愁色

見知らぬ街に来た。都会のベッドタウン。

夕方、この街の駅前に、ポツンとたたずむパン屋に入った。

甘いパンとホットコーヒーを受け取り、2階のカフェスペースへと向かう。

階段をのぼり終えると、通りに向かって大きな窓があった。1人掛けのイスが並び、カウンター席になっていた。

そこに座ることにした。パンとコーヒーを置き、カバンを下ろし、イスに腰かけた。

コーヒーがまだ熱い。すぐに飲むのはあきらめて、香りだけを嗅いだ。

*****

なんとなく窓の外を見た。道ゆく人々が見えた。

店内には、切なくて、悲しげな音楽が流れていた。ピアノとストリングスだけのスローなインストだった。

疲れていたのか、音楽の影響で、どうも感傷的になってきた。窓枠で切り取られたガラスの外の風景が、ドラマの1シーンのように見えた。

おもわず空を眺めた。

ひとすじの雲が見えた。雲の片側半分だけが、夕日に照らされ、赤く染まっていた。風はなく、雲が止まって見えた。

ちょうど、街灯がともった。暮れていく通りには、散った枯れ葉が溜まっていた。

サラリーマン、主婦、子供連れ・・・。道行く人々は、皆、上着を羽織っていた。マスクをつけ、どこか急いでいるようにも見えた。寒そうだ。

今日は、あったかいお風呂に入って、あったかいふとんで寝るといいよ。

寒がる人々へ、心のなかで語りかけ、コーヒーをすすった。

*****

秋はこんなに短かったのだろうか?

コーヒーカップを置き、パンをちぎると、小さなさつまいもが顔を出した。

ああそうか、秋を感じる要素がなかっただけか。

*****

いつの間にか雲がなくなっていた。

今宵の月は、どの方角に見えるのだろうか。

明日は晴れる。きっと澄みわたる秋空になるだろう。

さあ、行くとするか。









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11月1日追記

ねこよんこごころっこさんが、この記事を紹介してくださいました。ありがとうございます!しかも、ねこよんこごころっこさんの素敵な小説に、1人の男性が出てくるのですが、それはもしかして・・・!?

noteって楽しいですね。是非、ご覧ください!





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