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幕間:レイダン・ミミットの約束 (7) - 英雄の末路
「――レイダン・ミミット。バウナーの執行を終えたあとはお前を<金の黎明>党首に任命する。いいな?」
「仰せのままに」
レイダンは勢いよく胸に手を当てて、王命を拝命した。胸への軽い衝撃に伴い、感無量の心地が浸透していく。
(ついに俺が党首だ! あとは頃合いを見て国を出るだけだ。……結婚がなかったら俺はどういう党首になっただろうか?)
今任命したばかりの党首の喜びの向かう先を知る由もなく、ク
幕間:レイダン・ミミットの約束 (6) - 露呈と企て
ダークエルフのロイドに連れられ、レイダンは以前行った<白い眼の鳶>の隠れ家に赴くことになった。
道中、ロイドは背後からレイダンの首に短剣を突きつけ続けていた。だが幻影魔法により姿をくらましていたため、副党首の危機には誰も気づかなかった。
なぜこのような扱いを受けねばならないのかと改めてレイダンは質問したが、ロイドは淡々と、「あんたを連れていくのにこのやり方が最適だからだ」と返答してきたもの
幕間:レイダン・ミミットの約束 (5) - 乱心
レイダンの報告に対してドラクル公爵は目立った反応を見せなかった。そのうちに彼はゴブレットに手を付けたが持ち上げることはなく、そのまま石像のように動かない。
やがて結局ゴブレットは口をつけることなく手放してしまい、公爵は腕を組んでしまった。
レイダンは公爵の反応が重々しかったため、先を語るのは待つことにした。
「……レイダン・ミミット。白竜教の幹部たちが本当に自らバウナーを排除すると?」
幕間:レイダン・ミミットの約束 (4) - 白い眼の鳶
「それにしても、ミミット卿が興味をお持ちとは少し驚きましたよ」
「中途半端に監査組織を結成したとだけ言われたら誰だって気になりますよ」
「はは。確かにそうかもしれません。あれは別に作戦でも何でもなかったんですがね」
財務官のマルクはたるんだ頬とアゴを揺らしながら、朗らかな調子でそう話した。
そうして、
「それにうちは監査というより単に情報収集をしている組織ですし。監査と言った方が箔がつく
幕間:レイダン・ミミットの約束 (3) - 醜聞
レイダンと兵士は死体処理場にある地下室に入った。廊下を歩いていると兵士はやがてとある一室に入り、部屋の燭台に火を灯した。
狭い石造りの一室は床の一部が血で黒くなっているばかりで他に物はなく、石の台の上には布にくるまれた死体が置かれていた。死体の首付近は血によって赤くなり、胸は膨らんでいる。
「死体は回収したあと、すぐにここに持ってきたんだったな?」
「はい。七宝館から呼ばれてからすぐです」
幕間:レイダン・ミミットの約束 (2) - 王城の景色と落影
一行はラモリケに戻り、バウナーがニコロと共に街の酒屋に姿を消すと、ラドリックが口を開いた。
「レイダン、君はこのまま<金の黎明>にいるつもりなのか?」
不可解な話題だったが、どうもラドリックには辞める意向があるらしい。バウナーとそりの合わないラドリックなら分からない話ではない。
バウナー関連の話題であるのを予期しつつ、レイダンは「どういう意味だ?」とラドリックを振り返った。
「私は……
幕間:レイダン・ミミットの約束 (1) - 竜と若虎
およそ常人の目で追えない瞬撃が狼人の喉を掻っ切った。しぶく血潮。
周囲には彼が頼っていた仲間の魔導士はいない。狼人の残りの生の短いカウントダウンが始まった。
斬撃の一瞬に少しばかり体を引いてみせ、切断を避けたのは狼人もなかなかやるところではあったが、結局のところ剣を振り抜いた男――<金の黎明>党首バウナー・メリデ・ハリッシュは半分も実力を出していないだろう。
「玉なし野郎が……」
狼
10-11 身バレと公務
いくらか気疲れしてしまったジョーラたちとの話、もとい公開処刑の場をそそくさと去った俺たちはネリーミアの店に行き、残った購入品であるポーションとエーテル――最高品質は中級ポーションの「中」だった――を大量に購入した。
量が量だったので、配達は専用の木箱に入れて届けてくれ、木箱もくれるとのこと。
「先日も巻物を大量に買われていましたが。どこかに遠征でも行かれるのですか?」
さきほど説明したば
10-10 紅花の槍
楽団の集金活動の様子をしばらく眺めていると、兵士たちがウルナイ像に向かってきているのに気付く。なんだ?
集ってきた兵士たちの中にはさきほどベルナートさんとアレクサンドラたちが出迎えたバーデュゴ子爵夫人の女兵士たちがいた。
また、ベルナートさんやアレクサンドラの他、アバンストさんとティボルさんもいる。結構重要事項か?
アバンストさんが像の前に立った。
「みな! 少し話があるから聞いてく
10-9 歌う猫とイルイェク楽団
俺たちは引き続き市場巡りを再開し、干し肉や漬物《ピクルス》を購入したあと――棒砂糖はどこぞの商家が買い占めたとかで売り切れていた――グライドウェル派遣所に向かった。
馬用の装備や耐火装備などの馬車関係の懸念事項を聞いてみるためだ。
幸い派遣所にはシルヴェステルさんがいたので、軽く話をした。
シルヴェステルさんによれば、結界魔法の魔道具は準備してあるし、馬車の装備もある程度の準備はしてあ
ホムンクルス異世界竜統記録 10-8 ドライフルーツと女の楽園
食事のあと、市場で長持ちしやすい乾燥品を中心に食料品を見ていると、アレクサンドラとベルナートさんがいるのを見つけた。
買い物に夢中で気付かなかったが、近くに来ていたようだ。
「……ん? アレクサンドラとベルナートか。誰か来るのか?」
2人が向かう先は東門だが、東門では兵士たちが門の両脇で隊列を組んでいる。兵士たちの数はそれほど多いわけではないが、これから地位の高い誰かを迎えるような厳かな
ホムンクルス異世界竜統記録 10-7 権力と金と男気
「男だったら意中の女子の1人や2人さらうくらいの男気を見せろ!」
えぇ…………? さらうて。俺は軽く引いた。
「お主は金も武力も権力も何でもあろうに、女子1人になぜ尻込みする必要があるのだ!」
「別に尻込みしてるわけじゃ」
「尻込みじゃなかったらなんだというのだ? うだうだ言いおって。相手はたかだか街の警備兵風情ではないか? 敵同士などという因縁の関係でもあるまいに、連れていきたいなら家族に
ホムンクルス異世界竜統記録 10-6 ドワーフの誇りを捨てて
「こいつが最後の光輪石のタリスマンだな」
ガルソンさんは、枠組みやツルやジルを象る花などのそれなりの彫刻が施された小さな箱を木箱から取り出し、同様のものを武具屋内のテーブルに3つ並べた。
そのうちの1つを開けてみる。
凹凸をつくり、滑らかに仕上げられた木の土台の上にタリスマンがあった。黄みがった結晶――光輪石はコナールさんの店で見たものよりも綺麗にカットされ、輝きがまばゆくなっている。
ホムンクルス異世界竜統記録 10-5 冷やしビールの後ろ盾
ギルド内の一室に俺たちは通された。奥の食堂と同じように、床も室内も大理石ではなく木造だ。
簡素だが応接間だろう、よく見かける詰めれば4×4で8人くらい座れそうな長テーブルがあり、周囲には飾りものの武器や盾、ケプラのギルドマークの旗などもある。
「既にお知り合いのようですが。改めてこちらは<満腹処>の店主ファビアンです。私と昔馴染みの者なので、気になることがあれば何でも聞いてください」
昔
異世界竜統記録 10-4 2つ目の特許とスカーレット・イーグルス
「お待たせしました。ではこちらに」
待機を選んだインを後ろに、受付のイスに座る。
前回と同じくウィノーナさんは今回も同席するようで、レナックスの隣に座った。ギルド内には人はそれなりだし、それほど忙しくないからかもしれない。
「こちらが出来上がった判子です」
ウィノーナさんが手にしていた小さめの金属製の箱をテーブルに置いた。
フタにはギザギザの太陽と精巧な花の彫り物があった。花はジル
ホムンクルス異世界竜統記録 10-3 悲願の翼と天才女
インの足元に出現した緑色の魔法陣が明滅すると、インの背中には翼が現れた。
おお? じゃっかん透けていて、微妙に緑がかっている。緑なのは風属性だからか?
「ほう。悪くない出来だの」
翼は鳥類の翼で、鳥人族のハレルヤ君の翼と似ている。
「触ってみていい?」
「うむ」
触ってみるとほとんど感触がなかった。雲でも触ってるような感触……というかこれ、インの魔力そのものだ。
「これ、魔力だね