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リライトの心得 ー編集者は文章をいかに直すか

「リライト」とは、別の方が書いてくださった原稿をよくするために、加筆・修正をすること。Re writingのことです。

そのスタイルは、編集者によって人それぞれ。ここでは、主にライターさんから上がってきた原稿を、さらに磨き上げるために、書籍の編集者である私が、どんな視点で、いかに修正を加えているかを紹介します。

1・前提:加筆は断りを入れるべし

そもそもの話ですが、書き手の原稿に無断で手を加えることはNG な行為です。それはライターさんからの原稿であっても同じ。まずは、「改変したい」旨を確認するようにします。

これは私の考えかもしれませんが、基本的に、ライターと編集者は「文章をよくすること」については同じ目的に向かっています。結果として原稿がよくなるのであれば、「手を加えるのはOK 、むしろよくなるのであれば、どんどん修正してください」というスタンスのライターさんがほとんどであるように感じます。著者の方によっては、一字一句触ってはいけない方、断りを入れた上で構成を練るのはOK な方、などさまざまです。事前にていねいなコミュニケーションをとることは、原稿を練り上げる上で、出発点になると心がけておきたいものです。

2・素読み:寝転がって読んでもおもしろい?

まずは、上がってきた原稿をどう感じるか。編集者ではなく、イチ読者としての感想をつかみにいきます。

そのためにまずやるのがこれ。

ワードを、本と同じフォーマットにする。縦書き、15行×40文字に。

ワードの横書きと縦書きでは、受ける印象や読むスピードがまったく違います。見開き1枚の文字量などは、読みやすさに直結するので、極力、できあがりと「同じ見栄え」にして、読み通すことが重要です。もちろんPC上ではなく、プリントアウトして紙に出力します。「読む」ときのフィジカルな条件を整えるのです。

そのうえでの姿勢としては、電車のなかや、ベッドに寝転がって、読んでみる(実際に社内で寝る場所がない、というツッコミはさておき)。

これはあくまでたとえですが、読むときの姿勢も、読者のシチュエーションとそろえて読み出したい、ということです。まちがっても、図書館の自習室に閉じこもって、一字一句、線を引きながら読んではいけません。ここでは、文章から受ける印象や、湧きたてられる感情を見逃さないように読むわけです。

ですので、初読では、誤字脱字も目をつぶりながら、読みましょう。「木を見て森を見ず」にならないようにします。ここでは、手の動かし方は、

 「おもしろい!」「いいね!」というところに丸を殴り書き

という感じです。

3・構成:どこがおもしろい? なぜおもしろいと感じない?

最初から最後まで「おもしろい!手を入れる必要ない!」ということでしたら、リライトなんて必要ありません。ここでこのnoteを読むのをやめて、次の作業へとりかかってください。それは、事前の取材や打合せがうまくいき、ライターさんも力を出し切った理想的な展開です。全力で、書き手の方にお返事を返しましょう!

では、「うーむ、なんかスルっと入ってこないなぁ」という箇所がある場合はどうするか。

まず「構成」について考えます。

これは主に、ビジネスや健康などの実用書や語り下ろしの場合なのですが、まず「冒頭のつかみ」を徹底的に考えます。(フィクションやルポなどは当てはまらないかもしれません)

ありがちな「頭に入ってこない…」文章の典型としては、冒頭、「大きな話」から入ってしまう、というものです。もちろんジャンルによるのですが、「社会が、世界が、日本が、ビジネス界が・・・」といった「主語の大きい」話題というのは、読者の身近な話題になりにくく、イメージがわきにくい。そのうえ、抽象度が上がってしまっているがゆえに、世間の主張と大差ない、どこかで聞いた話になりがちです。

冒頭で、まず心がけたいのは「読者の悩み・関心」を、できればエピソードベースで喚起してあげることです。その工夫をしたい。

たとえば、担当させていただいた元・麹町中の工藤勇一校長の新書では、冒頭に、

・「親から子へ。引っ張りあげたい、という想いが子どもの自律を奪ってしまうこと」

・「宿題廃止」「定期テスト廃止」のエピソード

をもってきました。もちろん、大テーマは「子どもの自律をどう伸ばすか」「教育をどう変えるか」なわけですですが、その大テーマから話が入ってしまうと、どうしても自分ごとに感じにくい。「宿題もテストも廃止」こそが、本書の象徴的なエピソードとして必要だったので、その冒頭の構成にしたのです。

よく、冒頭にこそ「キャッチーなネタ」「フックのある話」をもってこい、とフィードバックがあるわけですが、それは何も、「突飛で意外性ある飛び道具」である必要はないのだと思います。あんまりに「ヘン話」をし過ぎても読者は引いてしまいます…。つかみとは、「読者の頭の中に本の世界観を立ち上げる」=「起動」をイメージしてみてください。編集者がエピソードや具体例を、なにかと欲しがるのは、ここに理由があるのだと思います。

4・文章:ちょっとしたコツで、リーダビリティは上がる

ここで、初読のときに、「おもしろい!」の丸がつかなかった文章に戻ります。コンテンツとして何かが足りない、足りないとすれば結論の腹落ち具合か?エピソードか?具体的事例か?などいろいろと探ってみるわけですが、ここでふれておきたいのは、もしかすると「文章の順序」を変えるだけで、リーダビリティは一気に上がるかもよ、ということです。

ダラダラ感を感じてしまう文章。

その元凶とは、「なぜこれを読まされているのかわからない」文章です。

これを解決する1つの方法が、「結論の先出し」です。

人は、実益やベネフィットや悩みに対して、「答え」を知りたがる生き物です。つまり、結論が後半(うしろ)にきている場合は、それを前に出すだけで一気に読みやすくなります。

「結論」は引っ張らない。

あるいは、結論(メッセージ)はちゃんと用意してあげる。

これは編集・加筆の作業で意識したいところです。

また、文章にメリハリをつけたいときは、センテンスを抜き出すのが有効です。どういうことか。わかりづらいので具体例で例示します。noteの自分の文章から引用してみました。学校探しのエピソードです。

そこで、一応、幼稚園を探してみる。そこには、美辞麗句が並べられている。でも、なってほしい、子供の姿は見当たらなかった。まるで昭和の価値観に押し込めるような気がしたからだ。うーむ。まだ3歳にもならない娘の、15歳のときに、どんな子になってほしいかの将来を思い描く。なにもたしかなことがいえないけれど、できることはしてあげたい。。

みたいな文書を・・・

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そこで、一応、幼稚園を探してみる。そこには、美辞麗句が並べられている。でも、なってほしい、子供の姿は見当たらなかった。まるで昭和の価値観に押し込めるような気がしたからだ。うーむ。

「子どもが15歳のときに、どんな子になってほしいか」 

まだ3歳にもならない娘の、将来を思い描く。なにもたしかなことがいえないけれど、できることはしてあげたい。
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言いたいことを、文章の中に埋め込まずに、一文として独立させる、前に出す。すると、その一文が紙面から浮き出して見えるのです。

キラーセンテンスを独立させるメリットは、「線を引きやすくすること」です。見開き、ビジュアルとしてパッと見たときに、このセンテンスが目に飛び込んでくることで、読者は本項でのメッセージを瞬時につかみやすく、いい具合に飛ばし読みができます。それが、「この本は読みやすい!」「あっという間に読めた」という読後感につながります(もちろん速読できる文章だけがエライわけではありません)

ここにいたって、「立たせるセンテンスが見つからない」場合は、コンテンツが弱い可能性がある。まずキラーワードをつくることから考え直したほうがいいのかもしれません。つまり、そんなリトマス紙にもなりえるのです。

5:改行:読みやすさとは読者あってこそ

改行についてもかんたんにふれます。

段落の考えの基礎になるのが、「トピックセンテンス」という考えです。論文の書き方として、叩き込まれるものらしいです。名著『理科系の作文技術』に詳しいです。各パラグラフには、そこで何を言おうとしているのか端的に述べた1文=トピックセンテンスが含まれなければならない。また、通例として、パラグラフの冒頭に、トピックセンテンスがくるのがたてまえである、と。

ここで大切なのが、そのように書かれた文章は、段落の1行目だけを飛ばし読みしていったときに、それでも本の文脈を追い続けられる、という考え方です。

この考えに立てば、むやみに改行をすることで、パラグラフの意味を分断していってしまうことになるでしょうし、改行が少なかったとしても、トピックセンテンスの考えさえ守られていれば、決して、読みにくい文章にはならない、ということです。

それとはまったく異なる発想として、すべての文章に、改行をバンバン入れていくスタイルの本があります。ビジネス書・自己啓発書などに多いです。すると、本をめくるスピードもどんどん上がるので、フィジカル的にも高揚感が得られます。結果、30分で読めて、エナジー注入。しかし、心に残ったのはたったワンフレーズ、なんてこともあるわけです(もちろんそれが悪いわけではなく、そのような効果を狙う本の役割だってあります)。

後者は、トピックセンテンスの考えでいくと、結論→結論→結論、で1行ずつ展開しいていくので、スピードは上がるが、主張の根拠などが抜けがちである、ということになるでしょうか。

ここまでは、リライトの一部です。くりかえしますが、人によってスタイルは異なりますし、正解があるわけではありません。マーケティングではなく、自分の中の「おもしろいかどうか」の判断軸が如実に現れる、粘りがいのある作業であることは、いうまでもありません。

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