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読書感想文『「小さな主語」で語る香港デモ』石井大智編著-其之壱

この本を読んだ理由

図書館の「新入荷」コーナーで見かけた。
2020年12月31日発売。

分厚くて、重かったのだが、
香港の最新情報が書かれていそうなので、借りてきた。

また、「小さな主語」という切り口も魅力的だった。
一般的には、民主派、親中派とザクっと二分割して語られる香港問題だが、
そんな簡単に人間を二分割できるものではない。
個別の、それぞれの意見を取り上げることで、香港デモを深堀りしている。

読んでいて思い出したのは、
地下鉄サリン事件の被害者のインタビュー集である村上春樹の『アンダーグラウンド』
得体の知れない大きな闇に対する、一個人の「声」がリアルに描かれている。

自分メモ

二分割しないといけないの?
→サムネを「緑色」にしたのは理由がある。
 民主派を黄色親中派を藍色色分けするのがこのデモの特徴のひとつ。

 でも、事なかれ主義の日本人らしく、僕は、その中間色のどちらでもない色ができあがればいいのになと思いながら読んでいた。
 香港が緑色になればいいのに、と。

 私の愛読する内村鑑三氏の『キリスト教問答』には、「人生において最も恐ろしいのは誤解である。世のありとあらゆる悲劇や惨事は、みんなこの誤解が事実となって現れたものである」という一文があるのだが、Twitterはまさにその「誤解」を生みやすいプラットフォームである。ユーザーは皆、瞬間で切り取られたつぶやきを見て、「あいつは敵だ」「こいつは味方だ」と、また瞬時に判断していく。その発言をした人がどんな人で、どのような背景を持っているかが考慮されていることは、ほとんどないと言って良いだろう。
(略)
 同じく内村氏の言葉に「人は国を愛すれば愛するほど、その国の人たちに憎まれる」というものがあるのだが、それは香港においてもあてはまるように感じた。皆、考え方の違いはあれど、香港のことは愛しているがために「誤解」され「衝突」し、「憎まれる」のである。しかし私は、「藍色」「黄色」という立場の違いを超越して、香港の将来を真剣に考える仲間としてうまくやっていける道も、どこかにあるのではないかと信じている。平和論者の理想論だと指摘されればそれまでかもしれない。しかしそれでも、香港に住む者としてより良い香港のあるべき姿を模索し続けていくことはできないだろうか。香港はそういた多様性を受け入れ、いかなる事態に面してもその柔軟性、臨機応変さを持って歴史の荒波を乗り越えてきたはずである。

 ――引用

 そもそも人の意見を、きっちりカテゴライズすること、色分けすることなんて不可能。
 様々なスタンスの人がいるし、そもそも意見を持たない人もいる。
 でもニュースでは、そんな細かい個別の事例にはフォーカスしない。
 でも、報道されない、個別の事例、個別の意見を知ることができた。


敵か味方かさぐりながらのコミュニケーション
→黄色か藍色か、そんなことをいちいち気にしながら生活をしていたり、
 「国家安全法」を終始気にしていると、
 直接的な、ストレートな発言がしにくくなりそうだなと思った。
 その結果、日本人みたいに、香港人はまわりくどい表現を覚えるようになるのだろうか?
 「香港人らしさ」がなくなってしまうな、と勝手に心配してしまった。

「読書メーター」に書いた感想

とかく民主派、親中派と、2分して考えてしまうものだが、実際はそんな簡単な話じゃないという切り口が良い。冒頭に説明がある通り、若干登場人物に偏りもあるが、とにかく「小さな主語」にフォーカスしているので読み応えは充分。日本人留学生が語る香港に対する様々な疑問は非常に共感できる。そもそも歴史的にも地域的にも複雑過ぎる背景を持つ香港を、シンプルに語ることは難しい。そういった香港の事件を知るための、一つの貴重な記録になってると思う。小説も良かった。


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