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異世界竜統記録 10-4 2つ目の特許とスカーレット・イーグルス


「お待たせしました。ではこちらに」

 待機を選んだインを後ろに、受付のイスに座る。

 前回と同じくウィノーナさんは今回も同席するようで、レナックスの隣に座った。ギルド内には人はそれなりだし、それほど忙しくないからかもしれない。

「こちらが出来上がった判子です」

 ウィノーナさんが手にしていた小さめの金属製の箱をテーブルに置いた。
 フタにはギザギザの太陽と精巧な花の彫り物があった。花はジルが着ていた服や、ヘッセー教会の天井で見かけたしべが3本ある花だ。側面にはケプラの逆三角形を3つ並べたギルドマーク。

 箱を開けてみると、ベルベットの布の中に長方形の木判子があった。判子には綺麗に丸く削られ、ニスも塗られた木製の取っ手がある。趣のある判子だ。
 取っ手を持ってひっくり返すと、「タナカ」という文字。《言語翻訳》をオフにする。傭兵派遣所で覚えた謎の言語もといアルメス語の羅列がしっかりとあった。

 スキルをすぐにオンに戻す。

 “庶民の田中”がずいぶん躍進したものだと思うが、縁飾りの竜のかぎ爪によってそういった心境は薄れていく。
 ファンタジー味が強すぎる。かっこいいけど。まあ……もう庶民の田中ではないことは確かだ。はっきりとした設定は作ってはいないが、金のある良家で、インの身内――八竜の一派でもある「タナカ」だ。

「いい出来ですね」

 それにしてもかぎ爪の彫刻の出来は普通によかった。出来栄えに関しては影の刃エッジ・フォー・シャドウの箱が俄然勝るし、金属の輝きもあっちが素晴らしいと思うのだが、こっちはこっちで馴染み深い輝きと趣がある。
 会社でこんな判子が押せたらさぞ面白い会社だったろうという考えが浮かぶ。フォーマル侍の日本でこういうカジュアルな判子を押せるとなると、芸能や物作りに関係する会社になるだろうか。

 若い頃はゲーム開発の会社に務めたいと思ったこともあったものだった。
 残念ながらプログラムはちょっと触っただけだし、学生時代に気軽にリストアップしてみた職の候補の1つにすぎず、仕事に忙殺されながらの一MMOユーザーとしてしか縁はなかったけれども。

「一番腕の良い職人につくらせましたから。お気に召しましたか?」
「はい。満足です」

 それはなによりです、とウィノーナさんが微笑する。
 ちなみに日時と金をかければ、判子をミスリル製にできたりもした。それなりの金を預けたお得意様であれば作成できるのだそうだ。箔がつくだろうし、そのうちに作り直してもいいとは考えている。

 フタを閉じて鍵を閉める。
 特許の申請と聞いていますが、とレナックス。

「ええ、冷やしたビールの特許を」

 レナックスが「冷やしたビールですか?」と小首を傾げながら聞き返してくる。

「氷魔法で氷をつくってビールを冷やすっていうだけですが」

 レナックスがウィノーナさんと顔を見合わせた。

「飲み物……ですよね?」

 うかがうように訊ねてくるので、ですよ、と同意する。
 凍った固形物でも浮かんだのか、あまり想像できないらしい。ウィノーナさんも似たような心境なのか、いくらか怪訝な表情をしている。

 冷たい飲み物がそもそもないせいもあるんだろうけど、おかしな反応に思えてしまう。
 だが冷静に考えると、冷たい飲み物はそんなにいらない可能性もある。夏になると当然気温は上がるだろうけど、現代日本の夏ほど厳しくはないだろうし、そもそも中世的な、温暖化の進んでいない穏やかな気候の可能性は高い。そもそも《水射ウォーター》の水でもじゅうぶん冷たい。「キンキンに冷えた飲み物」なんて贅沢な話なのかもしれない。

「既に先日<満腹処>の方で兵士たちに試飲してもらって絶賛されてます。うちの子たちも美味しく飲んでましたよ。ね?」

 姉妹を仰ぎ見ると、にこやかにはいと同意してくれる。

「兵士たち……もしや槍闘士スティンガー隊の参加した懇親会にご出席に?」

 ウィノーナさんの質問に同意する。知ってるようだ。

 次いでウィノーナさんはいくらか目を大きくしながら、「ではジョーラ様や槍闘士の方々にもお振舞いになられたのですか?」と続けて訊ねてくる。
 こちらも頷くと、「そうでしたか」とアゴを数度動かして彼女は納得した様子を見せ、口元を緩ませた。

 俺が憩い所での会合に出席していてホイツフェラー氏と親しいのは知ってるはずだが、ずいぶん好意的に見える。ジョーラのファンかな?

 とりあえず話を進める。

「<満腹処>の店主の方からビールをうちで出したいと言われまして。金額設定の方がちょっと分からなかったもので、それで特許の申請がてら相談しにきた次第です。一応半年は<満腹処>の方で半額で独占販売させるとは約束してます」

 レナックスが「その半年という期間にはなにか目論見があるのですか?」と訊ねてくるので、とくに理由はないと告げる。
 1年は長すぎるかもしれない、その間に貴族たちがいちゃもんをつけてくるかもしれないから、自分もしばらくケプラにはいないし、といった考えを述べる。

「いちゃもんというのは……」
「独占販売をしている<満腹処>に下手したら脅迫まがいのことをしでかさないかと。販売権を寄こせとか、売るのをやめろとか、そういうのです」

 なるほど、とレナックスが頷いた。「よほど冷えたビールは評判だったのですね」と言うので同意すると、しばらく間があった。
 言ってしまってからあれだが、貴族への偏見が過ぎただろうか? 一応ハリィ君からは同意見めいた反応をもらったものだけど。

「あまり貴族と付き合いがないのですが、偏見が過ぎるでしょうか。脅迫まがいのことをしてくるなど」

 思ったことをそのまま告げてみると、「いえ。まあ……」とレナックスは目線を泳がせながら言葉を濁した。

「あまり大きな声では言えませんが、そういう方もいらっしゃることはいます。残念ながら」

 ウィノーナさんが横から苦い顔で補足した。
 やっぱりいるのか……。憩い所も色々あったそうだしなぁ。

「確かにあらかじめ期限を設けておけば、貴族の方々もあまり口出しはしてこないと思いますし、タナカ様が銀勲章の持ち主であることを明記すれば何もないかと」

 ああ、銀勲章があったか。

「タナカ家の方は爵位はお持ちですか?」
「爵位は……ちょっと分からなくて」

 爵位はもちろんないのだが、とっさに濁した。2人からは一応良家の子供には見られているようだが、ここで平民であることを告げることは何もメリットにならない気がしたためだ。あと、ボロ出しにならないように。

「分からない?」

 レナックスは少し怪訝な顔をしたが、ウィノーナさんはそうですか、と納得した様子を見せた。にこやかだが、取り繕った感じに見えた。

 やってしまったか? という後悔の懸念がたちまち俺を襲う。

 自分の本来の家のことを何も知らずに育つのは創作ではよく見かけたものだが、珍しい例ではあるだろう。爵位という絶大な権力があるのにその子供が爵位について何も知らないなんて。
 俺の場合は金はあるのは見せてるし、銀勲章もあるので、多少濁せるとは思っているが……。今まで通り害のない訳ありの良家の子供で通ってほしい。

「ところで特許の品は『冷やしビール』で、半年の間は<満腹処>で販売したいそうですが、半年後はどうされる予定ですか?」

 俺の思惑を知ってか知らずか、ウィノーナさんは話題を変えた。ギルドの職員的にはどうなのか分からないが、助かる。

「特許料を払えば他の店も出せるようにとは考えてますが……なにか問題がありますか?」
「いえ。ただなにか考えをお持ちなのかと。まだお若いのに商才と見識をお持ちのようですから」

 この若さなら見識持ちに見られるのかもなぁ。しかし改めて若いと言われると照れくさい。若くないけどさ。

「そこまでではないですよ。……さきほども言いましたが、金額の設定の方に困ってしまって。特許料ですね。友人からギルドに行けば専門の方がいると」

 友人というのはハリィ君だ。
 レナックスが「コルドゥラさんですか?」とウィノーナさんに訊ねた。

「そうね。でも、戻るのはいつになるかしらね」

 レナックスが、分かりませんと首を振った。いることはいるようだ。

「専門の者は今バルシュミデ領にいまして。おそらくまだ3日は戻りませんが、お急ぎですよね?」

 バルシュミデ領。聞いたことのない領地だ。たぶん。

「はい。俺たちは明日ケプラを発つので」

 ですよね、とウィノーナさんは目線を落としたかと思うと、すぐに目線を上げる。

「では私どもで対応させていただこうと思いますが、よろしいですか?」

 まあ、2人なら変なことにはならないだろう。別に特許料を出来るだけむしり取りたいわけでもないしな。

「お願いします」

 時間が少しあるのか訊ねてきたので頷く。

「では、少々お待ちくださいね。<満腹処>の店主を呼んで参りますので」
「あ、はい。お手数かけます」

 半ば急ぎ足でウィノーナさんがギルドを出ていく。
 連れてくればよかったな。

 待つ間の話題で、コルドゥラさんなる人についてレナックスに訊ねてみる。

「コルドゥラさんは昔からうちのギルドを手伝ってくれている方ですね」

 手伝ってくれている?

「手伝ってくれているというのは……ギルドの仕事が本業ではないのですか?」
「家の仕事と兼任されている方なんです。バルシュミデ領に行っているのも、家の仕事のためです」

 二足の草鞋か。

「ギルド長や市長から頼まれて以来在籍している方で」

 ほほう。有能な人なのかな?

「市長から」
「ええ。コルドゥラさんが所属する以前、当時のケプラでは、<満腹処>のような注文を受けて様々な料理を出す店がほとんどなかったのです。居酒屋や露店、宿で出す食事くらいのものですね。各組合で禁じていまして。昔から仕出し屋は一応あるのですが」

 仕出しなんていつぶりに聞いただろう。ようはデリバリーだ。
 にしてもつまり、レストラン業がなかったってことらしい。コルドゥラさんがいつから所属しているのかは分からないが、ハリィ君が詳しくないと言うのも納得できる。

「ですが、前当主のマイアン公爵様が自領で料理店をお出しになられて。店は売れ行きもよく、評判になったそうなんです。……ちなみにお出しになられていた料理はマイアン領やオルフェの郷土料理ですよ、意外にも」

 後半は声を低くして、含みを持たせた。意外にも。

「私もギルド長に連れられて一度だけノーディリアンの料理店――もちろん公爵様のお店ではないのですが――に行ったことがあるのですが、料理はどれも美味で。自分たちが普段食べているパンやグヤシュがあれほど芳醇な味わいになるとはと感激したものです」
「さぞ美味しかったのでしょうね」

 いかにも良い思い出を語る風に、「ええ、ええ」と、レナックスは口元を緩めながら頷いてみせた。

 そういえば公爵が珍味の類が好きな人だったことが浮かぶ。

 ホイツフェラー氏はあまり料理を広めたくない人だと評していたものだが、普通に事業としてはやる感じか? 頭の切れる人だったし、その辺分けて考えられそうではある。
 レナックスは続けて「ケプラに戻ってからしばらくの間、普段の食事に不満を抱いて仕方がありませんでしたよ」と肩をすくめたので、苦笑する。まあ、極上の料理を食べたあとはそうもなる。

「……で、話は戻りますが、以来料理店は領内で増えていきました。ケプラでもいくつか店を出すことになったのですが、ケプラには料理店経営に詳しい者がいなかったのです。そこでギルド長や市長が声をかけたのがコルドゥラさんだったそうです」
「コルドゥラさんは料理店経営の経験が?」
「はい。アンゾルゲ家は狩猟用の道具やノーブルサン湖の魚や鶏肉を扱う家なのですが、バルシュミデ領で料理店を経営しています。主にノーブルサン湖の水鳥を出す店なのですが、最近は魚料理も出すようになって評判だそうですよ」

 ほほ~。魚料理か。魚って食べてないんだよな、まだ。

「店ではどのような魚が?」
「私の知る限りでは、カマス、パーチ、ハゼ、ウナギなどでしょうか」

 カマスとパーチはなんだろうな。オルフェは内陸っぽいし、川魚な気はするが。
 もしフィッタがああならなかったら、ウナギが食べられたかもしれない考えが浮かぶ。

「ウナギ料理は人気ですか?」
「人気だと思いますよ。昔から食べられてきた魚ですし、取引量の多い魚でもありますから」

 おお、みんなウナギ好きか。

「ウナギは養魚池を持っている方も多いですしね。マイアン公爵様も大きな養魚池を持っているそうですし、ノーブルサン湖にもバルシュミデ伯の保有するウナギの養魚池がありますね」

 だいぶ好きじゃないかと内心で苦笑しつつ、みなさん好きな魚なんですね、と相槌をうつ。

「そうですね。昔のヘンジルータではウナギを讃える催事があったほどです」

 ウナギを讃える催事か。ちょっと見てみたくなるなぁ。

「――ちょっといいか? 依頼についてなんだが」

 と、そんな話をしていると、横からガボール。

「ではもうしばらく待っててください。そのうちウィノーナさんが来るかと思うので」
「分かりました」

 隣のテーブルでガボールとレナックスが向かい合って座った。

 手持ち無沙汰になり、インのいるベンチ――インは腕を組んで首を傾けて、七竜感まったくなく寝ていた――に移動しようかと考えていると、両腕に傷のある弓使いの男が「おい、あんた。強いんだろ?」と話しかけてくる。ん?

 一応周囲を見るが、俺たちの周囲には他の人はいない。

「とぼけても無駄だぜ? ガボールの奴は《鑑定》持ってるからよ」

 弓使いの男がそう口元を緩めながら言ってくるので、観念して「まあ、弱くはないですよ」と言っておく。

「得物は弓か? それとも魔導士か?」

 好奇心をにじませて、弓使いの男が続けてそう訊ねてくる。俺の体格だとどちらもありだろう。どうやら自分が弓を使うからか、俺に興味があるらしい。
 しばらくケプラにはいないしいいかと思い、「使役魔導士ですよ」と伝える。

 弓使いの男は怪訝な表情を見せた。俺から視線を外さないままに少し間があった。

「なら見せてみろよ。使役魔導士ならなんか作れるだろ?」

 と、聞いていたらしく、横から不機嫌めにジェノスと呼ばれていた小柄な男。
 弓使いの男も、ジェノスを諫めることなく黙って俺の動向を見守っている。ひとまず同意らしい。

 開口一番に使役魔法はよくないのかもなと思いつつ、言われるがままに《魔力弾マジックショット》を2つ出した。
 1つは弓使いの男の弓を見ながら同様の形の弓を、もう1つはジェノスの腰に提げられている長剣だ。もちろん抜き身ではないので鞘つき。

 2人は分かりやすく目を見開いて驚いた様子を見せた。話していたガボールも話を中断してこっちをガン見しだした。レナックスも《魔力弾》を見て、口を開けたままにした。

「マジか……」
「それ……俺の剣か」

 俺はついでに今度はガボールの腰の剣に作り直した。弓使いの男とジェノスがガボールの腰に視線をやって、やがて戻した。

「そいつは自分で握って使うのか?」
「いや。握っても使えるだろうけど、飛ばして攻撃してますね」

 俺は軽くガボールの長剣の《魔力弾》を緩急つけて右に左に移動させ、その後くるくるまわしてみせた。

「は〜……器用なもんだな」
「……使役魔導士というとミージュリア人が浮かぶが。あんたはミージュリアの生き残りなのか?」

 と、ガボールによる質問。

「いや、よく聞かれますが違いますよ」
「そうか……。気に障ったのならすまない。あの2人も悪気があったわけじゃないんだ」

 次いでそう弁解してくる。よくわからないが、いいリーダーのようだ。

「気にしなくていいですよ。《鑑定》でレベルが割れたら気になるのも分からなくもないですし」

 ガボールは「そう言ってもらえると助かる」と、ちょっとあくどさはぬぐい切れないが――ヘンリーさんほどじゃないけど――いくらか表情を緩めた。

 ガボールがレナックスと話を再開すると、間もなく弓使いの男が、

「俺はミクローシュだ。《スカーレット・イーグルス》のパーティリーダーをやってる」

 と、気さくにそう自己紹介をしてくる。彼の方がリーダーだったらしい。

「このひねくれてんのがジェノス。で、あっちのがうちの司令塔のガボールだ。あと数人いるんだが、今はこの3人だけだ」

 自分の自己紹介が気に障ったのかジェノスが肩をすくめたあと、「あんたはギルドに何しに来たんだ?」と訊ねてくるので、一瞬考えたが、素直に特許の申請しに来たことを告げる。
 この間に、3人のウインドウが出た。おおむね予想通り、ジェノスがレベル27で2人は30と31だった。

「特許ぉ? なんだ、発明家の魔導士か?」
「別に珍しくないだろ。魔導士はたいてい頭いいからな。俺たちみたいに敵を倒して稼ぐだけの一本調子の奴ばかりじゃない」

 それもそうだな、とミクローシュは腕を組んで、俺たちに改めて視線をはわせた。そうだろうな。

 自己紹介されたからにはということで、俺たちのことも紹介した。もちろん、あっちで醜態を晒しているインのことも。
 インはいっさい起きる素振りはなかった。起きてもいいと思うんだけど。というか、この短時間でよく寝れるよ。

「あの嬢ちゃんも《鑑定》で見えないらしいんだが、やっぱ魔導士か?」
「ええ。魔法に関しては俺より詳しいですよ」
「ほお。……こう言っちゃなんだがあまりそうは見えねえな」

 笑う。見えたらすごい。

「まあ、あの様子を見たら誰だってそう思うでしょうね」

 俺が軽くため息をついて見せると、うけたようで、ミクローシュは面白がって鼻を鳴らした。同じくジェノスも「魔導士の才は子供の頃から出始めるからな」と、薄い笑みを浮かべる。ウルスラさんのことが浮かぶ。

 そんなところにウィノーナさんが戻ってきた。<満腹処>の店主もいる。汚れた黄色い前掛けはさすがに脱いできたものらしい。

「タナカ様、お待たせしました」
「お、お待たせしまして……」

 店主が取り繕ってくる中、ミクローシュが「俺たち《スカーレット・イーグルス》はそこそこ名うてでな。なにか手伝ってほしい時は言ってくれ」と言葉を送ってくる。
 にしてもかっこいいパーティ名だな。普通にギルド名でもありそうだ。意外と強くならなさそうだけど。なんにせよしばらくケプラにはいないが頼もしい。

「依頼だったら報酬は欲しいがよ」
「もちろん。その時はタダ働きはさせませんよ。ただ、俺たち明日からケプラは発ってしまいますが」
「そりゃあ残念だ。ま、縁があったら頼むぜ」

 ミクローシュはそう言って手を挙げると、ガボールとレナックスの方に寄って俺たちとの会話を終えた。ジェノスも続く。
 当初はガボールがリーダーに見えたが、全然そんなことなかったな。

 話が終わったと見て、ウィノーナさんと店主が俺たちの元にやってくる。
 店主は先日かち割り氷で使ったタライ桶を手にしていて、中にはごく小さな樽とジョッキが2つ、冊子が3冊ほど入ってある。冷やしビールの試飲か?

「《スカーレット・イーグルス》とお知り合いでしたか」
「いえ、今知り合ったところです」

 そうでしたか、とウィノーナさんは微笑し、「多少込み入ったお話になると思いますし、中でお話したいと思いますが」と俺に言ってくるので、頷いた。

 それからウィノーナさんは姉妹を一瞥したあと、インの方を見ながら、

「イン様はお呼びしなくても?」

 という提案。一応声かけるか。

 声をかけるとインはすぐに目を開けた。目をこすりながら俺の説明を聞くと立ち上がり、「私も行くぞ」と宣言した。
 そして、あくび。小難しい話になるだろうし、いる意味あるのかね。

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