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「あなたは一人じゃない。」自分と子どもを重ねて気づいた痛み―現役小学校教員ネコ先生の願い―


ネコ先生
@nekosensei0519

ネコ先生
Twitterで発信をしている、現役小学校教員。
教員の仕事や働き方の実情についてはもちろん、人生を通して経験した事、心の動きなどをキャッチ―でポップなイラストと共に発信中。


きっかけは、子どもの心に火がつく瞬間を見た事

幼い頃から絵を描く事が好きだったネコ先生。大学でも教育の分野で美術を専門に、学んでいたとの事。
中学校の美術の教員免許も取得されたネコ先生でしたが、現在は小学校の教員として働いています。

「小学校へ教育実習に行った時に、衝撃を受けました。図工の時間、小さな子ども達が、その小さな手で自分の世界をキラキラした様子で表現していたんです。」

こんなに小さい頃から、子どもの心に火がつけられる仕事ってなんて素晴らしくて楽しい仕事なのだろうと感じたと話します。

このきっかけを通じて、小学校教員への道を進み始めたネコ先生。児童心理や、気持ちについてもっと知識をつけてから現場へ行きたいという気持ちから、大学院へ進学したそうです。


憧れの小学校教員生活で経験した挫折

子どもたちのあの輝く姿や、ワクワクした気持ちに携わりたくて幕を開けた教員生活。
しかし、現実は厳しいものだったと語ります。

教員一年目の夏休み前。成績をつけなければならない時期になりました。

成績や評価は、教師の授業の結果です。子ども達の成績が伸びなかった時は、自分の授業や指導に改善の余地がある。一年目は、一緒に学年を組んでいる先生から『あなたのクラスだけ、ここが弱い。』と指摘される事もあり、自分の実力の無さに悩んでいました。」

自分の実力や経験、知識が無いせいで子どもたちに迷惑をかけてしまっている。その焦りや、担任としての責任の重さにだんだんと押しつぶされていったと言います。

「心が折れると、体の免疫力も低下してしまって…。一週間ほど、体が動かなくなって仕事にいけなくなりました。心と体は繋がっている、という事を身をもって実感しましたね。」

その後夏休みがあり、少しリフレッシュできた事から体調も回復し、教材や授業づくりに励んだというネコ先生。

この苦しい気持ちから逃げていた事もあったと言います。

「この気持ちに向きあったら終わる。そんな感覚で働いてしましたが、体が先に反応してくれました。心の苦しみから目を背けて働き続けるなんて出来ないと、体が回避反応を示してくれたんだと思います。」

前もって授業づくりに時間をかけて準備しておく事や、積み重なる業務をこなすために『自分に合わせた形』を探すことが大切だと気づいたと話します。


悲しみを別の行動や感情で隠している子どもたち

担任をしていた時、クラスの子達と上手く馴染めず、仲間外れにされている子に出会ったと言います。

「仲間外れにされたその子は、その後席に戻って自分の鉛筆を折りました。そして『どうだ!鉛筆を折ってやったぞ!』と、誰かに訴えるような顔をしていたんです。」

気になったネコ先生は、その子と二人で対話をしました。

「どうして鉛筆を折ったのか聞くと、『仲間外れにされて悲しかった。』のだと答えてくれました。その子は、仲間外れにされた悲しみを別の行動や感情に置き換える事で、自分を保っていたんですよね。」

その破壊行動や怒りの気持ちへの変換が、悲しみの気持ちを昇華させているんだという事に気が付いたネコ先生。
それを受け止め、「その行動をしたら悲しみが消えたのか」を子どもに問いかけました。

「『鉛筆を折っても悲しみは無くならなかった。本当は仲間に入れてほしかった。』と、私に教えてくれました。」

その子に気持ちを伝えてくれた事が嬉しいと伝え、そして鉛筆を折る行動ではその悲しさは消えないという事を確認したと言います。

気持ちが新鮮なうちに、話を聞くことはとても大切にしていると教えてくれました。


絵と自分。過去の痛みを、誰かの心の支えに変えていきたい。

「この事実をその子と確認した時、ふと自分に重ねたんです。もしかしたら自分も、ずっと『置き換える』事で自分を保っていたんじゃないかって…。」

幼少期から今まで、人と関わることがうまくないと感じていたと言うネコ先生。
この子どもとの出会いで、今まで自分が仲間外れにされたり、友達と上手く関われなかったり、その事で親から厳しく注意を受けたりしてきた過去がフラッシュバックしたと言います。

絵を描く事が得意なネコ先生は、ずっと「絵を描く」のは自分が好きだからやっているものだと認識していたそうです。

「……でも実は違った。私は、きっとこの悲しみや寂しさからどうにか逃れたくて、絵に没頭していたんですね。好きだと思っていた絵は、実は私のコンプレックスの塊だったんです。」

好きだった絵を描く事のルーツが、自分のネガティブな気持ちにあったと気づいたネコ先生は、そこから絵が描けなくなってしまった時もあったと話します。

しかし、今はそんな「絵」も自分にとっては腐れ縁だと思っていると言います。

「飾らずに私がその絵を発信することで、誰かの心に触れるものになれるんじゃないか。減るもんじゃないし……、描いてみようかなと、そんな風に思いました。」

そして、自分が同じような傷を経験していたからこそ、仲間外れにされた子どもの気持ちを理解できたのだと振り返ります。

「経験していないと、その気持ちに100%共感して寄り添う事は難しいかもしれない。でも、それを補うのは知識だと思っています。」


自分を知り、無いものをどう補うか考える。

教育について学ぶ時、「これだけ学んだからこの分野は大丈夫。」という感覚には一生なれないと話すネコ先生。

一つの分野を少し知ると、その先に繋がる無限の広がりをいつも感じているそうです。

「僕が経験していない部分は、知識で補って学んでいかなければならないと思っています。例えば、クラスには男の子も女の子もいます。私は男だから女性の事はわかりません、で終わらせてはいけないと思う。教員として、どの子にとっても安心できる場所でありたいと思うので。」

経験していない事は、知識でカバーする。常に学ぶ気持ちを持ち続けていきたいと話します。

その上で、まずは自分が何を知っていて、何を知らないのか、自分を知る事が大切だと教えてくれました。
そしてたくさんの知識や選択肢をもつ事で、それぞれを組み合わせて使う事ができると言います。

「まずは自分に無い色を知る。そうすれば、その色の作り方を学ぶ事ができます。そして、自分の中に色が増えると、今度は色同士を混ぜたり、ぼかしたりして新しい色を作る事が出来ると思うんです。もしかしたら、その色は濁っているかもしれないけど、色が無い方が私にとっては困るな、と思います。」

また、その学び続ける事が今の教育現場ではかなり難しいものになってしまっていると言います

「今思うと、学生時代にもっと学んでおけば……。と思う事はたくさんあります。もちろん、今まで学んできた事は自分の糧になっていると思いますが、どこまで学んでも自分が知らない領域は必ずあります。学ぶ事はずっと続けていかなければならないものだと思っています。」

学びたい、知識を付けたいと思う教員が多くいる中、日々の業務量の多さからその時間を取ることが出来ない事実にジレンマを感じているそうです。

「教員という仕事を続けたい気持ちはもちろんありますが、自分の体がどこまでもってくれるのかという不安は常につきまといますね。」


対話から、寄り添いへ

教育を学んでいくと、全ては子どもに限らない事ばかりだと気づくと言います。

「例えば、『共感』の危険性はよく感じます。SNSなどで良く知らない人からの「わかるよ。」「あなたの行動は間違っていないよ。」などというリプライを目にしますよね。共感と聞くと、優しいイメージをもつ方が多いと思いますが、私はここには対話がないと感じるんです。」

どうしてそう思うのか、何故その行動を取ったのか、背景には何があるのかなどを知らない「表面的な共感」があると言います。

教員として、子どもに関わるときには表面的な共感は絶対にしないように心がけているとの事。そして、その対話の時間や自己と向き合う時間をもっと学校の中でつくらなければいけないと考えているそうです。

「その瞬間は、本人も認められて嬉しいと感じるかもしれませんが、私はその先に起きる事まで一緒に考えてあげたいと思っています。共感は絶対に良いものというわけではないし、時には批判が必要になる事もある。共感も批判もそれぞれの特性を、一人ひとりが理解して使い分ける事が大切だと思います。」

この考え方は子どもに限らず、生きている人すべてに当てはまると考えていると言います。

教師の側から見たもの、学校側から見たものだけが教育に適用されてしまうとどんどんと狭い世界になってしまうと話すネコ先生。

これからは、全ての子どもたち、全ての大人、人という枠組みで考えていく必要があると教えてくれました。

「そして、今、自分は孤独だと感じている人に伝えたいです。あなたは一人じゃない。この世界には、あなたと同じように悩んでいる人もいれば、助けて、支えてくれる人もたくさんいます。私がそうだったように、自分の気持ちに蓋をして、見たくないものから逃げる事も時には必要かもしれません。でも今は、私が発信すること、人と関わることでそんな苦しい人の支えになれたらと思っています。」

編集後記
ネコ先生の感じてこられた、悲しさや寂しさが形を変えて他の人の心の支えになっている事を強く感じます。その子の内側に全身で寄り添うネコ先生。その優しくて温かい気持ちが、子どもたちにも伝わっているのだろうなぁと思いました。
ネコ先生のこれからの益々のご活躍を願っております!
貴重なお時間ありがとうございました。
(インタビュー・編集・イラスト By Umi)


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