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幕間:レイダン・ミミットの約束 (4) - 白い眼の鳶


「それにしても、ミミット卿が興味をお持ちとは少し驚きましたよ」
「中途半端に監査組織を結成したとだけ言われたら誰だって気になりますよ」
「はは。確かにそうかもしれません。あれは別に作戦でも何でもなかったんですがね」

 財務官のマルクはたるんだ頬とアゴを揺らしながら、朗らかな調子でそう話した。

 そうして、

「それにうちは監査というより単に情報収集をしている組織ですし。監査と言った方が箔がつくので……」

 と、苦い顔で組織の実態を吐露した。何がそんなに気にかかるのか分からないが、この言葉はもう3回目になる。
 レイダンはもう返答しなくていいかと迷ったが、再び構いませんよ、と答えた。

 マルクの言う“あれ”とは、2月ほど前リャトー支部教会の修道女が売られてしまった件で王の御前に集まった際、マルクはたいした話もせずにレイダンたちの元を去ってしまったことだ。
 レイダンはその後、たまたま街中でマルクが勧誘している現場を目撃した。興味本位で聞き耳を立ててみれば、どうやら監査もとい調査の対象が<白い嘴の鴉>であることが分かったのだった。

 レイダンは正直、信じられない話ではあった。

 マルクのような王城付きの官吏らしからぬ品のない男が構成員として認められている上、城下で“あの鴉”を監査していると口にさせ、勧誘させてもいる組織である。半信半疑どころではなく、まったく期待していないと言ってもいい。

 ただ、レイダンはそれでも関心を示さねばならなかった。ゼロを相手に解毒剤を持ち歩いているだけでは安心ができるはずもない。今も、党首となった後も。
 レイダンは鴉を出し抜くにあたっては路頭に迷っているといってもよかった。ゼロがただ戦士として強いのならいくらでもやりようはあっただろうに。

「ジェリンスカ卿やドゥーニン卿も今頃やきもきしているでしょうか」
「どうでしょうね。彼らは今頃『至上の喜び』の調査で忙しくしていますよ」
「ああ、そうでしたな」

 ヤヌシュたちの想像通り、<赤の黎明>はセティシアへの出撃部隊には抜擢されてはいない。
 一応王都守護の任に就く予定だし、その先の戦いでは出撃するだろうが、意外と組織の根が深い上に、王が内々とはいえ宣言してしまったせいか撒かれることも多いようで、組織の根滅には捜査が長引いているのだった。

 マルクの後をついていった先はメリシャンム大教区のとある通りにある鑑定屋だった。
 鑑定屋は寂れた外観以外にはとくに変わった点は見られない家屋だったが、屋内には宝石がちりばめられた派手だが埃をかぶった鎧や、シルシェン風の模様が描かれた一品そうな皿、はたまた美しい真紅色をした蛇皮の反物、禍々しい魔物の角の類まであり、雑然とした店内の様子とは裏腹に店主の鑑定屋として腕はそれなりにありそうなことがうかがえた。

 主人はマルクとレイダンが屋内に入ると、顔を上げていた。

 白髪交じりの頭髪の下には化粧されたように深いクマと痩せこけた顔があった。撫でつけられた長めの髪。分別くさい眼差し。魔導士用と似たローブ。訓練で疲れた魔導士のような人物だ。
 魔導士は寝食を忘れて勉強や読書に勤しむ者が少なくなく、訓練に精を出せば魔力の過剰な放出により痩せ細る者――貴族令嬢はこれを目的に魔法の訓練に勤しむ者もいるが――は珍しくない。

 もっとも主人の瞳は赤、緑、青、黄色のいずれでもなく、一門の魔導士ではないことが推測された。
 事実、彼のレベルは18だ。彼がレイダンに勝てる見込みはない。

 主人は顔を上げたものの、視線を寄せるばかりで言葉は発さない。
 ただ、2人が目の前に来ると彼は引き出しから鍵束を出してマルクに手渡した。

 見せてもらうと鍵には双頭の蛇、翼の生えた五角形ペンタゴン、白ユリがそれぞれ描かれてあった。どれも白竜教を象徴するものだ。

「閣下が待っている」

 そうして主人はそのような言葉を、詠唱のように静かに発した。

「……閣下が?」

 マルクは眉間を狭めてレイダンを見た。そうしてマルクは、反応のしようもないレイダンをよそに深刻な声音で行きましょうとだけ言い、店の奥に行ってしまう。
 当然レイダンには閣下とは誰なのかと疑問が湧いた。だが、想像はつかない。

 相応の身分の者が閣下と言えば身構えもするが、マルクや鑑定屋の主人風情が言う閣下など分かるわけもない。

 店の奥の狭い一室の床下を開けると鉄の扉があった。地下室だ。扉には3つの鍵穴があり、三物もまた描かれていた。
 マルクは傍の机に置いてある燭台を手にし、《灯りトーチ》で火をつけた。そうして対応する鍵でそれぞれ開け、2人は地下に降りた。

 梯子を下りると洞窟が続いていた。燭台が等間隔でつけられており、床には簡素だが石畳が敷き詰められてある。

「本格的な通路ですね」

 三物の描かれた鍵含め、情報内容と組織への期待が多少なりとも煽られる光景だった。

「さきほどの店が鑑定屋になる以前、商人たちの間で使われていた通路なんだそうです」
「いかがわしい商売ですか?」
「いえいえ、ここでは貴金属や宝石を売買しながら貸付を行っていたと聞きます。貸付は何かと物騒ですからね。逃げ道を事前につくっておくのは珍しいことではないのですよ。あの家は契約を結ぶ場に過ぎず、先の家が貴金属や金を保管する本邸であったそうです」

 そのような話をしながら洞窟を抜けて梯子を登ると、鑑定屋よりも広く、漆喰もしっかり塗られた小部屋に出た。
 小部屋には隅に槍や剣、盾などが置かれてあり、さきほどのマルクの話を聞いた手前、ここは敵を迎え撃つ物騒な場であるとレイダンは納得してみた。

「で、では参りましょう」

 マルクは小部屋の扉の前に立った。
 そして深呼吸。緊張しているらしい。

「閣下。私です。財務官のマルクです」
「……連れてきたのは誰だ?」
「<金の黎明>副党首、レイダン・ミミット殿です」

 話し相手の声はどこかで聞いた気がした。扉越しのせいもあり、レイダンは男が誰だか判別できない。
 しばらく間があり、扉が開けられる――いたのは全く想像してなかった人物、武装したダークエルフだった。

 レイダンはずいぶん驚いた。と同時に、ダークエルフがただ者ではないとすぐさま察知した。当然のように《鑑定》でもレベルが出ない。
 だいぶ反応が遅れつつもつい腰の剣に手が伸びたが、手首を掴まれ阻止されたため振り返った。

 そこには同じくダークエルフがいて、レイダンはさらに驚き言葉を失う。後ろのダークエルフは首を振り「事を構えるつもりはない」とだけ言葉を紡ぐ。
 敵意はないらしい。ないらしいが……。

 レイダンは再び前を見た。前にも別のダークエルフがいる。
 部屋には男が数名いるようだが、そんなことよりも自分が遅れを取ったことでレイダンは焦っていた。

(いったいいつから?? マルクとずっと二人だったはずだぞ!?)

 レイダンの察知力を越える者などそういない。先日、ゼロが自分を殺せる事実を知ったこともある。
 レイダンの焦りは極まった。なぜここに、なぜマルクが連れてくるような場所に自分と同等かそれ以上の者を配置してあるのか。なぜダークエルフの強者がいるのか。なぜ、――

「彼らは私たちの手の者だ。彼の言う通り、危害を加えることはない。無論貴公がそれでも剣を抜くと言うなら彼らは貴公を抑えるだろうが」

 声の方を見れば、……グロヴァッツ伯爵だった。
 レイダンはまたもや驚いた。

「……グ、グロヴァッツ伯爵……なぜあなたがここに?」
「分からないかね? 私がこの組織――<白い眼の鳶>に所属しているからだよ。ダークエルフたちにしてもそうだ。私の手の者ではないのだがね」
「……ではどなたの」

 伯爵は「彼のだよ」ととある男を見た。

 視線の先にあった男は50歳ほどか。
 しかしグロヴァッツから紹介される割には高貴な身分を証明できそうな物品は彼には見当たらず、平民に見えた。見覚えはない。

「初めましてと言うべきですかな? レイダン・ミミット殿」
「……私はあなたとどこかで?」

 男は口元に穏やかな笑みをたたえた。
 ただの平民であれば彼のように落ち着いてはいないだろう。少なくともグロヴァッツ伯爵と懇意である人物だ。

「あの時以来、私は長い髪を切ったし、少し痩せもした。高価な衣類も身にまとっていないし、従者も1人もいない。記憶にないのも無理はない。……今はただのニコデムだが、以前はリットビンという伯爵位を拝借していたよ」

 リットビンという名を聞いて浮かぶのは、偽造通貨を生業とする大きな犯罪組織に加担していた大金持ちの貴族だ。

「リットビン伯……陛下が戴冠後に爵位を剥奪した?」
「その通り。冤罪だったがね。首魁の彼とは十数年ぶりに旧交を温めていたたけだった。彼の思惑など、私は何も知らずにね」

 リットビンは俯き加減に淡々と語った。
 レイダンはもう何度驚いたか分からないが、冤罪という言葉に眉をしかめながらもかつてのリットビン伯爵の顔と今の彼の顔が重なった。

「ロイドとカンデルは私の部下さ。この組織でも働いてもらっている。彼らはダークエルフの中でも指折りの優秀な者たちでね。鴉どもよりはるかに優れた密偵だろう」

 彼は最後はいくらか語気を低くし、強めた。騙した友よりも鴉の方に恨みを抱いている様子らしい。
 ロイドかカンデルというらしいダークエルフと視線が合わさると、彼は少しばかり眉間を狭くしただけだった。

 いくらか落ち着いた頭で、ダークエルフが幻影魔法の使い手であるのをレイダンは思い出した。
 ゼロの使う《消失バニッシュ》は幻影魔法の《隠滅エラス》を参考にしてつくられた魔法だ。ゼロの気配を少しも察知できないのに、“オリジナル”を察知できるわけもない。実際、効果も《隠滅》の方が優れている。

 立て続けの驚きの展開にレイダンが言葉をひねり出せずにいると、グロヴァッツが構成員を紹介した。
 この場にいる以外にも構成員はいるらしいが、ここに今集っているのはニコデムとマルクにくわえ、法務官のバラリス、グロヴァッツ伯に仕えているという魔導士コストカ、神父のヴィットという顔ぶれだった。

 それからグロヴァッツはコストカに命じ、紙束を持ってこさせた。

 机に広げた紙の束には……<白い嘴の鴉>の構成員の情報と似顔絵を描いた紙がいくつもあった。
 レイダンは見ていいと言われたままに軽く見ていったが、ゼロのレベルや所持スキル、扱える武器、よく行く店、交友関係などを含めた詳細な情報と似顔絵があり、レイダンは目を見開いた。ゼロの情報は鴉の情報のうち、最重要秘匿情報のうちの1つだろう。

 他の人物たちの情報ももちろんあり、将校や官吏の中にも鴉が潜んでいることに驚かされる。
 諜報を潜ませる定番である馬番や庭師などはともかく、伝言役にすぎない子供の情報まであった。

「ここにいる<白い眼の鳶>の構成員は<白い嘴の鴉>に生きる道を奪われた者たちばかりだ。無論私もな。ミスリルの鉱脈並みに価値のあった商談を失くしたよ」

 そしてグロヴァッツは紙束に手を叩きつけた。

「この資料はそのような私たちが得た、何物にも代えがたい苦労の結晶と言える。資料はこれからも増やしていくが、この資料により我々が今後鴉たちにより財産や家族を失うことはなく、煮え湯を飲まされることもないだろう。我々にあるのは諜報に掻き乱されぬ安寧の日々のみだ! ニコデムのように冤罪により没落するような憂き目は絶対にあってはならないことだ!」

 マルクとバラリス、ヴィットが、「閣下の仰る通りです!」「その通りです!」と感激した様子で同調し、ニコデムも頷いていた。
 レイダンは場に呑まれた。予想に反してまったく正統的な組織であるらしいことに困惑した。分からない話ではない。たった一度きりのやらかしが翌日にはバレ、王都を後にしたという者の話は新任の者を中心に枚挙に暇がない。

「レイダン・ミミット。貴公をここまで連れてこさせたのは1つの狙いがあったためだ。この組織を守る騎士になってくれ」
「騎士……ですか?」
「ああ。ロイドもカンデルも素晴らしい戦士たちだが、いささか目立つ。耳を隠せ、姿も消せるのだとしてもな。コストカは魔導士としては力量があるが、剣はさほど振るえないし、城内で開催される魔法決闘では実力を示していた奴でな。これも城の中には安易にやれない」

 レイダンはコストカに視線をやった。魔導士らしいが、決闘に出場する辺り研究肌ではないのだろう、魔導士にしては戦士然とした鋭い視線が到来してくる。

 魔法決闘。興味はないわけではないが、レイダンは残念ながら魔法決闘の方は詳しくはない。賭博が盛んで戦死した党員や没落した貴族もあり、あまり良い噂は聞かない娯楽ではある。
 ともあれ党首たちに次ぐ剣士であり、城内をうろつける自分は適当な役者らしいとレイダンは理解した。

「私があなたがたの組織の穴を埋める逸材であるのは分かりました。ですが騎士とは何をするのですか? 実力者を集めているようですが……敵対組織でも?」
「そのようなものはない。……言葉を変えよう。守護者だな。我々が日夜暗躍した末作成したこの資料が紛失するのを防ぐ守護者だ。鴉どもが嗅ぎつけてくる可能性もあるからな。そして無論、資料を分厚くするための仕事も行ってもらう。仕事は血なまぐさいことではないし、貴公の七騎士としての仕事も邪魔はしないから安心するといい」

 色々と考えてくれてはいるようだが、レイダンは自分が鴉――ゼロの喉元に剣先を突き付ける自信はなかった。
 自信の無さとは裏腹にレイダンの視線は自然と資料に向かう。

(だがこの資料があれば……鴉たちの動きを掴めるのは何事にも代えがたいアドバンテージになる。今後動きやすくなるかもしれない)

「もちろん我が組織に所属すればこの資料の閲覧は自由に行っていい。恋人との逢瀬など容易いものだ。貴公に国にすらも隠さねばならない極秘の恋人がいるのならな。仮にそうだとしても我々が貴公の秘密を保守し、その秘密の愛が成就するよう全面的に協力することは誓おう。守護騎士殿の悲願は我々の悲願と同じだ」

 喜悦。信用。疑惑。レイダンの内心はざわついた。

 顔をあげてみれば、レイダンを不安を含んだ面持ちで見つめてくるマルクがあり、横には頷くニコデムがいた。
 彼らにウィプサニアの件を話すことがよぎった。が、仮にそうするにしてもまだ時期尚早だろうとレイダンは判断した。

 どうであれ……ゼロに畏怖していたレイダンにとって、ゼロを上回れる可能性が大いにあるダークエルフの戦士2人の存在は頼もしすぎた。

「無論口外は禁物だぞ。誰もが信頼を置く貴公のことだ。ないとは思うが、この資料を悪用していることが判明すれば相応の措置を取らせてもらう」

 自分の後ろを軽々と取れるダークエルフ2人がいる場で、“相応の措置”の内訳は聞くまでもない。レイダンは「私には幻影魔法を破る術は持ちませんよ」と肩をすくめられるほどには事態に安堵しきっていた。
 グロヴァッツは「私の知る限りでも彼らの技を破れる者はいないな」と、ふっと口元を緩めた。レイダンは思わず口元を緩める。

「資料のこと以外も口外はしないでくれ。組織名、組織の活動目的、構成員、この隠れ家の場所――一応隠れ家は他にもあるのだが――などだな。口外する役割は今はマルクだけが負っている。貴公はこの組織に所属していることは伏せ、これまで通りでいい」

 レイダンは怪訝に思った。グロヴァッツはしっかりマルクを飼い慣らしているようだが、マルクは信用するにあたる男とは言い難いものがあるからだ。

「マルク財務官だけ、ですか」
「ああ。マルクも私やニコデムのことは伏せるよう言っているがね」

 レイダンはマルクがグロヴァッツが謁見の間から現れた時に、逃げるように去った理由を理解した。

「貴公の懸念点はわかる。マルクが城内でどのような男だと認識されているのか、我々もよく理解している。だが、この認識を利用しているのだ。『マルクのようなろくでもない男が所属する組織だ。たいした組織ではないだろう』と、こういった思惑を周囲には抱かせればそれでいい。……たまにマルクの後をつける者がいるのだが多く途中でやめている。熱心な者がいたとしてもダークエルフの2人により“尾行されている印”をマルクに見せているよ。マルクの享楽癖はある意味我が組織に必要不可欠なものだ」

 なるほど、と自分も術中にはまっていたのだなとマルクを見れば、マルクは苦い顔をしていた。彼は道化役のようだ。

(グロヴァッツ伯はマルクをやけに信頼しているんだな……)

 マルクへの認識を改められつつ、レイダンは構成員たちを軽く見回した。みな、じっとレイダンのことを見つめていた。
 彼らには、善意や悪意の過剰な感情の発露はないように見えた。ダークエルフたちは雇われた身らしく何食わぬ顔をしていたが、ダークエルフ自体は義を重んじる種族だ。暗殺を得意としていながらも主人には忠実であるとされ、また、無闇に悪行に手を染めるのも嫌うという義賊的な一面もあるとされる。彼らが義賊であるのかはわからないが……どうであれ、変な気を起こさねば協力的である可能性はある。

 互いを結んでいる身分を越えた純粋なる信頼。ふと、レイダンはこの場の雰囲気にそのようなものを汲み取った。
 バウナーが党首になる以前にはあった輝かしき<金の黎明>の時代。親衛隊長となった党首は身分や実力を問わずみなを平等に叱り、信頼し、時には酒をおごっていた。

 レイダンの心はダークエルフと資料がある時点で決まったも同然だったが、「私はこれまで通りでいいのですね?」とグロヴァッツに念押しした。
 あの頃はもう戻らない。惑わされるな。惑わされていては最愛の人は手に入らない。レイダンは抱かされた一抹の不安のままに今になって決意を新たにした。

「ああ。仕事の依頼があれば文やマルクを通して伝える。資料を見たい時には鑑定屋に伝えてくれ。ロイドかカンデルのどちらかがここまで案内してくれる」

 レイダンは分かりましたと頷いた。グロヴァッツも頷く。

「コストカ、ニスト家の上物を出してくれ」

 コストカは別部屋に行った。すぐに戻ってきて小ぶりなワイン樽をテーブルに置くと、みなの分のゴブレットを食器棚から取り出してきてワインを注いでいった。
 神父のヴィットが手渡していく。ダークエルフたちの分もだ。彼はレイダンに注ぐときにニコリと微笑んだ。彼は半年前に鴉により殺された儀典官ナルトヴィチの娘と恋人だったという。娘の所在はわからない。

「レイダン・ミミット。ささやかだが、ここに君の所属を祝おう」

 グロヴァッツはそう言ってゴブレットを掲げた。


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