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ユダヤ人の受難のパワー(なぜロスチャイルド家が誕生したのか?)⑧

慈善家エドモン男爵

ポグロムのために住む場所さえなくしてロシアのユダヤ人は大量に国外に逃れた。

その流れには新天地アメリカに向かうものとパレスチナに向かうものとの2つがあった。

後者は自らの国を再建するほかにユダヤ民族は生き延びることができないとする「シオニズム」の始動となる。

そのころのパレスチナはオスマン・トルコの領地で、人口は半ば遊牧民のアラブが46万人、ユダヤ人が2万から2万5千人ほどだった。

このうち1万5千人ほどがエルサレム周辺に住み、残りはガリラヤ地方とヘブロンに住んでいた。

そこに1881年、ロシアから101人の小規模な移民が地中海に面した港町ヤッフォに到着した。

ツァー・アレクサンドル2世が革命家に暗殺されたことに伴う激しいポグロムの後のことである。

だが当時、パレスチナで行われていた入植の試みは、疫病などでことごとく失敗に帰していた。

ロシアからの入植者たちも肝心の水に恵まれず、絶望の淵に立った。

そのときパレスチナからの使者から切迫した事情を聞いたエドモン・ド・ロスチャイルド男爵(1845〜1934)が3万フランの援助を寄せた。

パリのジェームズ・ロスチャイルドの5男、すなわち三代目エドモンのパレスチナへの関わりの始まりだった。

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“現代イスラエルの父”と呼ばれるエドモン男爵

入植地はこの援助金のおかげで持ちこたえて生き延びることができ、それを伝え聞いてロシアから新たな移民が続いた。

このときの男爵の寛大な援助がなければユダヤ人の祖国帰還運動は挫折して、今日のイスラエルはなかったかもしれないとみられるほど重要な節目だった。

エルサレムのシオンの丘への帰還運動(シオニズム)は、テオドール・ヘルツェル(1860〜1904)が1894年、パリでフランス陸軍の砲兵大尉アルフレッド・ドレフュースが、ユダヤ人ゆえにスパイ罪を着せられたのを目撃してから始まった。

エドモンの援助はそれ以前のことだった。

エドモン男爵はそれ以降、入植地の維持に援助するだけでなく、パレスチナの土地に適した作物を調べたりして、なんとか入植運動が成功するようあらゆる手を尽くした。

ユダヤ人が土地を所有するのは難しかったが、代理人を送ってアラブの大地主と交渉して、各地で密かに12万5000エーカーの土地を購入した。

失敗はしたがエルサレムの神殿周辺一帯を丸ごと買おうとしたこともある。

求められるままに巨額の資金を入植地に送るうちに、エドモンは自らも入植地を開拓するなど、旧約聖書が語るパレスチナを「蜜と乳の流れる地」にする夢を膨らませていった。

最初は匿名で援助していたが、1887年フランスのマルセーユから自家用ヨットを操ってヤッフォに到着してヴェールを脱いだ。

以来、エドモンは死ぬまでパレスチナでのユダヤ人の入植運動に没頭するが、彼の支援のおかげで100もの入植地が成功をおさめ、そこではブドウ、オレンジ、アーモンド、オリーブ、ジャスミン、ハッカ、煙草などが栽培されるようになった。

これはエルサレムがローマ軍に破壊されてから初めての、ユダヤ人による本格的な農作物の収穫だった。

このなかでエドモンが最も力を入れたのはブドウの栽培とワイン作りである。

ヤッフォの北部にディカロン・ヤコブという地中海を望む高台があり、その一帯の丘には一面にブドウ畑が広がっていて、今もワインの醸造が行われている。

これがエドモンの肝入りで進められたもので、収穫したブドウは相場より高く買って入植者を助けた。

エドモンは何度目かのパレスチナ訪問の時にこの地を永眠の場所に選んだ。

それは海岸沿いの斜面に自然にできた洞窟の一つで、あるいはヘブロンの洞窟に眠る民族の祖アブラハムにならおうとしたのかもしれない。

入植の人々を助けてイスラエル建国の基礎を築いたエドモン・ド・ロスチャイルド男爵夫妻はいまも洞窟に眠っており、その周辺は男爵の記念公園になっている。

ヘルツェルらが1897年、スイスのバーゼルで第一回シオニスト大会を開いて以降、入植運動はイスラエル建国のための政治運動へと変質して行く。

だがエドモンは終始、事前事業家としての立場を崩さず、政治的にはシオニズムに距離を置く態度を取った。

ヘルツェルはロスチャイルド家に世界シオニスト機構の代表になってもらおうと、エドモンにその地位を提案したのだが、頑として同意しなかった。

※それでも世界大不況でシオニズム運動が行き詰まった1931年、エドモンは運動家のハイム・ワイツマン(1874〜1952、後の初代イスラエル大統領)に4万ポンドの大金を寄付している。

・・つづく・・

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【関連記事】『ロスチャイルドって一体何者?』(有料)

【参考文献】『ロスチャイルド家』横山三四郎(講談社現代新書)

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