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驚くほどの効果を得られた実証実験。「避難所の衛生ストレス」解決プロジェクト、最終フェーズへ


正直、こんなに効果が表れるとは思いませんでした。


被災地で実は深刻な「におい」問題の解決に挑む製品のプロトタイプの話です。

2023年12月、私たちUCI Lab.と京都工芸繊維大学の教員・学生、パナソニックの3者で取り組んでいる「避難所の衛生ストレス解決」プロジェクトは、いよいよ開発の最終フェーズに入り、プロトタイプの実証実験を行いました。2023年7月の豪雨災害で被災した福岡県八女郡広川町の社会福祉協議会(以下、広川町社協)の方々にお願いし、実際に水害の被害を受けた品々を用いながら、災害現場に特有なにおいを消す、あるいは減らすことができるのかどうかを検証。

その結果、冒頭に書いたような、開発に携わった私たちも驚くほどの効果を得ることができたのです。



「避難所の衛生ストレス」解決プロジェクトとは?

日本に暮らしていると、普段の生活の中では「におい」を気にする機会は少ないかもしれません。

しかし、自然災害に見舞われた被災地では、状況は異なります。洪水や津波によって運ばれてきた汚泥やなま物が、時間の経過とともに独特のにおいを発してくるからです。さらには、風呂やシャワーで身体を清潔にするといった衛生行動がとり難いために、人の汗のにおいなども、だんだんと気になるようになります。


発災後の流れと私たちのプロジェクトが対象にしたタイミング

私たちは今、そうした「避難所の衛生ストレス問題」を解決すべく、プロジェクトを進めています。


特に人の心にじわじわと影響を与える「におい」の問題に焦点を当て、パナソニックの「ナノイーX」の技術を用いながら、京都工芸繊維大学 櫛研究室とUCI Lab.が消臭機能のあるプロダクトを共同で開発しています。

▼プロジェクトの全体像はこちら


プロジェクトで制作した4つの試作品

被災経験者の声を聴きながら、櫛先生の指導のもと、5名の学生が試行錯誤の末につくりあげたのが「消臭保冷バッグ」「スポット消臭カバー」「組立消臭クローゼット」「即席消臭コーナー」という4つのプロトタイプ。

2023年秋に完成した4つのプロトタイプ


これらのプロトタイプは、実験室で行った実験段階においては消臭効果を確認できています。ただ、この実験で使用したのは、あくまでも「こぼした缶コーヒーのにおい」です。実際の被災地で発生するにおいは、缶コーヒーの比ではありません。人が不快に感じる度合いは大きく異なります。

私たちの考えている製品は、果たして本当に被災地で役に立つのだろうか。その点を検証すべく、2023年7月に発生した「令和5年7月豪雨」で大きな被害を受け、9月のフィールドワークでもご協力いただいた広川町で実証実験を行うことになったのです。

▼これまでの経緯の詳細はこちら


プロトタイプは効果を発揮できるのか? 豪雨災害の被災地で実証実験

2023年12月5日(火)の朝9時、プロトタイプを携えた私たちは、広川町に到着しました。今回訪問したメンバーは、UCI Lab.から渡辺、京都工芸繊維大学から畔柳先生と学生4名が参加し、全部で6名です。

現地に到着すると早速、前回のフィールドワークでお世話になった広川町社会福祉協議会(以下、広川町社協)の江口信也(えぐち・しんや)さんが出迎えてくださり、まずは実験で使用する物品を探すべく、防災備品などが保管された倉庫へと向かいました。

広川町が豪雨災害に遭ってから約5カ月。手入れが行き届き、清潔に管理された倉庫の中は、水害の被害を受けた品物が多数保管されているとはいえ、不快なにおいは全くしません。冬になって気温が下がったことで、においをさらに感じにくくなっているようです。

ただ、倉庫の中を探していくと、処分を待っていた布類の中から、被災した当時の泥とかびのにおいを保っている「古タオル」を発見することができました。それに加えて、使用済みのゴム軍手、江口さんが「ベルト部分のにおいがとれない」とおっしゃっていた頭につけるLEDライト、災害時に使用していた長靴をピックアップ。

冬になったとはいえ、独特なにおいを放つアイテムたち


「消臭保冷バッグ」「組立消臭クローゼット」「即席消臭コーナー」の3種類のプロトタイプを使い、付着した独特なにおいに対して消臭効果を発揮できるのかどうかを確かめていきました。

製品開発のときと同じ6段階臭気強度法で実験



被災経験者も驚く効果を発揮

果たして、私たちが制作したプロトタイプは、被災地で本当に効果を発揮できたのか。

その結果は、こちらの通りです。

比較対象と「1」の差があれば「ほとんどの人が差を実感することが可能」と言われています


グラフで表すととても分かりやすいのですが、目に見えて大きな消臭効果を実感することができました。


今回の実験では、より客観的にプロトタイプの効果を測定するため、パナソニックの技術担当者にもアドバイスをいただきながら、「6段階臭気強度法」という“においの強さ”を表現する手法を用いました。

プロトタイプの中に入れた品々を1時間、2時間、5時間という3つのタイミングで確認。そのときに感じたにおいの強さを、「避難所の衛生ストレス」解決プロジェクトの6名と広川町社会福祉協議会の江口さんほか2名の全9名で点数化して評価していきました。

特に最初の1時間ですでに大きな消臭効果を感じられたのは、私たちにとっても驚きの結果でした。プロトタイプをつくり上げた学生さんや畔柳先生さえも、「すごい!」と目を丸くしていたほど。

さらに、実験を終える5時間後のタイミングでは、江口さんもあまりの効果の出方に驚いた様子。実験には参加していなかった職員の方々を呼んできてくださったほど、今回の実証実験に手ごたえを感じてくださいました。

なお、今回持参した3つの中で、最も効果を感じられたのは「組立消臭クローゼット」でした。広川町から帰京し、パナソニックの技術担当者に確認してみたところ、「消臭したいものをハンガーで吊るすことで、ナノイーXが効果的に曝露(ばくろ)されたのでは」とのコメントが。効果が表れた理由を推測できたことで、今後の実用化に向けて、さまざまな活用方法を考えることができそうです。

プロトタイプのひとつ「組立消臭クローゼット」


次なるステップは「日常生活との接続」と「デザインの改善」

実験を終えて、江口さんからはこんな言葉が。

「正直、もともとのにおいが強いものだったので、体感できるほどの効果があるのかは不安でした。でも、組立消臭クローゼットですとか、効果が劇的に感じられて。本当にすごいと思いました。やっぱり避難所では、靴や下駄箱のにおいはみなさん気になさる。避難所にさりげなく置いてあったりすると、使いやすいのかなと。災害が起きなくても、いろいろなシーンで使えそうです」(江口さん)

被災地での効果を確かめることができ、さらに被災を経験した江口さんからも「災害現場だけでなく、日常のさまざまな場面で使えそう」とコメントをいただくことができたプロトタイプたち。

現場で手ごたえが得られた次のステップとして、今度は日常の多様なシーンでプロトタイプを使用し、活用の可能性を探っていければと考えています。さらに、今後も広川町社協の皆様と共同実証実験を行い、プロトタイプのさらなる検証と改善を行っていく予定です。

「現場実装まで、つくり切る。」の達成まで、あと一歩。

次回の活動リポートでは、今回行った実証実験で最も効果が高く表れ、多様なアイテムで活用できそうな「組立消臭クローゼット」のデザイン改善の工程についてご紹介したいと思います。ぜひご覧ください。
(UCI Lab. 広報担当)

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