失恋墓地(毎週ショートショートnote投稿用作品)

 失恋墓地に来た。 
 受付のお姉さんに案内され、私の墓の前に立つ。
 毎年この時期は失恋墓地に来て、過去の恋愛を供養するのだ。
 私は墓地を軽く掃除し、持ってきた花を供える。
 奥に立てかけてある卒塔婆を見る。
 卒塔婆には、先輩の名前が書いてあった。
 少しだけ、どきりと胸が鳴る。

「もう10年も経つのに、ね」

 中の一つを拾い上げる。
 先輩に恋していたのはかなり昔だけど、あの頃を思い出すと今でも面映ゆくなる。
 恋が全てで、それ以外のことは全く見えてなかった昔の自分が、今の自分を見たらなんて思うのだろう。
 こんなに丸くなっちゃった、だろうか。つまんない人間になったな、だろうか。
 先輩の卒塔婆に水をかけ、線香を立てる。

 私の気持ちよ、どうかここで安らかに。
 私はひとつの恋が終わっても、また新しい恋に出会えました。
 私の気持ちはなかったことになんてなりませんでしたよ。

 過去の私へ。

 私はちゃんと、幸せです。


(398字)

たらはかに(田原にか)さんの企画のお題をお借りしました!



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