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【オリジナル小説】金の麦、銀の月

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【金曜日更新】オリジナル小説「金の麦、銀の月」のまとめです。 地道に連載していく予定です。
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#小説

金の麦、銀の月(11)

金の麦、銀の月(11)

第十話 贈る言葉

日も少し暖かくなった三月、私たちは四年生の卒業式を迎えた。四年生は去年一年間、就職活動や卒業論文で忙しく、直接関わる機会はあまりなかったが、先輩方が制作に携わった文芸冊子は何度も読んでいたため、作家としての先輩方はよく知っていた。

編集社や新聞社など、物書きらしい職に就いた先輩もいれば、堀のように技術職に就いた先輩もいて、希望に満ち溢れた表情が垣間見えた。

文芸サークルでは

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金の麦、銀の月(5)

金の麦、銀の月(5)

第四話 広がる世界

夏休みが終わり、二学期が始まった。
大学生活にも慣れてきた頃、心待ちにしていたイベントが近づいていた。大学の一大イベントであり、文芸サークルでは文芸誌が発行される日でもある文化祭である。

文芸誌に載せる作品は、学年ごとに詩篇と短編・中編・長編の小説が一作ずつ選出される。私は長編にエントリーしてみることにした。と言っても、各学年四、五人しか所属していないため、同級生とジャンル

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金の麦、銀の月(4)

金の麦、銀の月(4)

第三話 さりげない瞬間に

私の物語が世に出て二ヶ月。その間に、家族や友人、大学時代の先輩方など、多くの人から祝福のメッセージをもらった。大学時代の親友なんかは、私のデビューを自分のことの様に喜んだ様子で電話をくれた。

穂高の方にも共通の友人などから度々メッセージが送られてくるらしく、私たちの食卓には大学時代の思い出話に花が咲いた。

私が大学に入学した当時、穂高は演劇サークルで脚本担当兼役者を

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金の麦、銀の月(3)

金の麦、銀の月(3)


第二話 大きな流れの中で

このメールが届いてからの二ヶ月間は、本当に目まぐるしく時が過ぎていった。

メールが届いた次の日、出版者宛に「本を出版したい」と返事をすると驚くべき速さで返答があった。一週間後に、担当者と今後について話し合いましょうという内容だった。

私は次の日の仕事終わりに実家へ帰り、押し入れの奥に眠っていた文芸冊子を引っ張り出してきた。少し色あせた表紙をめくり、自分の作品を読み

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金の麦、銀の月(2)

金の麦、銀の月(2)


第一話 月が満ちる夜

穂高とラーメン屋に出かけた日から数日後の夜のことだった。晩御飯もお風呂も終わり、私は密かにネットサーフィンをしていた。穂高の誕生日が二ヶ月後に迫っていたからだ。

ブブッとスマホが震え、通知音と共に一件のメールが届いた。

ショップか何かの配信メールだろうと、私は無視しかけたが、通知欄を見てふと手が止まった。そのメールの宛先がずいぶん前に使っていたメアドだということに気づ

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金の麦、銀の月(1)

金の麦、銀の月(1)

***プロローグ***

今日も隣の部屋からカタカタと軽快にキーボードを叩く音が聞こえてくる。
最近はかなり調子がいいようだ。

二年前、穂高(ほだか)が小説家になるという長年の夢を叶えた時、自分の事のように嬉しかったことを覚えている。私が諦めてしまった夢も穂高が一緒に叶えてくれたような気がした。

カレーの入った鍋を温め直し、ご飯食べるよーとドアに向かって声をかけると、「もう少し!」というくぐも

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