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最多の南アはコロナで死亡者減?感染ペースは緩やかに:アフリカにおけるコロナ状況(その6)

アフリカにおける国別感染者数、検査数、死亡率などの他、人工呼吸器数、ICU病床数やロックダウンの状況などをまとめて、毎週日曜日に更新しています。

最新データは、以下からご覧ください。検査陽性率も追加しました。

アフリカにおける感染状況については、随時記事を追加しています。現在(6月14日)その7まであります。こちらもご覧ください。
死なないアフリカ、チュニジアは正常化へ:アフリカにおけるコロナ状況(その7)
アフリカはコロナ感染爆発?死亡者は少ない?真実はどっち?:アフリカにおけるコロナ状況(その7の補足)


【アフリカ大陸全体の感染状況(5月9日現在)】感染者数: 60,566人
百万人あたり感染者数: 48人
感染者DT: 14日
死亡率平均: 4%


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南アフリカとエジプトの2カ国が、現在感染者1万人に迫る勢いです。モロッコ、アルジェリア、ガーナ、ナイジェリアが4,000~5,000人で続きます。

ただ、拡大ペースをみると、南アフリカ、エジプト、モロッコ、アルジェリアについてはここしばらく、2週間かそれ以上の日数で倍になるという緩やかなペースとなっています。南アフリカは1週間で9.3万件という熾烈な検査を行っているため(日本は同じ1週間に3万件)、検査数が増えたことで感染者が増えている面もあるでしょう。検査陽性率も3%と低いです(日本は7%)。つまり、陽性でない人も含め、広く網をかけてがんがん検査している状況です。

感染者数が上位のうち、アルジェリアとエジプトを除く国は、死亡率も、1~3%に収まっています。アルジェリアは当初、14%程度の死亡率がありましたが、9%まで下がってきました。

ところで、その死亡者の数ですが、南アフリカではコロナのおかげで(?)、近年よりもむしろ減少しているようです。

フィナンシャルタイムズが、各国の近年の平均死亡者数と今年の死亡者数を比較しています。英国やイタリアといったパンデミックが起こった国では死亡者数が跳ね上がっているのに対し、南アフリカでは減っています。

南ア死亡者数

南アフリカは通常、3割が感染症、5割が感染症以外の病死、1割強が事故や怪我で亡くなっており、交通事故は年間1万件レベルであります。

現時点でのコロナウイルスでの死亡者数は186人。5週間のロックダウンによって治安がよくなり、車が走らないため交通事故が減り、またお酒の販売がストップしたおかげで飲酒がらみの死亡が減ったことなどで、むしろ普段より死亡者数が減ったようです。

ギャングが停戦を申し入れ、メンバーに生活費を渡したことで、治安が安定したという報道もありました。

モーリシャスは感染者の増加がとまっており、チュニジア、ジブチも検査を行っていながらも新たな感染者も少ないという、検査陽性率が低い状態で推移しています。これらの国は、ピークアウトも近いかもしれません。

感染者が増えているものの、検査陽性率も低く、検査を増加したことにより感染者が増えたのではないかと推測できるのが、ガーナ、ケニア、エチオピアです。

一方で、感染者が増えており、死亡率も低くはないスーダン、チャド、シエラレオネといった国は、早い段階での支援が必要なように思います。ナイジェリアやタンザニアは、十分な検査が実施できていないため、今後注視が必要です。

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感染者の増え方を地図にマッピングすると、こうなります。感染者DT(何日間で感染者が2倍になるか)の日数で色分けしています。

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多くの国は、2週間に倍になるかそれより低いペースで感染者が拡大しています。アフリカは(まだ)爆発的な拡大には至っておらず、小康状態を保っているといえるかと思います。

日本語では「アフリカが危ない!」という報道が多いようですが、その印象と比べると、「意外にマシ」と思われるのではないでしょうか。

それがなぜなのか、というのをこちらで書いているのですが、

有料記事なのでかいつまんでお話すると、

アフリカは2014年、2018年のエボラ出血熱の流行の経験から、感染症の拡大を水際で防ぐためのオペレーションや、患者の隔離や取り扱いの方法についてのプロトコルがすでに存在していて、それが今回も生かされている

常日頃から結核やコレラといった他の疫病にも対応している。南アにはHIVや結核を検査するための施設や人員が組織されており、今回のコロナでも活用されている。感染の流行に即時に対応し、限られた物資で拡大を抑えるという点では、アフリカはむしろ準備が整っている。

自国の医療体制をまったく過信せず、1~2月の早い段階から行政含め対策を考えていた。よって、感染者が見つかり始めた3月から速攻で行動規制を実行した。1カ月という短い間にアフリカ55カ国中50カ国が空港を封鎖して全ての旅客機を止め、そのうちの多くは都市の交通封鎖と外出禁止、つまりロックダウンに踏み切った(その時点での感染者数は百万人あたり4.5人)

各国の政府は(これまでのところ)リーダーシップを発揮している。情報を開示し、国民に繰り返し話しかけ、経済損失の補償を発表していることから、国民における政権への信頼も(いまのところは)高く、人々は政府の指示に従っている

つまり、感染症に悩まされ、常から不確実性が高い状況に置かれている、アフリカの弱者として積み重ねてきた経験が、生きているのかと思います(これまでのところ)。

むしろ、日本はSARSやMARSも幸いなことに経験せず、そもそも感染症で国の医療が疲弊するなどといったことを想定していなかったため、より大変な面があるでしょう。

日本に住んでいると、明日は今日と同じようにやってきて、変化は緩やかに起こるという認識を持つようになります。アフリカと日本を行き来している私でさえ、日本に戻ると、そういう感覚になります。

だからこそ、今回の新型コロナウイルスによるインパクトは、日本や先進国の人々にとっては価値観を揺るがすような大きな出来事になったのかと思います。

ただ、アフリカでは、予想外の出来事が起こり、急激な変化と、解決法がない状態に翻弄されるというのは、珍しいことではないのです。

「非常事態には慣れている」ではないですが、「いつもどおりの予期せぬトラブル」として、対応できるのは、アフリカの強みです。

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スーパーの入り口では、検温の上、全員にラテックスの使い捨て手袋が配られている(撮影:梅本優香里)

私がいまいるケニアは、12日間で2倍になるという緩やかなペースで感染者が増え続けています。首都ナイロビのいくつかの人口密集地で感染者が増え始めており、その地域だけ地域封鎖(他の地域とまったく行き来できない鎖国状態)となっています。夜間は外出禁止ですが、昼間は移動が可能なため、ビジネスは引き続き行われています。

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スラムの様子。いっときマスクや消毒液は品薄となったが、地元のメーカーが製造を開始し、品不足は解消された。公共の場ではマスク着用が義務となっており、人々はさまざまなタイプのマスクをしている(撮影:梅本優香里)

ケニアのコロナによる死者数は現在32人。ちょうど一週間前に水害で200人近くの方が亡くなっていることなど考えると、人の生き死には数で判断できるものではありませんが、少ないといえるでしょう。今後どうなるかについてはまったく油断していませんが、経済が悪化すると人はもっと死んでしまいますから、ケニアにおいてはいまのところは、感染者の拡大と経済の継続のバランスをうまくとれていると考えています。

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スラムに政治家が臨時に設置した手洗い場。スワヒリ語で「ここで手を洗おう。ともにコロナと戦おう」と書かれている。(撮影:梅本優香里)

アフリカ各国は、ロックダウンを早めに行うことで、医療や社会の体制を整える時間稼ぎをし、これまでのところ、「予想よりはマシ」な状況を保ちました。

今後アフリカで感染者が急増するのか、死亡率はいまの4%より高くなるのかは、私はわかりません。そしてこの新しい感染症に関しては誰かが先行きをわかっているとも思わないので、状況をこまめに注視しながら、解釈を更新し、対応していくしかないというスタンスです。

本当は誰もが不確実性のなかに生き、不透明な環境下で事業を行っているのですが、先進国にいると実感しづらいですね。世界中の誰もがそのことに気づかされ、アフリカの国々の常日頃と同じような気分を味わっているのが、今回のコロナ禍だといえるかもしれません。

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人口密集地の青果売り、奥は仕立て屋(撮影:梅本優香里)

いまは、アフリカの各国で、行動規制の緩和がはじまっています。ただ、全面的な緩和というよりも、全国でのロックダウンが一部の地域になったり、ロックダウンが夜間外出禁止になったり、特定の業種のみ活動が許されたりと、細かく段階的に緩和しているのが特徴です。

空港封鎖はまだ明ける見通しは立っていません。今週はナイジェリア、ケニアが空港封鎖を6月5日までに延長しています。

一部の国はイミグレーションの業務が再開されていますが、ビザの申請はスムースではないようです。駐在員へのビザ発給や、出張者のビジネスビザが今後どのようになるかは、しばらく様子をみていくしかないでしょう。

5月11日現在のアフリカ主要国のロックダウンの状況

ロックダウン_20200512


アフリカのコロナの感染状況に関するデータは、今後も以下のサイトで更新していきます。

一方で、ビジネスパーソンが今後考えなければいけないのは、コロナが与える経済へのインパクトと、今後、Withコロナ、Postコロナでビジネス環境がどう変化するか、そしてそれらに対してどう準備するかについてです。

マクロ経済はどう推移しそうでしょうか。また、この経験を経て、人々の消費行動はどう変わるでしょうか。現地の企業はいま、どのような状態なのでしょうか。

こういった点について、今後記事にしていこうと思います。

当社は、ケニアにある現地法人に日本人が引き続き駐在している他、ナイジェリア、エチオピア、ガーナなどにて、リモートワークや電話などを使いながら、ロックダウンの中でも引き続き現地スタッフが稼働しています。

Zoomなどによる現地情報の提供(開催日時はこちらから)や、ご出張の代行、ウェブ上での情報提供などを行っています。以下から詳細ご覧下さい。


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