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レジェンドサーファーがNPO団体を設立。今世の中に伝えたい、海のリスク、海をとりまく環境のこと

鎌倉に伝説のサーファーと呼ばれる人物がいるのをご存じでしょうか。日本のサーフカルチャーを牽引し、盛り上げてきたプロサーファーの出川三千男さんです。出川さんは現在、鎌倉を拠点にNPO法人NAZeの代表として海文化を伝え、海を守るためのさまざまな活動に取り組んでいます。そんな出川さんに、NAZeを立ち上げた経緯や活動の軸にある想いを伺いました。

(プロフィール)

出川 三千男
NPO法人NAZeの代表。1950年、神奈川県鎌倉市稲村ヶ崎生まれ。海に親しむ環境の中でサーフィンに出会い、夢中になる。国内外のサーフィン大会に出場し、71年全日本アマチュアサーフィン大会優勝の実績を持つほか、日本プロサーフィン連盟(JPSA)の前進となる日本サーフィン連盟NPSAを発足するなど、日本における70年代のサーフカルチャーを牽引するレジェンドサーファーとして知られている。2020年には特定非営利活動法人(NPO法人)NAZeを設立し、子ども向けサーフィン体験やSUP体験など、さまざまなイベントを実施している。

「なぜ、自然環境がこんなに変わってしまったんだろう?」
1つの問いから生まれたNPO法人NAZe

ー2020年にNPO法人NAZeを立ち上げた経緯について教えてください。

きっかけは、僕が18歳の時に撮影された一枚の浜辺の写真です。今は七里ヶ浜もほとんど砂浜がなくなっちゃったんですけど、その写真に写っている砂浜はすごく広かった。僕はあの頃の記憶を鮮明に覚えているから、「今は、どうしてこんなになっちゃったんだろう」と思ったんですね。そんな疑問を持ったことから、団体を立ち上げたんです。だから、「NAZe」というネーミングは「now and then」に由来するんですけど、鎌倉には禅寺があることと、なぜ(why)という意味も掛けているんですよ。大自然が今と昔とで変わってしまったことをふくめ、自然環境のことを遊びながらみんなに知ってもらいたい。そんな想いで活動を行っています。

取材を受ける出川さんの背景のフラッグには、
立ち上げのきっかけになった写真が転写されている。

ー立ち上げ後は、どのような活動を行ってきたのでしょうか。

2021年は七里ヶ浜の海で子ども達が海で遊ぶ活動や、代官山でゲストを招いてトークショーや音楽ライブ、映画鑑賞をして海や環境問題について考えてもらうイベントを行いました。代官山のイベントは、都会に住む人が海を感じ、海辺に住む人が都会を知って交流を持つ。そんなループができたら面白いなと思って開催しました。

ー参加者の反応はいかがでしたか。

たとえば、海遊びの活動は宝探しなんかをして一日海で遊ぶような内容だったんですけど、活動終わりには「もう終わっちゃうの?やだー!」と駄々をこねる子も出るくらい、子ども達がすごく喜んでいましたね。

海でのリスクを肌で感じ、非認知能力を養う子ども向けイベントなどを開催

ー今日はこれから海遊びイベント『Touch the Sea』のサーフィン体験教室を行われるそうですが、このイベントは過去にもされていたんですか。

サーフィン教室は今回が初めてです。僕らが海をフィールドとする団体ということもありますが、今世間でもよく取り上げられている「非認知能力(コミュニケーション力や自己肯定感、共感性や創造性などの生きるために必要な数値化できない能力)」というのも、活動テーマのひとつにしているんですよ。テレビゲームなどのデジタルの遊びをオフにして、目の前のことに夢中になることが子どもに最高の経験になると僕は考えています。非認知能力をのばす入口として、楽しんで参加してもらえるイベントの一つとして開催しました。

ー出川さんは長年サーフィンをされていますが、サーフィンの魅力を教えてください。

僕は学校では劣等生だったんですけど、サーフィンを通して自分と向き合うことで、「自分は一体何者なのか」を考えて自分自身を発見できたんですよね。それに波の危険性など、海でのリスクを肌で感じることで判断力も身につくようになります。たとえば、5歳くらいの小さな子が自分で物事について判断ができるなんて、すごく面白いことですよね。サーフィンは、楽しい、気持ちがいいだけではなくて、それこそ非知能力を育むのにうってつけのスポーツだと思います。

危ないからと何もさせないことが一番無責任。
だからこそ、大人が子どもをしっかり見守らなければならない

ー海のリスクがある中で子ども達にサーフィンをさせる際、どんなことに注意をしていますか。

一人のお子さんに対して、サーフィンをマスターしている数人の大人のヘルパーをつけるようにしています。海でサーフィンをするのは危ないことは百も承知なんです。だからこそ、まわりの大人が見守ることがとても重要なのだと思います。「これをしてはだめ」とみんな簡単に言いますけど、それは裏を返せば「責任を取りたくないからさせない」ということなんじゃなかとも思うんです。何でもだめだと言われて抑制されてしまうと、いつかは我慢が途切れてしまう。それこそ社会に出た時に危ない気がしませんか。

ーこれから、さらにどんなことに取り組んでいく予定ですか。

たとえば、面白いプロジェクトがあれば誰かがスピンアウトしてさらに広げていくなんていうことも考えています。面白い活動をしている方がいれば、コンタクトをとってイベントに協力していただいたり、いろんな人とつながってスケール感のある楽しい活動を展開していきたいです。

ー最後に、出川さんが海で過ごす際に気をつけていることや海のそなえを教えてください。

長年海に親しんできた僕は、気象や潮の状況から生まれるリスクを自然の中で学ぶことができました。経験がなければ、いざという時の危険度も高まります。だから、何かが起きた先のリスクを回避するためには、子ども達に経験させることが大事なんだと思います。だからこそ、その経験をさせる際には大人はつき合って、しっかり見守る必要があるんです。危ないからと何もさせないことが一番無責任なことなのではないかなと考えています。

海で遊ぶ楽しさを知ることで、子ども達に海を大切にする意識を育んでほしい。NAZeが主催する海遊び体験イベント「Touch the Sea」

出川さんのインタビューでも出てきた、小学生対象のイベント『Touch the Sea』。これは無料でサーフィンやSUPを体験できるイベントで、2022年9月10日(土)に鎌倉の腰越エリアの海辺で開催された。

イベントでは、サーフィン体験とSUP体験が行われ、地元の子ども達数十人が参加。サーフィン体験では、まずはサーフィンを行う前にライフセーバーが離岸流などの海で気を付けるべきリスクについて子ども達に説明。また、ウォーミングアップとしてビーチフラッグスや準備体操を行い、海遊びの際に必要なことを子ども達に学んでもらうように主催者側が配慮しているのがわかる。
 
インストラクターから波に乗るコツを教わった後は、いよいよサーフィン体験がスタート。子ども達は大人にボードを持つのを手伝ってもらいながら、海の中へ。最初はボードの上に立つのにも苦戦し、大人たちの助けが必要な状態だったが、ものの10分もすれば一人で波を乗りこなすまでに。持ち前の柔軟性とチャレンジ精神、そして集中力で目の前の壁を乗り越えていく子ども達の姿には本当におどろかされる。

インストラクターや保護者といった大人たちが見守る中、子ども達はサーフィンを思いきり満喫し、サーフィン体験が終了。その後は、保護者も一緒になって浜辺のゴミを拾ってきれいにするビーチクリーン活動を行った。実は、本イベントが目指しているのは、子ども達に海遊びを体験してもらうことに加え、海の文化を伝え、海を大切にする意識を持ってもらうこと。ゴミ袋を持って一生懸命ゴミや瓦礫を拾って入れていく子ども達の姿に、海で遊ぶ楽しさを体験し、海を身近に感じる意識が確実に芽生えていることを見て取ることができた。

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海に溶け込む、自然体の姿がとても魅力的だった出川さん。「構えてないからかな? うん、そうかもしれない。なんでもいいんですよ、年取ると」と笑っていらっしゃいましたが、自然体でありながらも海に対する熱い想いが活動を通してひしと伝わってくるインタビューでした。NAZeさんの今後の動向にも注目していきたいと思います!

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特定非営利活動法人NAZe
https://naze.or.jp/