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Sprout
2年ぶりに、モヤシを買ってきた。
10代の頃は、安っぽいイメージがあって、モヤシを買う機会が少なかった。
2限の授業が終わり、いつもの様に学食の券売機に並んだ。
修学旅行で滞在したシンガポールから帰ってきたばかりで、日本が少し新鮮だった。
ねぇ、ティンババティ。味噌ラーメン売り切れだよ。もっと早く来るべきだったね。
ほんと。じゃぁ、カレーにするよ。
カツカレーないから、普通のカレーにするよ?
シンガポール旅行では、食について考えさせられる機会が多かった。
食というのは、雄弁にその国の文化や歴史を語る。
例えば、その国で生まれた料理を主に提供する飲食店と、その向かいにあるマクドナルの様子を比較すれば、その国がどういう”時期”にあるのかおおよそ推測できる。
他にも、都内のインドカレー屋を見れば、日本人の持つインド人の像が浮かび上がる。
どうやらインド人は、メインカルチャーの外の”外人”として認識されている様だ。
一方で、シンガポールには外人という言葉がないように感じた。
シンガポールの食は、シンガポールの持つ多様性をわかりやすく伝えてくれた。
特に感動的だったのは、ヴィーガンの食文化である。
シンガポールのホテルビュッフェで食べたヴィーガンカレー。
おいしかったなぁ。
野菜しか使ってないのに、肉の入った普通のカレーより何倍もおいしかった。
僕の関心は野菜に向かった。
ティンババティ、一番好きな野菜って何?
好きな野菜か...。モヤシ、よく食べるよ。
え、モヤシ?なんで?
おいしいじゃん。
ちょっとした驚きだった。
なんでモヤシなんだろう。
僕はモヤシを好んで食べることがなかったから、彼の意見が理解できなかった。
野菜炒めで量を増やすために入っているモヤシ。
貧乏大学生が好んで食べるモヤシ。
ラーメン屋さんで無料でトッピングできるモヤシ。
モヤシにいい印象はなかった。
ティンババティの趣味はやっぱり奥深くて、大人だと感じた。
でも、なんでモヤシなんだろう。
それからしばらくして、東京に引っ越した。
知らない町で絵の勉強を始めたが、デザインとアートの間で葛藤していた。
僕にはやりたいことがある。自分の思想をヴィジュアルで表現したい。
でも、どうやったらいいんだろう。
銀座の地下街を歩いていると、ビーフンの専門店を目にした。
さすが東京、ビーフンの専門店なんてあるんだ。
特にこの頃、僕は専門店という言葉に惹かれていた。
何か一つに絞るってことは、自信がある証拠だし、よく研究しているに違いない。
自分の輪郭が曖昧だったころ、専門店という響きは魅力的だった。
すごい、ビーフンしか置いてない。
一皿1200円もする。
しかもカウンター席しかない。
先に来ていた客と同じものを注文した。
かわいいオレンジ色の大皿に乗って、ビーフンが出てきた。
鮮やかな野菜、白い麺、オレンジの皿の組み合わせは、すごく都会的だった。
具材はズッキーニ、パプリカ、エビ、キクラゲ、パクチー、そしてモヤシ。
“モヤシ”に目が行った。
なんだこれ、本当にモヤシか?
そのモヤシは通常の3倍ほどの太さがあり、先端の豆も大きかった。
普通のモヤシが”ヒナヒナ...”なら、こいつは”ブブルンッ!”だった。
なんてマッチョなモヤシなんだ。
もしかしてシャレのつもりか?
いや、なるほど、専門店にもなると、モヤシにもこだわるんだな。
食べてみると、そのマッチョモヤシを使っている理由が分かった。
このビーフン、麺のモチモチ感と野菜のシャキシャキ感の和音でデザインされている。
そのコントラストを強調するために、とにかく歯ごたえのいい具材を使っている。
恐らく普通のモヤシなら、ズッキーニやキクラゲの食感に負けてしまうだろう。
だがこのモヤシには、他の具材に引けを取らないほど、強い存在感がある。
きっと店主は、この店をオープンする前に様々な具材の組み合わせを実験したはずだ。
そして、彼はモヤシをメンバーから外せないことに気づいた。
しかし、普通のモヤシなら、他のメンツに存在感で負けてしまう。
そこで、このマッチョモヤシに辿り着いたという訳だ。
すげぇな、デザインするってこういうことなのかな。
逆に言うと、ビーフンひとつに絞れば、モヤシにこだわる余裕も生まれる。
それからしばらくして、ニューヨークに引っ越した。
1年が経った。
2年ぶりにモヤシを見つけた。
たっぷりのモヤシとパクチーで海老ラーメンを作った。
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