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シャーロック・ホームズ家の料理読本【復刻版】 感想


朝日新聞出版、著ファニー・クラドック、訳成田篤彦、「シャーロック・ホーム家の料理読本【復刻版】」の感想です。
こちらはシャーロック・ホームズのパスティーシュレシピです。
書泉グランデさんが、レトルトのスープと共に発売しているのをみつけて、購入、3月ごろに到着しました。
もともと、シャーロック・ホームズが好きだった身としては見逃せない!と思ったことと、
「ハドソン夫人のことを考えたことがなかった、彼女はどういう人なのだろう」と思ったのです。
ホームズの口からたびたび名前は出るけれど、どういう人なんでしょう。


ハドソン夫人はどういう人か


子供心に、「夫人」とつくのだから、夫がいる、中年から上の女性なのだろうと考えていました。ホームズの言い方だと、料理を作っているようなので、お手伝いさん、もしくは、料理人さんなのだろうと。
イメージでは、ふっくらとした大きい方なのではないか、と思っていました。

さて、この本では、ハドソン夫人は、料理番の経験がある、「30にしかならなかったのに40と年齢を偽ってしまった」女性ということになっています。
子供の頃のイメージでは、50代から上の年齢だったのでとても驚きました。
現代の感覚でいうと「お姉さん」どころか「女の子」です。
この設定はもちろん、公式なものではなく、この作品において、著者が作った設定ではあります。
そうではないと、ホームズとワトソン、2人亡き後に回顧録を出すという経緯にならないからです。
アーサー・コナン・ドイル卿は、どんな女性をイメージしていたのでしょうか。
詳細に描かれていないゆえに、パスティーシュでは、設定を広げていく余地があるということでしょうね。

小説ではなくレシピ集


ハドソン夫人が甥に勧められて、シャーロック・ホームズとワトソンに作っていた料理のレシピを書き綴った記録という体のレシピ集です。
ハドソン夫人は、ホームズとワトソン、そしてその周囲の人々の思い出を語ってくれますが、基本的には、レシピ集です。
ですから、ひたすら、レシピが続きます。
料理好きでない人は面食らうかもしれません。
でも、これが非常に興味深いのです。
ホームズが食べていた料理がこの通りだったわけではないでしょうが、
ヴィクトリア朝時代にどんな料理が作られ、食べられていたかを知ることができます。
初めに言い忘れましたが、
著者はヴィクトリア時代の人間ではありません。
こちらのレシピ集のイギリスでの初版は、1976年です。
著者が資料を調べて、何度も試作したものをまとめたものです。
もしかすると、味付けは近代的なのかも…。
この本の面白さは、レシピ集であること!
材料、そして調理器具、調理時間が書かれてあり、それこそが面白いと思います。

英国料理はおいしくない?


残念なことに、今まで英国に行ったことはないのですが、英国の料理といえば、あまり評判が芳しくありません。はっきり書けば、「おいしくない」「味がない」と言われることも多いようです。
しかし、このレシピ集を見ると、それは日本人の思い込みなのではないだろうかと思います。朝食、スープ、魚料理、鶏と禽獣肉のお料理、肉料理、臓物料理、チーズ料理、食後のお菓子、おやつ、お口直し、お飲み物、ジャムと漬物、という章があり、それぞれ5〜10ほどのレシピが記載されています。
この本においては、ホームズは美食家、ワトソンは海外帰りのためか、濃い味を好むという設定になっています。
それゆえに、ヨーロッパの他の国の料理やインド風の料理などが入っていて、かなりバラエティに富んでいます。
どの料理も手間暇かけた丁寧な調理手順を必要とするもので、大変美味しそうです。
現代の英国のことはわかりませんが、ホームズたちのいたヴィクトリア朝の英国料理は豊かなようです。
まぁ、日本人としては、
野菜をもっと食べたいとは思いますが、
イメージしていたよりずっと、
美味しい英国料理はたくさんある(あった)のだなぁと思いました。

調理器具はかまどとオーブン!


アンソニー・ホロヴィッツが書く、英国の台所には、大体においてオーブンがあり、しかも「アーガ」のオーブンであると必ず、それが描写されます。
「アーガ」のオーブンは、羨望のブランド品のようで、
立派なオーブンがある台所は、非常にイギリス的な世界のようなのです。
この本では、「その壺をかまどの端において」という記載と「オーブン」という記載の両方があるのですが、これは別々のものなか、それとも同じものなのか、わかりませんでした。
いずれにせよ、このレシピでは、調理時間は極めて長くかかることが多く「かまどの端において数時間」などと書かれており、調理が非常に時間がかかるものであったことをしのばせます。
そもそもジャガイモを茹でるのに、電子レンジで10分でも面倒がる現代人は、先人たちにこころからの許しを請わなくてはいけません。
美味しい料理を食べようと思うと、数日前から、材料の入手、下拵え、調理という膨大な時間がかかるのです。
本当に現代って便利なんだなぁと思います。材料に「雨水」があるレシピもあり、ヴィクトリア時代の水事情も気になりました。
「清潔な雨水」って書いてあったりするのですよ…。
レシピ本から、実際に調理するのが好きな人間ですが、
このレシピは現代日本で再現するには難しい料理が多いので、
今のところ、何も作れてはいません。
とはいえ、著者からの注釈、訳者から注釈がついていますので、聞きなれない言葉のせいで理解ができないということはありませんので、ご安心ください。

体調が悪い時に「ビーフ・ティー」「ビーフ・ゼリー」?!


体調の悪い時には消化の良いもの、
と思い込んでいたので
やせっぽっちの子どもを健康にするためとか
病人用に「ビーフ・ティー」「ビーフ・ゼリー」が推奨されていることには驚かされます。
肉のスープが滋養強壮ということなのでしょう。
しかし、その作り方が、予想を超えていました。
瓶や壺にぎゅうぎゅうに牛肉を詰め、長時間加熱するというものなのです。
でもまぁ、お粥も米をドロドロになるまで煮込んだものだから、作り方に変わりはないと言えばないのかもしれません。
消化にいいという意味では同じ、ということでしょうが、
体調の悪い時に、牛肉をそこまで食べたいとは思わないのが事実です。
自分が東アジア人、しかも農耕を主にする国の人間であり
先祖も長く米を食べてきた民族であること、
体調が悪い時には白粥に梅干しの文化であることを、
否が応でも思い出させてくれます。
体調不良時の「習慣」は「地域文化」によるもので、絶対の習慣、完全無欠の習慣ではないのです。

楽しむだけでなく、創作や二次創作のお供にも

ホームズが活躍した時代に思いを馳せるだけでなく、
その頃の料理人、つまり女性たちにも思いを馳せることができる、貴重な本となっています。
創作や二次創作の参考にもなりそうです。
異世界転生もので、転生先をヴィクトリア朝時代に似た世界に設定した場合、
大活躍するのでは…と思ってしまいました。
その辺りを舞台にした創作をされている方にはおすすめです!

付属のスープはこれからの楽しみ

さて、付属のスープ、「ワトソンくんのおきにいり マリガトーニースープ」はまだ開封していません。
レトルトパウチ入りで、わりと賞味期限が長いので、
秋頃いただこうかな…と思っています。
カレー風味の羊入りスープだそうです。
うすめのマトンカレーみたいなものかしら?と思っていますが、どんな味でしょうか。
こちらも楽しみです。

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