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「生きる人、全ての心に原っぱを」―原っぱ大学立ち上げまでのストーリー― (株)HARAPPA代表塚越暁


(株)HARAPPA 原っぱ大学ガクチョ―
神奈川県逗子を中心に、海と山に囲まれた土地で『365日間、親子のための遊びの学校』原っぱ大学の代表を勤める

遊ぶことにはスキルはいらない。正解もない。目的もない。
大人だって子どもだって遊んでいる当人が真剣になって、愉快な気持ちになって、周囲の人と笑い合えればなんだっていい。

そんな当たり前の「遊び」の感覚は、子どもにとってはもちろん、大人にとってもかけがえのないもの。

そう語る塚越さんが、原っぱ大学を創るまでのストーリーを伺いました。



受験勉強が得意だった学生時代

学生時代、やればやるだけ点数が伸びていく「勉強」が得意だったと話す塚越さん。
大学進学の時にも『偏差値が一番高い大学』を目指して、日々の勉強に没頭していたと言います。

「僕はいわゆるレールに乗っていた人間でした。名前のある、”良い”大学に入る事が大切だと思っていたというか…。それ以外の目標は見えていなかったんですよね。だから、これを学ぶために大学に行きたい!とかは無くて。」

『良い大学に入ること』が目標だったと振り返ります。
入学してからも、学びたい事は定まらず、サーフィンなど遊びに明け暮れていたとの事。

「大学3年生頃になり、周りが就職活動を始める雰囲気だったので、僕も何も考えずにそれを始めました。そこで初めて、自己分析とかいうものを始めてみるんですが、自分の事なのに自分のやりたい事が全くわからない……。」

やりたい事はずっとわからないまま。
しかし『就職しない』という選択肢は浮かんでも来なかったと話します。

「やりたい事がないのに、無意識に会社を比較して選んでいる自分がいました。この大学に入ったんだから、年収はこれくらいほしいとか。何となく一流企業に入りたいとか。その頃の自分を思い出して、自分だせぇなぁと思います(笑)。」

いわゆる一流企業といわれる会社を受けようと決めた塚越さん。
しかし、

どうせ働くなら世の中にとって意味のある事をしたい

当時もそんな気持ちがあったそうです。

「有難い事に、僕は恵まれて育つことができていて、お金を沢山稼ぎたいという欲求はあまりなかったんですよね。もっとこう、人類に意味のあることをしたい…と青臭く考えていた。それは何だろうと考えた時に浮かんだのは、アフリカにダムをつくるとか、自然保護の観点とかで。地球を守る人になりたいと思っていました。」

その考えから『エネルギー関連の活動をやっている総合商社に入ろう』と思い立ち、話を聞きに行ったそうです。

「企業に話を聞きに行き、僕は地球を守りたい!とキラキラした目で胸を張って言ったんですよ。でも、その社員の方に『馬鹿か?商社は、商う会社と書くんだ。商いに興味がない奴が来ても通用しないから。お前みたいなやつは来るな』と言われました。いや、その先輩のアドバイスは至極真っ当だったんですが(笑)当時の僕は、何なんだこの会社…と思っていたわけなんです。だからと言って、国連、NGOに行きますとか、そんな選択も出来ず…。」

自分、小さいな。

そう思っていたと言う塚越さん。
当時、塚越さんの考え方は異端的で周囲にあまり受け入れられなかったとの事。

そんな時。ある会社の広告が塚越さんの目に留まります。

「『Follow Your Heart。一人ひとりが自分の価値観に従って、素直に選択できる世界を。そんな社会をつくっていきます。』
リクルートという会社の理念です。響きました。地球規模にハードに向き合うのではなくて、一人ひとりの可能性に向き合う。それってすごく意味がある事じゃん!と。ビジョンとか理念とかにすごく惚れて、僕もやりたいです!!という熱で、入社を決意しました。」

当時を振り返り、その頃からきっと何故自分が存在するのか、示したかったのだろうと話します。


震災をきっかけに考えた、自分の存在意義

(株)リクルートの素敵な理念に惹かれ、入社した塚越さん。
しかし、入社してからはどんどんと『会社が大切している事』をこなす人間になっていったのだそうです。

「2002年に入社した時の僕は、会社のガツガツした感じに適合できない子でした。競争をかちぬけ!ハングリーに立ち上がるやつがえらい!目標達成意欲が強いやつがえらい!という文化に、ついていけない、しんどい…。と感じていていて。」

その環境に適合できない辛さを抱えながらも、時間をかけて合わせていったと話します。

「だんだん会社のルールで勝負できるようになって、仕事も出来るようになっておもしろくなってきたと感じていました。評価も上がって、偉くなっていくことが楽しかった。」

『俺は出来るサラリーマンだ!この会社で偉くなっていくんだ!』

その気持ちで、毎日の日々にやりがいを感じていたと言います。

「思えば、自分が何を大切にしているのか、自分の存在意義ってなんだっけとか、会社にいる間は考えなかったですね。その必要がなかった。会社との兼ね合いの中で、自分をどう発揮するかを目標として立てていましたし……。」

この会社で成果を残していこう。
そう考えていた塚越さんの人生を、一変させる出来事が起こります。

2011年。東日本大震災。

「その日、僕は東京の40階建てのビルにいました。この高いビルの、企業の要の一部を担っているんだぞという気分で働いていました。いつもと変わらない日常を過ごしていた。そんな時に起こったのが、震災でした。

衝撃だった。世界が変わった気がしました。昨日までの連続が、ある日突然終わる。」

世界は急に終わる。人生はいつ終わるかわからない。
そのリアルを突きつけられて、改めて自分を振り返り考えたと続けます。

「このまま、僕はこの会社で偉くなりたいんだっけ。この会社で働くことの意味って何だったっけ。今この瞬間人生が終わったとしたら、僕が生きた意味ってなんだったんだろう。そう思いました。」

がむしゃらにやってきて、仕事も出来るようになって
キャリアの節目と震災がオーバーラップした瞬間だったと語ります。


『やりたい事=稼ぐ』にならなくても良い。マイプロジェクトの旗揚げ

震災を経験し、自分は代替可能な人間なのではないかと考え始めたと話す塚越さん。
名刺を見て、「会社の名前をとってしまったら、自分には何もない。」と思っていたと話します。

「じゃあ転職してみようか、とか思うんですが…。どんな仕事に転職したいとか、何かをやりたいという欲求すら湧かない。
私はこういう事ができます、と言える事もない。進みたい方向もない。

何だ俺。と……。

行き場も無くて。困ったな…、という感じでした。」

そんな気持ちを抱えていたある日、たまたまSNSで流れてきたスクールとの出会いが
塚越さんの人生を大きく変えるきっかけになります。

「自分のやりたい事と、お金を稼ぐことがリンクしてないと駄目だと思っていました。でも、それが成立してなくてもいいと書いてあったんです。生業ではないけど、小さなプロジェクトが立ち上がったら、世界はもっとよくなる。と。
会社員でお金を稼ぐという事ばかり考えていた自分にとって、すごく衝撃でした。」

この状況を変えたい。
その想いで、2011年12月からスクールに通い始めたとの事。

そのスクールで自分のやりたい事、出来る事、好きな事、嫌いな事を深堀っていった塚越さん。

「自分の好きな事を掘っていくと、山の中、焚火にわくわくする。企業で働いていても何かをつくりあげる事はわくわくする。と言った自分がクリアになっていきました。」

その中でも、”子どもと一緒に遊ぶ事”が、何よりも自分を救ってくれていると気づいたそうです。

「あぁ、子どもたちと本気で遊びたいな。ずっとこの幸せを感じていたい
仕事としてでは無く、自分が子どもと一緒に遊びたいからという理由でプロジェクトを立ち上げてみようと、頭に出てきたのが今の原っぱ大学でした。
そこで初めて秘密基地づくり学科というイベントを立ち上げて。イベントに沢山の人が参加してくれた事が、今につながる僕の原体験ですね。」

そのイベントを重ね、会社の名前が無くても、
自分自身はこういう人間だと名乗っていいんだ。
自分自身が本当に大切な事を差し出すと、人の心に届くんだ。という実感が湧いたと言います。

「これ、仕事にできるんじゃないか、という思考が後からついてきた感じです。
会社員として働いていても、何のために働いて、この行動がどうよりよい世界に繋がっていくのかわからない。リスクはあるかもしれないけど
自分の人生を自分が信じて、裏切らないで生きよう。そう決めました。」

2013年に11年勤めた会社から、退職する事を決意。
ここから、塚越さんの新しい人生がスタートする事に。


経営難を支えてくれた、人の言葉と想い

原っぱ大学を始めたすぐの頃は、自分の旗を立てたいという欲求が強かったとの事。

「会社の名前を置いたら、自分が何者かわからなくなる恐怖から
俺はこれだ、という旗をたてたい。看板に寄りかからなくていい何かがほしいとずっと思っていました。この会社を立ち上げた塚越です!と言えるのが好きでした。」

でも今は、自分自身の欲求よりも大切にしたい事が見えてきたのだと語ります。

「自分の旗が満たされてきた今、自分自身よりも、そこにかかわる仲間だったり、来てくれる人の喜びに軸を置きたいと思えるようになってきました。実は2年前、コロナで経営難に陥って。潰そうと思っていたんです。でも、それを一緒に経営しているパートナーに打ち明けると

『何言ってんのあんた。ここからやれること全部やってみてからでしょ。そんな思いつめてんじゃないわよ。』

と。
ハっとしました。

そうだよな、と。
それから、色んな人にたすけてたすけてと言っていると
会員さんが一人一人、原っぱのために、と、寄付してくれました。子どもが貯金箱からお小遣いを出してくれたり…。

“原っぱは私たちの還る場所。未来の子どもたちのために、未来の私たちのような人のために、原っぱをなくさないで。”

何百人という人達の言葉が、想いが、僕の元に届いていました。」

潰そうとした自分のかっこわるさ。
責任感のなさ。

「自分は弱いから、あーもう疲れたとか思うことは日々あるけど
そのバトンを渡してもらったのなら、その責任を果たしたい。関わりの中で出会ってきた人への責任。まだ見ぬこれから出会う人への責任。
それをきちんと引き受けて、果たしていく、をしていきたい。そんな想いがあります。

でもその責任を重たく受け止めすぎると義務感になって、ちっちゃくまとまってしまう。
もっと自分勝手で、もっといたずらごごろがあって、もっとわがままで、もっとわんぱくで……。
自分の心が遊んでいる、いたずらする、悪乗りする、そんな自分であり続けたい。

自分は海が好きで、山が好きで、土が好きで、生き物が好きで。
人間だけじゃなくて、まるっと全部と向き合いたいんです。」


日本中に、世界中に、そして心の中に”原っぱ”を。

好きなことを仕事にするというよりは
自分が信じていること、大切にしていることと仕事を通して生み出す価値が一致するように会社を経営しているという塚越さん。

“自分自身とズレないように。”

それが一番大切な事だと語ります。

「活動を続けていると、『理想を捨てない素敵な人に思える』とか言われたりもしますが、それは違うんです。最初の会社に勤めてた11年間は、そんな気持ち忘れていた。今の自分から逃げ出したかっただけなんです。」

現状に違和感を覚え、そこから逃げ出すという選択をできた。
適切なタイミングで逃げられたという事が大きかったと続けます。

逃げるって大事だよね、と思います。
踏ん張ることが大事なフェーズももちろんある。そこで拓けるものもたくさんある。でも、逃げるって前向きでポジティブな事だと思うんです。その選択が、次に繋がると思う。」

逃げた事で見えてきた光。
それを、責任をもって次へ繋いでいきたいと言う塚越さん。

「知り合いの経営者が、『50年後の未来を考えています。』と言っていたんです。
うわ超かっこいい、やられた。って思って。僕も50年後の未来を見据えよう、そう思っています。」

2023年、『三浦半島にある森と人とが共存する』プロジェクトがスタートするとの事。

「僕らがつくってきた何気ない遊びの場が、ああいうところに人が入って遊ぶという当たり前だった場所が、どんどんと無くなってきています。遊べる土地は日本にたくさんあるけど、出来ない。でも、みんながその良さや価値に気づいて、この活動に繋がっています。
それに気づく人が増えるという事は、
”原っぱ”が日本中にある、世界中にある。そして、人々の心の中にあるという事。
心の中に”原っぱ”があるというのは、自分自身で考えて、感じて、それぞれがいいと思った事を行動できるという事。生きていく中で、大変な事はもちろんあって。いつもそういうわけにはいかないけど、この世界に原っぱがあれば、あのモードになれる自分がいる。
そんな人がいっぱいいたら、地球はもっとよくなる、そう思います。」

“原っぱ的”な生き方を出来る人が世の中に増えてほしい。

「心配だったり、このままでいいのか、足りてない、やりたい事見つからない。不安。
それでも大丈夫。
その中途半端な感じ、決められない感じ、駄目だと思う事すらも宝物になる。その宝物が次の自分をつくっていくから。
その出来事が、自分や人を傷つけてしまったという事だったとしても、でも大丈夫。
その失敗や出来事や不格好さは、きっと自分をどこかに連れて行ってくれる。

自分自身がつくろうとしている価値と、自分自身が大切に思っている事。
自分に嘘のない状態でありたいと願う、そのためにこれからも試行錯誤していきたいと話してくれました。

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編集後記
原っぱで遊ぶ子どもたちは「天使」でした。人が、人らしく、心のままに笑い、本気で遊ぶ。そしてそれは子どもだけでなく、大人も。本来の心へと還っていく、そんな時間が原っぱには流れていました。その空間をつくる塚越さんの心も、100%ありのままで。この幸せを次の世代、次の未来へと繋げていく事が私たちの使命だなと感じることが出来たインタビューでした。
塚越さん、貴重なお時間ありがとうございました。
(インタビュー・編集・イラスト By Umi)


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