捨てたい花びら【滲み】1400字
「履かなきゃいけないの、なんで? スカート。」
「そのままお母さんに渡してください」
住吉が中学受験ていうのをするから
今日から一緒に帰れないとあたしに言って、
毎日グダグダ教室に残ってダラダラ1人で帰る日々が1ヶ月ぐらい過ぎた。
他の女子たちみたいに、韓国の虹の形がU?とか、アプリのチックタックていう時計?とかの
話には心の底から軽蔑で、住吉とサッカーとオールナイトニッポンの話をしながら帰るのが好きだった。
なんとなく5時間目が終わってすぐに帰るのは負けた気がして、
くだらない女子たちが帰るのをグダグダ待ってから、帰宅する。
上履きの踵は踏み潰してボロボロ。
教室を出る前にふと住吉の机を見る。
住吉が座っている後ろ姿を想像するけど、くっきり映らない。
毎日授業が終わった後にすぐ塾に行くから、濃度が薄まっちゃってんじゃねーの。
『中学校って女子の制服はスカート履かなきゃなんだってよ。』うるせーよ住吉。
川沿いの土手。帰り道にカバンの中を見る。
帰り際に先生に渡された封筒に『田中さんのお母様へ』と書いてある。
先生から渡されるプリントはクラス全員に配られる、
という勝手に思い込んでいたルールを破られて蹴られて丸められた気がする。
先生がお母さんに話したいことって何よ。あたしなんか悪いことした?
春はピンクだから嫌いだけど、今は強い緑でこの川の帰り道は好きだ。
半袖も好き。ポロシャツも。
去年買ってもらったスマートフォンを取り出したが、
写真を撮ろうと思ってやめた。
使いこなせてない自分が嫌になるけど、
キャピキャピした女の子たちみたいにはなりたくない。
アプリはラジオやポッドキャスト関係のものばかり。
『夕日の前の太陽って一瞬本気出すよね』わかんねーよ住吉。
いつもよりベタつく汗にシャツをパタパタした。
川の水の流れる音がいつもよりうるさい。
というか、あーうるさいな、って言いたい感じ。
封筒は糊付けされている。ビリッと開けた。
破いて開けた。
中の紙も一緒に少し破けた。
『お子さんの事でお話したい事があります。お仕事の都合のつく日時を教えてください。』
いやだからあたしなんか悪い事した? 昭和か? おばあちゃん先生め。
妙に川の水面の反射のキラキラが眩しくて、
緑の桜の木の下の緑の芝生の上に座った。
お尻をペタンとして、ため息。日陰で涼しい。風は弱めにスルり。
『なんでその座り方できるの、すげーわ女の子座り』うるせーよ住吉。
はーあ。なんか疲れた。空に夕日っぽさが3%ほど濁ってきたので、急にまた憂鬱になる。
白い封筒。この中身開いたまんまお母さんに渡してもな。
ビリビリビリとできるだけ細かに破いた。
おじいさんが目の前をゆっくり歩きながらこっちを見ていたけど、
構わずビリビリ。ビリビリを貯めて貯めて。
貯めて、貯めてから、わあっと川に向かって投げた。ぶわっと広がった紙屑たちがヒラヒラと宙を舞った。
ひとつだけなんだかスッキリした。でも同時に、川にゴミを撒き散らしたという罪悪感も背負った。
だけど、なんだか、にっこりできた。
高速でヒラヒラする小さな紙屑たちが順番に川に着地していく。
『図工の授業で白の絵の具って全然使わなくね?』知らねーよ住吉。
桜の花びらも白なら綺麗かもな。
散る白さの向こうに見える対岸の女子中学生たちに、
明らかな嫉妬を感じているあたしが居た。
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