fast musicは悪か

 昨今の配信、ストリーミング文化の流行に伴い、音楽制作のあり方も大きく変容しました。

とくにポップスやクラブミュージックにおいては、コ・ライトと言われる、フレーズごとに違う作家の作品をつなぎ合わせてビッグヒットを狙う作曲手法の台頭で、インパクト重視もさることながら「どこを切りとっても刺さる音楽」が標準化しつつあります。

 そんな中、独立して活動するポップスやクラブ系のアーティストはどうしているかというと、サウンドを作り出せるクリエイターやDJと積極的に組んで、いいトラックにいいメロディと聞きなじみの良い言葉を乗せて、メインストリームに合う音楽を生み出そうとしています。
また、自分で積極的にDTMを駆使することもデフォルトです。

 クラブ系以外のシンガーソングライター系のアーティストは、依然として歌詞の世界観、コード理論、グルーヴ感などを駆使した従来の老若男女にとっての「いい音楽」を生み出そうとしています。
こちらは前者に比べると相当な手間暇やこだわりがかけられます。

 80年代生まれの僕らにとって、青春の90〜00年代は、日本の音楽の最盛期でした。
昔のようにこだわりを持って作られる芸術性の高い作品も多く、一方で小室ファミリーのブームや、ケミストリーやEXILEといったJ-R&Bも生まれた時代です。

この時代に良しとされていたのは、昔の音楽を聴きかじり、マイク際の息づかいやギタリストの特徴、打楽器とのアンサンブルの絶妙な間など、とにかくマニアックなほど「掘り下げること」でした。

 しかし、現代の音楽には、もしかしたらその必要がなくなってきているのかもしれないと思うことがしばしばあります。

よくCMで若手アーティストが歌う曲が、昔の有名アーティストの大ヒット曲のカバーだと知らずに「変な外人がカバーしててワロタ」と言われるのが記事にもなりますよね。

アーティストでもそういう人は増えていて、まず掘り下げることをあまりしないようです。
良いと思えばそれでいいし、もっと気になればググる。
それ以外は基本的にニュートラルな姿勢のようです。

 こんな話を聞くと、僕らは「そんなことも知らないで音楽やってるのはどうなのか?」なんて思ってしまうものですが、冒頭のような分業や合理化が進んでいる現代において、それも仕方ないのかなとも思います。

そもそも、知識に関係なく、良い物を生み出す人は生み出すし、知識があっても良い物を生み出せない人もいます。

もちろん、レコーディングや制作の過程でそういった知識があるのとないのとでは、違いが生まれるでしょう。

コミュニケーションの上で話が通じないでしょうし、幅が狭まるのは間違いないです。

しかし、それは僕らの世代にも言えることで、ものすごいスピードでリリースされる最先端の音楽を聴き分けている若者の価値観もわかっていなければ「何このオッサンダセー。センスないし古いし面倒くせー。」となってしまいます。

 いずれにしても、良いか悪いかは、関わる人、どこを目指すか、ブランディングやマーケティングによって違うのでしょう。

「こだわったところで売れないならやらない」
「一生続けるからしっかり取り組みたい」
「音楽への敬意をしっかり持つべきだ」
など、人によって考えはまちまちですからね。正解はないと思います。

 ファッションでH&Mやユニクロなどのfast fashionが当然のように、いまや音楽もfast musicが当然になっています。

老舗やハイブランドのデザイナーやブランドの歴史を知ることも大切ですが、現代のすべての物をうまく活用するファッショニスタのように、アーティストも時代とともに音楽への対峙の仕方をセンス良くコーディネートしていくべきなのだと思います。

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