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9月16日の手紙 X(Twitter)依存を考える

拝啓

夏に完全逆戻りの1日でした。
明るくも厳しい日差しです。
ジリジリと暑く、蝉の声が聞こえないのが、妙な感じです。
昼過ぎになってから干した洗濯物も、瞬く間に乾いてしまい、熱を蓄えるほどです。
日のあるうちは、外に出るのは危険な気がしたので、クーラーの効いた自室でごろごろしていました。

この時間に、「鵼の碑」を読めばよかったのですが、ひたすら流れゆくX(Twitter)を眺めてしまいます。
不景気で不穏で希望のない雑多な情報が、怒りや嘲りとともに奔流となって目の前を流れています。
情報に賛成でも反対でもなく、希望がない、 と感じます。どうしてこんな「今」にいるのでしょう。
考えていた未来とはあまりに違う、希望がない「今」にきてしまったような気がします。
何故だか、知らないうちに、もっと全てが良くなるように信じていたのです。よく考えれば自分が「今」を作る世代だったのに、誰か偉い人がやってくれるような気がしていました。
そういうことも含めて、残念で、希望がないと感じてしまいます。

希望が消えた状態の頭は、ろくなことを考えません。
「ジムに行こう」とか「買い物に出よう」と頭をよぎるたびに、
「暑いからやめておこう」
「行って嫌な思いをしたら?」
「筋肉痛は辛い」
などと、否定的な内なるツッコミが現れてやる気を削ぎます。
こうなってくると、何をしようにも
「そんなことをやって何の意味があるのか」
「そんなことは無駄ではないのか」
「やっても疲れるだけでは」
「何も考えたくない」
などと考えてしまいます。

X(Twitter)のタイムラインにはそういう魔物が住んでいるのかもしれません。
仮に「希望のない怠惰」とでも名付けましょう。
「希望のない怠惰」は、希望のない情報を流すことで、それに触れた人間を怠惰に陥らせます。
人間が何もかもがどうでも良くなって、ひたすらスマホを上下にスワイプするだけの存在にする、そういう魔物です。
それはまあ、冗談ですが、案外本当に、イーロン・マスクはそういう世界を望んでいるのかもしれません。利用者がずっとX(Twitter)と接続している、ディストピアSF小説みたいな世界を。あながち間違っていないような気がします。
ゾッとしたことで、少しスマホとの間に距離ができます。
それでも、ぐずぐずと寝転がっています。

このままでは1日が終わってしまいます。
せめてジムを覗くくらいはしたほうが良いでしょう。
覗くだけ、さっと、ジムを覗くだけならどうでしょう。

えいや、と思い切って、スマホを伏せ、身体を起こします。
「今からやっても疲れるだけ」
「やめとけやめとけ」
という「希望のない怠惰」のツッコミは聞かないようにします。
聞かないし、考えないで、行動に集中します。
まず、カバンに財布を入れます。
イヤホンを首にかけます。
水筒に麦茶を準備して、靴下を履きます。
まだまだ、「希望のない怠惰」がタイムラインに戻るようにと囁いています。
スマホのロックを解除してはいけません。
考えない考えない、とにかく考えないことが大切です。
靴を履いて、外に出ましょう。
靴を履いて鍵を閉めて、外に歩き出せば、第一段階は突破です。
スマホはカバンの中にしまいました。

できるだけ目を動かして、しっかり周りを見ます。
空は黄昏ています。黄金色のジンジャーエールの上に、水色のソーダを,注いだような夕暮れです。雲は濃紺です。それぞれの色に集中します。
どうしても撮りたくなって、スマホを出して写真を撮ります。ジンジャーエールとソーダの二層には全く見えません。
グラスの底にいるような美しさだったというのに、どこへ行ってしまったのでしょう。
スマホをしまって、今度こそ取り出さないようにして、歩き出します。
歩いている人や看板、ビルの陰影などに集中することで、スマホを取り出さずにジムまで辿り着きました。
手を消毒して、スマホをかざして、中に入ります。
ここで止まってはいけません。
何も考えない、何も考えないと唱えながら、イヤホンを装着、Audibleのアプリを起動して「プロジェクト・ヘイル・メアリー」を再生します。
ナレーターの興奮した声が聞こえます。そうそう、ものすごく面白いところで止まっていたのでした。
消毒液を吹き付けたペーパーで、エアロバイクの座席とハンドルを拭き、さっと飛び乗ります。考えない、何も考えないと唱えながら、エアロバイクを漕ぎ出します。
まだ、「希望のない怠惰」は、こちらを捕まえてくる可能性があります。
「プロジェクト・ヘイル・メアリー」に集中しながら、エアロバイクによる、息の苦しさや足の重たさに囚われないようにします。
ここで止まってはいけません。15分は漕ぎ続けるのがポイントです。
大体、7分漕ぎ続けたころで汗の玉が親指の下あたりに浮かんできます。8分ごろに、「希望のない怠惰」が最後の引き留めをしてきます。「こんなことしても疲れるだけだぞ」
完全に無視します。まだ、突っ込んでいるようですがずいぶん力は弱まっています。
エアロバイクを15分漕ぎ終える頃には、「希望のない怠惰」は退けられており、ジムモードに入っています。あとは空いているマシンを順番にやり、トレッドミルで走るだけです。
その後数時間は、「希望のない怠惰」は現れません。

心身ともに普通くらいの元気がある時は、タイムラインにいる「希望のない怠惰」という魔物は、上記のように「考えないで行動」を、ひたすらやることで退治できるということがわかりました。
お化け退治にびっくりするほどユートピアを裸でやると同じくらいの非現実的に思えますが、
効きます。

問題は今回ほど心身ともに元気がない時です。
これはまだまだ研究の余地がありと思います。
もし、良い方法をご存知でしたらご教授ください。

それでは。


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