霧嶋

杞憂塗れ

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モラトリアムのエピローグ

春になりかけた冬のこと。 大学も単位を取り終わり、卒論も受理された。 僕はこの4年間で何をして、何を学んだのか、あまり覚えていない。思い出せるのは、ただ赴くままに音楽をして、写真を撮って、友人と酒を飲んでいた事だけだ。そこにあるのはいくつもの断片だ。 いつの日かの黄昏、車窓からの景色、雑音、ページをめくる音。 冒頭の写真、いつ撮ったものなのか、あまり覚えていない。わかるのは、ただ海に向かっていたと言う事と、電車の雑音、激しく射す西陽と、それに照らされて妙に生温かくなった

    • 全てが反転した夏のこと。

      2023年の夏は作家としての自分の感触を全身で感じることが出来るようになった。小さい頃からずっと、授業中とか風呂の間とか 頭がぼやけている時間に空想した物事を現実にできたらどれだけ楽しいだろうかと考えていたのだけれど表現手段がなくて悶々としていた。 大学生になって歌や写真といった手段を手に取ったけれど、頭の中がそのまま出てくることはなかった。 結局クリエイティブ系の職種として就職し数年働いた今、どれだけの技術力が身についたのだろうか試したくなって 本気で作品撮りをした。

      • 乾いた9月の体温

        秋ハ夏ノ焼ケ残リサ。 と太宰治が言ったように、どこか虚しい気持ちで暦上の秋が始まった。憧れた人たちの没年齢をもう2年ほど超えてしまって、新たな目標を見つけることができずにいる。 今思えば学生の頃どうしてあんなに死にたかったんだろう?将来への不安?今の方がよっぽど窮地に立ったりするのにな。 心の底から感動する事が少なくなった。 加齢だけでなく電波の海に脳が溺れてるせいでもあると思う。 毎日運動をしているのに体の年齢を測ったら34歳だった。まだ26歳なんですけど。 驕れる

        • ロスタイム

          適度に憂鬱な人生において時々、読み切り番外編の物語が日々に挟まっている。 僕が人生を辞めない理由の一つ。 きっと、この先僕がどんな状態になっても 今日を忘れないんだと思う。 何もない休日、夕方に鳴ったiPhone、突然始まった番外編、言われてしまった「もう全部遅いよ」、 心が息を返した、いつも大切なことだけが言えない、体温の残穢、ふたりの痕、一階の部屋、もう残っていない口実。 指輪を貰いにいく綺麗な後ろ姿は夕日に乱反射していて直視できなかった。 今日の最高気温は17度

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        モラトリアムのエピローグ

          代償について

          月並みな言葉で片付けてしまうが、人生で最も心が揺れた1年だった。2022年を代償の年とする。 就職活動とともに突然始まった僕の人生は夢や名声を前借りしてばかりだった。何者かになりたかった。自分の芸術で食べる事、ものづくりで食べる事、社会不適合を芸術の言い訳にしない事、芸名で呼んでもらう事、不健康で不幸になる事。 数年前叩いた大口をなぞって描き続けた結果幾分か叶った年に思えた。大袈裟な設計図をなぞる作業は熾烈なまでに苦しく過去の自分を責め続けた。2年前は肉体を壊し、今年は精

          代償について

          読書日和

          雨なうえ金もないので、地域の図書館へと向かった。 図書館は大学生ぶりで、少しこわばったままドアを開けた。 そこは大学のそれとは違い静寂で、レポートを打つ音もなく快適だった。人、ぽつりぽつりと新聞をひろげたりなどをしていて、共有された湿度が低い空間を文字が喜んで飛び回っていて捕まえるのに必死だった。 コーヒーで拡張された前頭葉で言葉たちを捉えると目が眩んで、どうやら今日の時点で最高知能に達した様だったので考える事をやめた。 ドアを出た外気温はゆっくりとした雨で、リズムを感

          読書日和

          無駄

          大衆酒場で曖昧になった言葉を薄いハイボールと飲み込んだ。 つまらない話を微笑でやり過ごし煙草を灰皿で曲げた死体へと変える作業を繰り返す。 くだらない。くだらない時間の終わりを待ちわびている。 世間からすればくだらないのは俺の方で 生産性の欠けらもない 多少の知識と情緒を孕もうと 経済的に何の価値もない 無意味無価値無駄無能 灰になったマルボロ、赤くなった頬、空になった杯 美しかった日々さえも秒針が1秒毎に風化させてしまうなら人生など間も無く終わればいい。

          木曜日

          「惰性で吸う煙草」の語感が好きだ、滲み出る救い用の無さがどうしようもなく好き。煙草を吸う木曜日は憂鬱だな、部屋着のままベランダに出ていると寒さに負けてクールスモーキングを諦めた。金木犀の香りは溶けて跡形もなくなってしまった、気温と正反対な真っ赤な空が目に滲む、夕方のこの時間だけが生きていると感じる。鬱病のフリをし、煙草を吸い、作家の真似事をし、虚無主義者を気取っていたらいつのまにか本物の鬱病になってしまったよ、 馬鹿みたいだな、泣けてくる 刹那的に生きているつもりでも、明日

          木曜日

          冬空と煙草

          ああ、このまま溶ける様に意識が消えてしまえば、と布団の中で願っているけれど、時間は残酷で何事もなく毎日が始まる、生きる事そのものが地獄ではないのかというのが僕の考えだけど、世の中を見た限りではどうやら僕は少数派らしい。世界ごと消えてしまえなんて願うほど怒ってはないし、僕だけが消えたところで何も変わらないのも承知している、不確定な未来は暗く濁って見えるし、生きている意味も死ぬ意味もないとなれば、虚無主義者になるしかない。そうすれば、世捨て人を気取れば、現状を変える劇的な行動を自

          冬空と煙草

          深夜、雨のリズム

          雨、繰り返す深夜は眠れなくて狭い部屋は5畳半、 外、スリッパを履いてスウェットのまま歩く 空、荒川の空は街の明かりに照らされた公害だった 僕はポケットに突っ込んできた煙草に火を付けた、 一、二、三本目でハッピーエンド。昔、読んだ小説の主人公が吸っていた銘柄。 呼吸を、していた、この呼吸がいつまで続くのか時々わからなくなるけれど明日も僕は他愛のない日常を過ごしていく、恵まれた物事を当たり障りない事象として脳が処理して日々が時間が過ぎ去っていく。 時々寂しくなる、汚れが雨に

          深夜、雨のリズム

          片道の新幹線

          新大阪を出る時、餞別だとたくさんの物をもらった。両親、友達、バイト先。餞別の大方はウォッカとコーヒーで、皆僕の嗜好をよくご存じで少し嬉しくなる。 車内販売でコーヒーを衝動買いした。高速で流れる街並みの遠くを眺めて、世話になった人達の顔をひとり、ふたり、思い出してみる。この中で、もう二度と会えない人は何人いるのだろうか。 例えば、その人物と今後の人生で金輪際顔を合わせないとする。すると、最後にさよならした記憶像が、僕にとってその人物の遺影となり、葬式ということになる。逆

          片道の新幹線