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代償について

月並みな言葉で片付けてしまうが、人生で最も心が揺れた1年だった。2022年を代償の年とする。

就職活動とともに突然始まった僕の人生は夢や名声を前借りしてばかりだった。何者かになりたかった。自分の芸術で食べる事、ものづくりで食べる事、社会不適合を芸術の言い訳にしない事、芸名で呼んでもらう事、不健康で不幸になる事。

数年前叩いた大口をなぞって描き続けた結果幾分か叶った年に思えた。大袈裟な設計図をなぞる作業は熾烈なまでに苦しく過去の自分を責め続けた。2年前は肉体を壊し、今年は精神を壊した。もう何も残っていなかった。

秋、残骸のような身体を引き摺って慣れ親しんだ街へと帰った。そこで出会ったのは変わらない友人達と変わって行く街、取り上げられた喫煙所、昔少しだけ好きだった人。

あれから3年、各々の時間とそこにあった苦悩の相互確認をした。工事が進んで地元の景色は変わったけど、空気は変わっていなかった。捨ててしまったつもりの子供の頃の宝物が実家の部屋に残っていたり、報われなかった過去の忠義が今になって返ってきたりした。巻いた種は悪いものばかりではなく、少しだけ世界と仲直りできた気がした。あたかも救われたかのような書き方をしているが、これは僕が健常者と同じスタート地点に立ったにすぎない。


髪を短く切った。人の目を少しだけ見れるようになった。長い前髪で目を隠す必要がなくなった。

少なくとも僕はこの不自由な自由の中で精一杯生きたつもりだ。どこか知らない世界でまた人間になれたらいいな。

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