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【小説】弥勒奇譚 第二十三話

数日後、ようやく厨子も完成し薬師如来像は再び里人の手で社務所から出て厨子に安置された。
不空の造った台座に座し光背を背負うお姿はまばゆいばかりであった。
開眼供養が済んで秘仏となればもうお目にかかれないとあって、どこから聞きつけてきたのかひっきりなしに人が訪れて手を合わせていった。中には室生寺の仏師も何人か訪れた。彼らははじめはからかい半分のつもりで来ていたようであったが、弥勒の像を見ると一様に厳しい顔つきになり押し黙ったまま帰って行った。
弥勒は長い間の緊張から解放されたこともあり仕事場の片づけもやる気が起きず無為な日々を過ごしていた。
そうこうしている内に不動が嬉しそうな顔をして
仕事場にやってきた。
「開眼供養の日取りが来月の八日と決まりましたぞ。供養の導師は室生寺の虚空上人が引き受けてくれました」
「よく引き受けてくれましたね。早速、師匠にも知らせます」
「どうも、そなたの薬師如来像の出来が見事な事を
仏師達から聞き及んで引き受ける気になったらしいのじゃ」
不動は自分の事のように嬉しそうな顔で言った。

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