【短編小説】世界に落ちる雫
遠くで聞こえる雷のような鼾をかきながら、彼女が寝ている。その隣に腰を下ろす。冷房で冷えた床が素足に心地好かった。彼女が目を覚ます気配はない。僕は眼鏡を掛けて読み掛けの文庫本を開いた。夕焼けにはまだ早い太陽の光が、レースのカーテン越しに入っている室内。夏になり、日脚が伸びたのだろうと僕は思う。湧くような白雲がまっさらな青空に映えていた。
本の残りのページがあと少しになった時、彼女が大きく唸った。猫のようだ。悪い夢でもみているのだろうか。起こした方が良いのかと逡巡していたら