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【5月号 特別企画】「今、日記が読みたい」01 香山哲(漫画家)【コラムフェスティバル①】

なんだか今、めちゃくちゃ日記が読みたい。

きっと一生に一度レベルであろう、この特殊な状況下で皆どう過ごし、どんなことを考えているのか。まずそれが気になるし、人と会う機会が減った寂しさから「肌触りを感じる文章」に触れたくなった、という気持ちもある。そんなわけで、個人的に気になる人たちに約1週間の日記を書いてもらった。

今回の書き手は、ベルリン在住の漫画家・香山哲。漫画『ベルリン うわの空』で描かれていたように、地に足のついた細やかな生活視点を持つ彼は、この5月をどう過ごしてきたのか。

編集/前田隆弘
カバーイラスト/スッパマイクロパンチョップ

かやま・てつ●漫画家。日本各地、世界各地を移動し、現在はドイツの首都・ベルリンを拠点に創作活動を行なっている。ベルリンでの生活と冒険を描いた漫画『ベルリンうわの空』が書籍、電子書籍ともに発売中。その続編『ベルリンうわの空 ウンターグルンド』が、ebookjapanアプリにて連載中。
個人サイト
KAYAMATETSU.com

5月1日
11時ごろ起きて、作業して、27時ごろ寝た。サマータイムが始まってから、ずっと遅めにズレてて、特に困らないので無視し続けてる。

3月末から、外出は水曜日のみになっているけど、特に心身に変化なし。街の中の変化が激しかった3月に比べて、神経質になることも少ない。コーヒーも1日2杯か3杯。水曜日の昼間に1週間分の買い物と、知人の犬の散歩をしている。

政府が今後の行動制限などを発表した。ベルリンでも公園の閉鎖などがゆるむ方向。多くの部分は各州がそれぞれ決めるとのこと。1.5メートルの人間同士の距離確保などは引き続き。感染状況の各数値の動き方で、緩和と緊張を決めていく。人々はそれを受け、自分の動きを決める。

8000万頭の犬が、1つのソリを引っ張っているイメージが頭に浮かんだ。犬はそれぞれ強く走ったり、しんどそうだったりする。走る氷上には突起や穴があり、速度やコースを注意深くコントロールしなくてはいけない。ただし、コントロールがソリの動きに現れるまで、数日から半月ぐらいかかる。ソリが16個(ドイツの州数)に分かれているのは都合がいいかもしれない。

5月2日
適当に過ごしてたら、終わった。

5月3日
起きて作業して寝た。前半はゴボリくんと漫画作業、後半はあぞさんと文章本の編集、それぞれ数時間ずつやった。
(二人とも日本に住んでいて、いろいろ手伝ってくれている。10年ぐらい前から僕は、複数人で作業するときは音声通話繋ぎっぱなしで作業し、必要なときは画面共有するというスタイルが多い。)

安い米が品切れだった時に仕方なく買ったバスマティライスを炊いたら、香りの良さがすごくて、一気に心が楽しくなった。廊下にもしばらくにおいが残って、部屋を移動するたびに気分がいい。一方、それと一緒に食べる料理は、ココナッツミルクの量を乱暴にしてしまったので、ちょっと変になった。でも十分おいしかった。安い米とバスマティライスを混ぜて炊いたら変になるか、今度やってみたい。

5月4日
起きて作業して寝た。毎週少しずつ食料が余ってきて、魚や卵は保存期限を気にしないといけなくなってきたので、今週はかなり少ない買い物で済むかもしれない。寒い日がすこしあったからか、癒やしのために買ったコーラやジュースも余っている。

作業終わりに、あぞさんと今後のことを多めに話し合って、抽象的な方向性を考えた。具体的に何を制作するとかではなく、「こういう人たちの方向を向く」とか「こういう感情のために時間を費やしていく」とか。強く念じていないと、翻弄されるばかりになってしまう。目の前のことを真面目にやるのも重要かもしれないけど、日々を真面目にやれるような理念設計のほうを固めにやっておこうという気持ち。

仕事(漫画・文章)は、今年に入ってからずっと変化なし。むしろ増えたりもしてるので、無理だと分かっていながらも集中や精神をできるだけ安定させて、黙々と毎日やってる。なかなか難しいので本を読んだり語学をやったりする時間が犠牲になってる。

5月5日
起きて適当に作業して、寝た。再版する予定の本が、全ページ完成した。縦書きから横書きに変えたので全ページやり直したけど、縦書きはいつかやめようと思っていたので良かった。日本語特有の禁則処理などの苦労も減るはず。

ちょっと前、30人ぐらいのメンバーでDiscord上にコミュニティ(サーバー)を作って、それが結構いい。音楽をやってる友達は、そこでリリース前の音源をみんなに配ってた。大きなSNSだと一生関わらなくていいような人も視界に入ってしまうし、そういう人から要らない文字が届いてしまうこともあるけど、ここではそれがない。

「運動」というチャンネルでは、10分以上運動した人が適当に絵文字をスタンプのように押していくだけで、会話は一切ない。だけど運動習慣を持続させる力があるし、なかなか他人の気配を感じられる。

5月6日
スーパーに行く日。店頭の掲示板の表示が細かくなっていて、最大38人だと書かれていた(それを超えたら店先に並ぶ)。面積で決まっているっぽい。先週までと同じく、客は全員マスクをしてショッピングカートを使わなければいけない。これによって客同士の距離が確保でき、入場人数を数えなくても管理できる。

トイレットーペーパーもあったし、先週までなかった小麦粉もたくさんあった。買ってお好み焼きを作った。野菜はトマト、きゅうり、じゃがいもを買った。犬の散歩帰りにアジアスーパーにも行って、台湾の醤油を買ったのでその味で食べた。先週までと比べて、半分ぐらいの金額になった。

散歩をしてる犬も元気で良かった。街にはすこし人が増えていて、自然公園にはあまりいない印象だった。もう20時半まで明るいので、来週から散歩を1時間遅らせる予定。どんどん季節が変わる。

全然乗ってないけど、まだもうちょっと共通定期券(電車・バス・トラムの乗り放題券。月額約5000円)は契約しておくことに。自転車を3月のうちに買っておいて本当に良かった。

5月7日
11時に起きた。ゴボリくんと漫画作業したけど、今回は手間のかかるコマが多いのでプラス1日一緒に描いてもらうことにした。

またお好み焼き作った。まだ詳しく読めてないけど、15日からレストランなどは再開できることに。

感染のメカニズムやウィルスの性質、街での行動やマスクの有用性や滅菌について、そういうものは公共放送によって大体の人に一通り行き届いた感じがあったが、まだまだ新たに判明していることも多い。それでも公共放送が複数局あるのは良い気がする。

討論番組ではウィルス学者、疫学者、社会学者、哲学者なども、時には自分の専門外のことも強めに話したりしていて、雰囲気が良くない場面も見かける。

5月8日
起きて一人で作業。先週、神戸新聞から受けていた取材が、もう今日記事になってるとのことでデータをもらえた。担当してくれた記者の人は先月入社したばかりで、本当に大変そうだった。

記事の内容は「本を3冊紹介する」というものだったけど、本当に家にこもって本を読んでいるのがいいのかは、あまりよく分からない。ネギ1本でも育てたりするほうが今は気持ちが落ち着くのは、自分がエッセンシャルなワークを全部他人に任せている立場だからかもしれない。

ベルリンに来てから、テクノロジー・芸術・文化にも刺激は大いに受けたけど、共同農場のことを聞いたり、アパートぐらしだけど養蜂をやっている人に会ったりして、「目や頭以外を使うこと」に関心が出てきていた。それで自分もなんとなく鶏を飼ってみたいと思っていたのが、今の状況でその気持ちが強まってる。でも鶏は声が大きいし臭いもあるし、難しそうだし、飼いたいという気持ちだけ。

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(画像:『ベルリン うわの空』より)

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