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公認会計士。公共政策学修士(MPP)。

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最近の記事

モズラーが知らない名刺経済の振る舞い

MMTの提唱者とされるモズラー(Warren B. Mosler)は、財政の仕組みを説明するために以下のような思考実験を考案した。親は中央銀行を含む広義の政府、子供たちは国民、名刺は法定貨幣を表現している。  私はここで、この想定をそのまま受け入れよう。しかし、これに続くモズラーの議論は私の見るところでは非常に混乱しているので、その誤りを逐一指摘することはせず、以下では代わりにこの話の続きを私の方で勝手に考えることにする。モズラー自身の議論と比較されたい。  さて、子供た

    • 望月慎氏からの言及に対してコメントする

       自分の記事へ反応を検索していたところ、「図解入門ビジネス 最新MMTがよくわかる本」の著者・望月慎氏から私のNote記事について、gym氏という方との一連のやり取りの中で言及して頂いていたのを見つけたのでコメントしたい。  「潜在貯蓄(需要の)過剰」という耳慣れない用語(独自用語?)のために意味が取りづらいものの、要は、「家計が今以上に貯蓄したいと極めて強く望んでいれば金利を上昇させることなく家計に追加的に貯蓄させることができる(そして現に先進諸国で起きている低金利はこれ

      • 米国経済史は財政黒字の危険性の実例と見做せるか?

        前回の引用箇所の直前の6-3節で、望月氏はウォーレン・モズラーの述懐を引用しながら、財政黒字の危険性の実例としてアメリカ経済について以下のように述べている。  私には単に、景気には波がある、という以上の意味はないように思われる。

        • ソフトバンクは税金を払っている

          ソフトバンクG、繰り返す法人税ゼロ 税制見直し議論も: 日本経済新聞 (nikkei.com) ソフトバンクが税金を払っていないというトンチキな議論はしばしば見かけるものであるが、ついに日経新聞までもトンチキなことを言い始めたので簡単にコメントしておこう。  まずソフトバンクグループ(株)自体は特に事業をおこなっていない持株会社であること理解する必要がある。例えば皆さんご存知の携帯電話事業は、ソフトバンクグループ(株)の子会社であるソフトバンク(株)でおこなわれている。

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          財政黒字はバブルの兆候と見做せるか? ——望月慎「MMTがよくわかる本」の批判的検討

           私のnoteではこれまでMMTの基礎的な理論について批判的検討を試みてきた。今回は「財政黒字は民間部門の赤字か海外部門の赤字を必ず伴うが、これらはバブルの兆候であり、危険である」というMMTの主張を検討する。まずは望月慎氏「図解入門ビジネス最新MMTがよくわかる本」6-4節から引用する。  本稿ではシンプルに閉鎖経済を考えることにしよう。そうすると望月氏の議論の骨子は以下のように整理できる。 財政黒字が実現するためには民間部門が赤字でなければならない 民間部門が赤字で

          財政黒字はバブルの兆候と見做せるか? ——望月慎「MMTがよくわかる本」の批判的検討

          L・ランダル・レイ「MMT現代貨幣理論入門」は貯蓄の意味をどのようにすり替えたか?

          L・ランダル・レイ(L. Randall Wray)は「MMT現代貨幣理論入門」第4章のコラムで次のように議論している。  ここでレイは貯蓄という言葉の意味をすり替えている。少なくとも通常の意味で使ってはいない。レイが上の引用箇所で述べているところでは、 財政赤字+経常収支黒字=国内貯蓄  という等式が常に成り立つという。ところでマクロ会計の貯蓄の等式は、レイ自身が同書p.74で述べていたところでは(そして普通のマクロ経済学でも同様であるが)、 S=(G-T)+I+N

          L・ランダル・レイ「MMT現代貨幣理論入門」は貯蓄の意味をどのようにすり替えたか?

          財政赤字が金利を下げるという珍説について

          MMTerのL・ランダル・レイ(L. Randall Wray)は、財政赤字が金利を上昇させるという一般的な議論に反対する文脈で次のようなことを述べている。財政赤字は市中銀行が中央銀行に対して保有する準備預金と、市中銀行が他の民間部門に対して負う預金を同時に増やすため、市中銀行の準備預金をダブつかせる、したがってインターバンク金利はむしろ下がる。  次のような疑問を持った読者がいるかもしれない。増えるのは準備預金ではなく国債ではないか? と。ここでレイは、国債が最初からマネ

          財政赤字が金利を下げるという珍説について

          「財政赤字の神話 MMT入門」の神話——ステファニー・ケルトンは何を間違えたのか

          MMTを批判した先日の記事について、藁人形と言われないように有名なMMTerの議論を一つ引用して論じよう。以下の引用はステファニー・ケルトン氏(以下敬称略)「財政赤字の神話MMT入門」からである。  まずは、ケルトンがいわゆる主流派経済学についての自身の理解を述べた個所から。  これがいわゆる主流派経済学についての理解として誤っていることは先日の記事で論じたとおりである。主流派経済学は貯蓄が一定であることを仮定してなどいない。貯蓄の供給量(資金供給曲線)は仮定されるのでは

          「財政赤字の神話 MMT入門」の神話——ステファニー・ケルトンは何を間違えたのか

          なぜ自然利子率はゼロではないのか

          MMTには自然利子率がゼロであるという奇妙なテーゼがある。どういうことか。MMTerはいわゆる主流派経済学を指して、彼らは金庫に積み上げられた有限の札束なり金塊なりを貸付ける誤ったイメージで資金供給を考えているのだ、と主張する。資金需要が増えれば借り手が同じ札束や金塊を巡って競うことになり、金利は上がる。だが(とMMTerが続けるところでは)、信用経済では貸付は口座に数字を記帳するだけで実行可能である。つまり資金を借入れる行為自体が資金を作り出すので、借り手が資金を巡って競合

          なぜ自然利子率はゼロではないのか

          MMTは何を間違えたのか?

           次の文章は中野剛志氏(以下敬称略)「奇跡の経済教室」第6章からの引用であり、「民間貯蓄が財政赤字をファイナンスするのではなく、財政赤字が民間貯蓄を創造するのであり、したがって財政赤字の増大によって民間資金が逼迫(クラウディングアウト)したり、金利が上昇したりすることはあり得ない」という、彼のMMTの理論的中核となっている箇所である。  私は、中野が(1)~(6)で述べているプロセスが事実の記述として間違っている、と言いたいのではない。これらが正しいことは、しかし、それに続

          MMTは何を間違えたのか?