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短編小説

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『父に伝える』 上田焚火

『父に伝える』 上田焚火

(あらすじ)仕事がうまくいかない男は、彼女に結婚を切り出せない。だが、父の危篤の知らせを受けて、男の心に微妙な変化が生まれる。父と息子それに彼女。3人の間に小さな奇跡が起こる。

『父に伝える』 上田焚火

「お父さん、あなたが来るのを待ってるみたいなの......」
 母からの電話だった。

 腕時計を見ると六時十七分だった。

「今、そっちは何時?」と私は母に訊ねた。
「今?今は......深

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『100個のお願い』(短編小説)

『100個のお願い』(短編小説)

(あらすじ) 結婚したとき、夫婦はそれぞれ100個のお願いを紙に書いて、箱に入れた。誕生日には、その箱からお願いを一つだけ引いて、相手の願いを叶えてあげるのだ。夫婦にとって、願いごととは……

『100個のお願い』 上田焚火

 結婚した日、夫婦は一つの取り決めをした。

 それはお互いの誕生日にお互いのお願いを一つだけ叶えるというものだった。ただしそのお願いはクジ引きによって決められる。

 二

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『君の夢を見る』(短編小説)

『君の夢を見る』(短編小説)

(あらすじ) 彼がやってくる日、私は必ず彼の夢を見た。別れて三年たったある日、私は久しぶりに彼の夢を見る。彼がやってくる。だが、今の私には夫も子供もいる……失われた愛の物語。

 夢の中に、以前つきあっていた彼が出てくるようになった。それは彼が私に会いたがっている証拠だった。

 普通に考えたら、私の方が彼に会いたいから、夢を見るように思えるのだが、そうではなかった。なぜだか彼が会いたいと思うとき

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『幽霊と住む部屋』(短編小説)

『幽霊と住む部屋』(短編小説)

(あらすじ)
同棲した彼女が出って行ったあと、部屋に女の幽霊がいることに気が付いた。奇妙な同居生活は、傷ついた僕の心を癒してくれるのだが……

幽霊が部屋にいることに初めて気がついたのは、香里が出ていった後のことだった。すでに彼女の荷物は持ち去られていた。

 僕は半分になった本棚を見つめた。残された本は支えを失って、ドミノのように倒れていた。今までは隙間なく詰め込まれていたのに。

 支えを

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