぉ〜」
「まぁ、それは嬉しいわ!」

[おばはん、テレビショッピングのサクラかよwww]
[それにしてもいつもながら、あのおっとり喋りが面白い。あれでよく商社勤めwww]

「今日は2〜3人分用のレシピですが、何回も作りますからね。なくなり次第終了ですからご了承下さいねー。銀鮭のちゃんちゃん焼きは、鮭だけじゃなくて、野菜を一緒にたっぷり食べられるから栄養バランスもいいし、ご飯にピッタリですよね。まぁ、魚は何でもご飯にピッタリなんですけどね〜」

[お、まずまずのツカミ。しかし、その通りなり。日本人は魚食で和食。ご飯と魚介類]
[豆類もね〜。あと発酵食品も!]
[やめwww言い出すとキリない]

「まずは野菜なのお〜。ここにあるのに限らず、好きな野菜……冷蔵庫に余ってる野菜でもいいの〜。キャベツは手でちぎってテキトーな大きさにして、ピーマンはタテに切って、にんじんは薄切りにぃ〜。にんじんはね、火が通りにくいから薄切りがいいの〜。ネギはナナメ切りにしておいてねぇ〜。少し太めがいいの〜」
「こいつは太りすぎですけどね〜!」
「あっ、これでも20キロ痩せたの〜。お魚はダイエットにピッタリなの〜」

[ココ、笑うとこ?]
[でも、おばはん達ウケとる]
[レベル低っ]
[そこがこのコンビのいいところじゃん]

「あとは、もやし1袋ね〜。今日はキノコは入れないけど、舞茸やえのきを入れてもおいしいの〜。それから…ここで主役登場。ジャーン!」
「出ました! 銀鮭の切り身! おいしそうでしょ〜。この、身のオレンジ色きれいでしょう。この色が濃いものを選ぶのがコツなんですよ」

[今さらwwトーゼンの情報。脂肪が白い筋状に入っているものとか…あと、弾力がいいもの!]
[さっきのじじい、合ってんじゃん]
[行動としては非常識だよ!パックの上から押すのはマナー違反!]

「皮が銀色に光ってるのも選ぶ時のポイントですよ。もちろん、ウロコがはがれてない方がいいですね」
「最初にね〜鮭の骨は取れるところは取っておくといいの〜。そして、味を決める調味料〜! ココ、大事なのぉ〜」

[ココ、大事なのぉ〜♪癒されるのぉ〜www]

「味噌大さじ3、みりん大さじ1、酒大さじ2、醤油小さじ2、砂糖大さじ2、それからすりおろしたニンニク1片。好みで増やしてもいいの〜。これを最初に混ぜ合わせておいてねぇ〜」
「はい、ホットプレート登場です。ココではやむを得ずホットプレートですけど、お家ではフライパン一つで簡単に作れるからご安心を!」

[大人の事情〜!]
[大人はカンケーないべww]

「熱したところにバターを落としてぇ〜バターが溶け出したら……ジャーン! 銀鮭ちゃんの切り身ぃ〜!」

[はい、拍手〜888888888]
[待ってました!]

「銀鮭の切り身は食べやすい大きさに切っておいてもいいの〜。両面焼いて、塩こしょうして〜!」

[ああ〜!いい匂いしてきた〜!]
[キター!たまらん!]

「焼き色が付いたかな?ある程度、鮭に火が通ったらぁ〜! 一気に〜ここで〜!」
「ここで〜!」

[ここで〜!]
[ここで〜!]
[ここで〜!]

「はいっ! 野菜投入〜っ!」
「さっき切っておいた野菜、ぜぇんぶ入れるの〜♪」

[いったー!]
[まだまだっ!炒めが肝心ですよ]

「はい!野菜がしんなりするまで、私から鮭のおもしろ情報をお知らせしましょう!」

[出ました!]
[こいつの情報はためになるんだぜ〜]

「皆さん、鮭と鱒(ます)の違いってお分かりになりますか?」
「鮭は鮭でしょ? そこで焼いてる……銀鮭とか紅鮭とか。鱒はさっきあったわよ、鱒の寿司……」
「鮭は川で生まれて、海で育って、川に帰るんでしょ。鱒は一生、川にいる川魚だし……」

[あのおばはん達、しゃしゃり出る出る!]
[ホントに仕込みなんじゃない?ww]

「はい、おっしゃる通り。一般的には、川から海に下っていくものを『鮭、サーモン』といい、海へ下らずに川や湖などで過ごすものを『鱒、トラウト』と呼びますね。日本の食品衛生法ではそういう区別基準で表示する義務があります」
「ほら、当たった〜!」
「斎藤さん、物知りね〜」
「でも、サクラマス、カラフトマス、マスノスケは鱒と呼んでいるのに海へ下ります。これはどうでしょう」
「そ、それは……」

[ざまwww]
[みんな、ちょっと笑い我慢だよ!]
[してやったりだぜ!]

「いえ……皆さん、意外にご存じない方多いですが、鮭と鱒の名称の違いにあまり生物学的な意味合いはないんです。日本では明治以前、鮭といえばシロザケのことで、鱒といえばサクラマスのことだったんです。そこに英語圏がやって来て、サーモンとトラウトという英語を当てはめていったところからワケが分からなくなってるんです。それまでイギリス人と日本人が知らなかったサケ類……新しい種類が発見されるごとに鮭と鱒に振り分けてどんどん名前をつけていったら、生物学的な分類とはかけ離れたものになってしまったんですね」

[へぇ〜!鮭鱒うんちく]
[ごちゃごちゃ〜!]
[勉強になるなー。この雑学、どこで披露しようかな]
[そして…女子にドン引きされることウケアイ!]

「消費者に分かりやすいようにすべきよ! 抗議してやりましょう!」
「そうよ! そうよ!」

[どこに?www]
[出た!ワケも分からず、とりあえずクレーマー!]
[こういうおばはんがクレーマーだったのか]

「さっき言った海へ下るか下らないかの生態や大きさ、身の色ではハッキリと区別できる基準はありません。厳密じゃないんですよ。呼び方でとりあえず鮭、鱒と区別しているだけなんです」
「じゃあ、消費者はどうすりゃいいのよ!」
「ど、どうもしなくていいです。ただ、知っておいてください。鮭も鱒も同じサケ科だということを……」
「同じ種類……私たちは長年騙されてたのねっ!」
「だ……誰も騙してはいませんから……。抗議なんてしないでくださいね」
「でも、鮭も鱒もおいしいのぉ〜! 日本の鮭鱒の食べ方は世界一なのぉ〜! さぁ、野菜がしんなりしたところで調味料を投入するのぉ〜!」

[さすが!いいこと言った!]
[投入するのぉ〜♪]
[じゅうううううううう!]
[きゃ〜☆一気にいい匂いよ〜!早く食べたい食べたい!]
[たまんねー!]

「ココで大事なポイント! 野菜から水分がたっぷり出ますがある程度捨ててください」
「これは、出来上がりが水っぽくならないようになのぉ〜。ここでは危ないから、きれいなキッチンペーパーで水分を吸収〜!」

[なるほど!メモメモ!]
[うわー、うまそう!早く早く!]
[早くくれー!]

「はい、全体に味がからまったところで完成なのぉ〜♪」

[やったー!完成なのぉ〜♪]
[こっちにもくらはい。早くくらはい]
[うまーーーい!何、これサイコー!]
[漁師料理の四天王に入る!]
[他の三天王なに?www]
[海ちゃん山ちゃん、ご馳走ありがとうちゃんって感じ]
[その「ちゃん、ちゃん」違うww]
[醤油とバターの風味、ニンニクがちょっと効いてて鮭がしっとりほくほく……いくらでも入る!]
[鮭だけにイクラでも入る?www]
[夕飯のメニューは決まったわ!]
[ご飯ほすーい]
[間髪入れず、次の調理に入ってるなんてさすが!]

「鮭のホイル焼きも簡単ですが、野菜とともにどっさり食べるならちゃんちゃん焼きが一番! ぜひ、今夜のおかずにいかがですか〜?」
「あっ、ありがとうございますなのぉ〜。そう言っていただけるととっても嬉しいのぉ〜。あっ、こちらのお客様もまだまだ作るから待っててねぇ〜!」
「お買い上げ、ありがとうございます」

[あのおばはん達、またもらう気満々]
[リピーター過ぎ!]
[夫がまた勝手にカゴに入れていった。自分の欲しい物ばかり。こんなに食べられるわけがない。自分でカゴ持てばいいのに。そうだ、自分でカゴ持って自分でレジに行けばいいのに]

「それでは、また鮭のちゃんちゃん焼きが出来上がるまで、今度は鮭の栄養情報をお知らせしましょう。お魚は全般的に栄養たっぷりで身体にいいですが、鮭の栄養も特筆すべきものがあるんですよ。秘密はこの赤が濃いオレンジ色にあります!」

[栄養のお話…待ってました!]
[この人、こういう時、かっちょええ〜!]
[同意! ひとまわり大きく見えま〜す!]

「鮭はオキアミとかエビを食べて、それらが含んでいる赤オレンジ色の色素を体内に蓄えます。この色素をアスタキサンチンといいます。このアスタキサンチン、緑黄色野菜が多く含んでいるベータカロチンと同じカロチノイド系色素のひとつ。他の魚介類でも含んでますが……いいですか。鮭ほどアスタキサンチンを多く含む魚はないんです」
「難しくて分かんないわよ! 何に効くのか早く言いなさいよ!」

[なに、さっきからこのおばはん達…邪魔すんな!どっか行けや!]
[ちょっと、あの人たち腹立つんですけど……]

「あ……はい。アスタキサンチンは活性酸素を取り除き、動脈硬化を防ぎます。ポリフェノールじゃありませんよ。でも、働きは似てますね。毒性の強い一重項酸素の酸化反応にとても強い抗酸化力を発揮するんです。紅鮭切り身一切れの抗酸化力をビタミンEの豊富なアーモンドで摂ろうと思ったら1.1kgも食べなきゃいけません」
「そんなに!」
「はい。それに皆さん、ドコサヘキサエン酸……DHAと、エイコサペンタエン酸……EPAという2つの脂肪酸の名前は聞いたことがあるはず。これは鯖や真鰯よりは少ないですが、血液をサラサラにして、血管の若返りに役立ちます。学習・記憶能力の向上、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病などの生活習慣病の予防にいいと言われてます。それからタウリンも豊富です。コレステロールの代謝を促進したり、肝臓の強化にすぐれた効果を発揮すると話題ですね」

[鮭すげー!]
[シャケ弁恐るべし!]
[馬鹿にできないねー]
[やるやるとは思っていたがこれほどとは!]

「他には全体的に良質なたんぱく質が豊富です。骨粗鬆症や骨軟化症の予防に効果的なカルシウム、先ほど触れたビタミンA、B群、D、Eなど、貧血も防いだり……美肌づくりにはとってもいい魚なんですよ。食べない理由はどこにもありませんね」

[同意!]
[美肌〜♪]
[すごい勉強なった]

「君……君は先程、川から海に下っていくものを『鮭、サーモン』。海へ下らずに川や湖などで過ごすものを『鱒、トラウト』と呼ぶと言ったな」
「それは日本の食品衛生法で決まっている表示で……」

[さっきの迷惑じじい!]
[イチャモン!?]
[こわいっ]

「それに、鮭鱒は実は生物学的には同じ種類で、ハッキリした区別はないと言ったな」
「は……はい」
「では、これは何だ! いくら鮭鱒が同じ種類とはいえ、こんなワケの分からん魚がいるのか! 許せんぞ! 『サーモントラウト』とは何だっ!」

[水戸黄門の印籠みたいに出したぞ!]
[なんだ、なんだ!?]

「サーモントラウトですか!」
「あ〜、サーモントラウトなのねぇ〜♪」

[出たっ!サーモントラウト!]
[直訳すると、鮭鱒!]
[ネーミングセンスなし。かわいそうなお魚ちゃん]

「ちょっと、あなた何なの? さっきから店内で迷惑なことばっかりしてる老人ってあなたね!」
「警備員に言って、つまみ出してもらいましょう」
「うるさいっ! わしはこの人に聞いているだけだ! 関係ない人間は引っ込んでろ!」
「んまー! なんて言い方なの! 許せないっ!」

[ひょえー!海山市場に騒動勃発か!クレーマーおばはんvs迷惑じじいの口論なう!]
[こわい〜。おもしろーい!こわーい。笑ける〜!]
[どっちだよwww]

「あ、あの……落ち着いていただけませんか。サーモントラウトのことですよね。お答えしますから……」
「そうだ! この妙ちくりんな名前の魚について聞きたいのだ!」
「んまー、私たちを馬鹿にして怒鳴ったことについては謝りもしないのっ!」
「奥様がた〜あ。この鮭のちゃんちゃん焼きもオススメなのぉ〜♪ また違った料理の仕方で簡単美味しいのぉ〜。特別にどうぞなのぉ〜♪」
「まぁ、特別に? あら、ありがと」

[あの人、ホントに機転きく!]
[特別とか限定って言葉に弱いおばはんwww]
[サーモントラウトについて、俺も早く聞きたい]
[あの人はどこに言っても上から物言って。恥ずかしい]

「ご説明しましょう。『サーモントラウト』……日本語にすると『鮭鱒』ですね。得体の知れない魚に感じた方も今まで多かったと思います。私も初めて聞いた時には腑に落ちない感じがしました」
「わしもだ。何とも心地が悪い名前だ」
「はい……ネーミングセンスの悪さは別にしてもこれはこれで一つの種類なんです。実は『サーモントラウト』とは……海中で養殖されたニジマスのことなんです!」
「なんだと! ニジマスだと!」
「ちょっと聞いてないわよ、ニジマスなんて!」

[言ってないもんwww]
[聞かれてないからねww]
[養殖されたニジマスなのかー]
[海の中で養殖ならちょっと許せる]
[名前がやっぱやだ]

「好みがありますが、川で生涯を過ごす魚はエサの影響で泥臭くなります。海に下る魚の方が泥臭さがなくおいしく感じますよね。海中で養殖するのはこういう意味合いがあると考えます。天然物がおいしいのは当たり前ですが、工夫した養殖方法でおいしくない魚をおいしくする努力もあるんですよ」
「だからといって、この名前は紛らわしい!」
「そうよ、そうよ。消費者にもっと分かりやすくすべきよ!」

[クレーマーおばはん、じじいに同調し始めたぞ!]
[どうしても抗議する方向にもってきたいらしい]

「あの……養殖ニジマスって言って……売れるかどうか」
「売れるか売れないかなんて消費者には関係ないわよ。紛らわしいのが問題なのよ!」
「いや、わしは釈然としないのが問題だったのだが、もうそれも解明したから問題にはせん」

[あら、意外に潔いジジイww]
[お騒がせーー!]

「知るというのは大切ですよね。皆さんも正しく知って、楽しいお買い物とステキな食生活を満喫してくだ……」
「何なの、あなた! さっきから自分勝手なことばかり。まわりのことちゃんと考えなさいよ」
「そうよ、ちゃんと空気読みなさいよ!」
「空気は読むものではない! それに自分勝手な行動はそちらも同様であろう。言われる筋合いではない!」
「何ですってー! 私らが自分勝手なことをしたって言うの? こんなに世の中のことを考えて、言ってあげてるのに!」
「世の中は、そんなことは頼んではおらんだろう。期待もしてはおらん。世の中の代表みたいな顔をするのは勝手だが、こちらに押しつけるのはやめていただこう」

[じじい、言ってることごもっとも]
[あーあ、クレーマーおばはんの痛いとこ突きすぎ]
[あのコンビがおろおろしてるww]
[そりゃ、するだろ!]

「押しつけるですって。私たちはこんなに良いことを言っているのに、それが分かんないの!」
「良いか悪いか感じるのは各個人の自由だろう。そちらの行動は、自分の思い通りにいかないと怒るワガママな子供のようにしか見受けられないが……」
「な、な、なんですってーーーっ!」
「あなた、もういい加減にしてください!」

[わ!すごい!ジジイの奥さん登場なう]
[修羅場ってるの?修羅場ってるの?]

「黙って聞いていれば好きなことばっかり! 自分勝手なワガママな子供はあなたじゃありませんか!」
「ひ……弘子(ひろこ)。どうしたんだ……」
「どうしたもこうしたもありませんよ! 偉そうに語ってるワリにやってることは子供以下。何でもかんでも上から目線。あなたはもう定年退職したんですよ。もう部長じゃないんですよ! ここにいる人たちは部下でも何でもないんですからね!」
「その通りよ。奥さん、こんなダンナ別れちゃいなさいよ。ひとに偉そうに言って……」
「うるさいっ! クレーマーのばばあは黙ってなさいっ!」
「なっ……」

[奥さんがクレーマーおばはんに怒鳴ったぞ!]
[大人しそうな上品な奥さんが怒鳴った……]
[我慢の限界点を見たwww]
[ひえ〜!]
[スッとした〜。気持ちええ〜]

「こっちはこっちで話してるんです。頭のおかしくなってるおばさん達の話なんかいちいち聞いてられないわよ!」
「なんですってー!」
「おまえ……ちょっと落ち着け……」
「これが落ち着いていられますか! だいたいあなたは結婚してからずっと自分勝手でしたよ。仕事仕事で家庭は顧みない。家事も育児も女の仕事。口先では女性の社会進出だの男女平等なんて言っていたかもしれませんがね……本音はいつも馬鹿にしてたじゃありませんか。私はそれでも我慢してきましたよ。だって、あなたは元々器なんて小さかったんですもの。期待していませんもん」
「期待……してなかったのか……」
「当たり前ですよ。あなたは家庭人としては最低ですよ。だけどね、家族の一員として自分勝手なワガママも許してきたんです。それがどうですか。定年退職した後、家にいて何をするわけでもなくゴロゴロゴロゴロ。私の邪魔ばかりして! 目障りもいいとこ! ようやく息抜きする場所を見つけて、毎日このスーパーに買い物に来ていたのに、それさえも邪魔をするんですかっ!」
「あ……あのな……ひ……弘子、声が大きいぞ」
「恥ずかしいですって? 私の方がもっと恥ずかしいですよ。あなた、何て呼ばれてるか知ってます? 『迷惑じじい』ですよ。みんなに見られて、みんなに笑われてるんですよ。それも気づかないんですか!」
「迷惑……じじい……?」

[じじい、完全に負けてるww]
[押され気味どころか、土俵際www]
[ん?でも、なんで奥さん、迷惑じじいって呼び方知ってんの?]
[も、もしかして……]
[これは熟年離婚決定ですな]
[立ちましたな!熟年離婚フラグwww]
[とっくに立ってたと思うけど…]

「それだけじゃないわ。買い物に付いてくるだけじゃ飽きたらず、欲しい物があると持ってきては黙ってカゴに入れて……どんどん入れて……もうちょっと考えなさい。こんなに二人で食べられますか。少しは相談なさい。子供だって『これ欲しい。買ってもいい?』って聞きますよ。あなたは子供以下ですか! 見てご覧なさい、あなたが欲しい物でカゴがいっぱいになってるでしょ。それに少しは持ってあげようかなとか、考えることは他にもいろいろあるでしょう。それなのにあなたときたら……鮭でも鱒でも山女魚でも何でもいいわよ。サーモントラウトが何なのかとかどーでもいいんですっ!」
「分かりにくい法律はよくないわよっ!」
「やかましい! 文句言いにきてるだけなら客じゃない。とっとと帰りなさい」
「ヘンな夫婦にひどい迷惑かけられたって抗議してやる!」
「ちょっとの迷惑はかけあってこそ社会なんじゃないの? 何の迷惑もかけあえない世の中なんて、いてもいなくてもいいじゃない! そういうことも分からないの!」

[奥さん、いいこと言った!]
[すげー。奥さんの怒りおさまらず]
[海山市場茜店なう。修羅場なう]
[でも、あの奥さんの気持ち分からないでもないな〜]
[今、山女魚って言わんかった?関係なくね?]
[ぜってー熟年離婚だ!]

「あの……お客様……夫婦喧嘩でしたら店内ではちょっと……」
「も……もう帰ろう。な、帰ろう。話は帰ってからゆっくり聞くから……」
「ちょっと……これは問題よ! 訴えてやるから!」
「あーーっ! もう、うるさーーーいっ!」

[海山市場、修羅場実況なう。奥さん、買い物カゴを迷惑じじいに押しつけたぞ]

「お……おまえ、これ……わしにどうしろって……」

[重くてズッシリ……迷惑じじい下ろしちゃったよwww]
[あ、代わりにあのコンビが持ってあげた。親切〜]

「私は私の欲しい物だけ買います! あなたの欲しい物は、自分で持ってください!」

[ばーさん、帰るぞ。1人でww]
[なるほど……真理だ]
[それが言いたかったのか…]
[ただ単に荷物が重かっただけだったりして]
[単なる年寄りの夫婦喧嘩だろ。いい迷惑]
[だって、帰るとこ一緒だろ]
[あっ、ばーさん戻った。カゴの中から何か取り出したぞ]

「鮭の栄養情報、とってもためになりましたよ」
「あっ、ありがとうございます」
「鮭の簡単ちゃんちゃん焼き、おいしかったわ。レシピももらっていくわね」
「嬉しいのぉ〜♪ またのお越しをお待ちしているのぉ〜♪」
「ほらっ! 帰りますよっ!」
「あ……ああ……」
「銀鮭の切り身2パック、お買い上げありがとうございまーす!」

[ばーさん、あの試食販売コンビとは仲良しなのな]
[ああ、人騒がせばーさんwww]
[なんだったんだ一体……あのばーさん]
[でも、鮭のちゃんちゃん焼きは確かに旨かったよな]
[ばーさんちも鮭のちゃんちゃん焼きか。うちもだけど…]
[海山市場なう。あなた達、うるさいわよ!全部見ているんですからね!ばーさんって言った人、訂正なさい。私はまだばーさんじゃない!]
[うっわーーーーーーーーー!]
[ひゃーーー!]
[いたんだ!ばーさん]
「ずっと前からツイッターにいましたよ。今日の悪口は一部始終、見せてもらいましたからね。さぁ、フォロワーさん達、どうフォローしてくれますか、今日のこと!]
[ちょwwwうまいこと……]
[きゃー、ごめんなさーい]
[勘弁してくれよ]
[一本取られたな、こりゃ……]
[ま、まいった〜!]
[亀の甲より年の功ってね〜!]
[こら〜!(笑)]

[UMIYAMA_st: フォロワーの皆さん、こんばんは。超スーパーマーケット『海山市場ショッピングタウン』です。茜店での試食販売「鮭のちゃんちゃん焼き」いかがでしたか?また、来週からは全国丼フェアが始まります。日本中の新鮮な食材を楽しんで下さいね。TL上でもリアルでも皆さん仲良く、おいしくすごしましょう♪]

    * * * *

「がんこ課長、まだ仕事ですかぁ〜? これから、ちょっと呑みに行きませんか。おいしいお魚料理のお店見つけたんですよぉ〜」
「おお、 行く行く! 旨い魚があると聞けば、この岩田夏子様、行かないわけにはいかないでしょー」

[UMIYAMA_st さんはいくつですか?]
[UMIYAMA_st の中の人って女性だよねー]
[UMIYAMA_st さんは水族館はお好きですか?]
[荒ぶる中の人も見てみたいのですが…]
[リア充なんだろ!中の人だって、リア充なんだろ!]
[いつか……アクアマリンでお逢いしましょう]

「広報も毎日大変ですね〜。うちの会社、公式でツイッターもやってるんでしょ? ヘンなヤツとかアブない人もいるんじゃないですかぁ?」
「ツイッター担当は私じゃないからよく分かんないや」
「ふーん。『中の人』ってがんこ課長じゃないんだぁー」
「それより、その魚料理のお店行こ、行こ!」
「寒ブリは今が旬ですからね〜! 新しい食べ方もチェックチェック!」
「PCの電源落としてから行くから1階で待っててくれーい」
「了解ですぅー!」

[UMIYAMA_st: 中の人などいないっ! RT: 中の人って女性だよねー]

「お疲れ様! お先に失礼するぜぃ!」
「がんこ課長、おいてかないでくださいよぉ〜。ボクもあとから行きますからぁ〜!」
「おまえは来んな! 美鶴嬢とイチャついてろ!」

[UMIYAMA_st: 寒ブリうぃる!]

(鮭の章 ◆ 終)

表紙イラスト:布施月子(日本画アーティスト)


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