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世界の未来は「アジア的」になる(植田かもめ)

植田かもめの「いま世界にいる本たち」第14回
"The Future Is Asian: Global Order in the Twenty-first Century"
(未来はアジア:21世紀のグローバル秩序)
by Parag Khanna(パラグ・カンナ)2019年2月出版

「21世紀はアジアの時代である」

そう聞いて、驚く人は少数派で、「まあ、そうなんだろうね」ぐらいに感じる人が多いのではないだろうか。今や世界の人口の約60%はアジア人で、世界のGDPの約50%はアジアが占めている。

では、そうした単なる数字の集計単位ではない「アジア」とはそもそも何だろうか。

インド系アメリカ人で現在はシンガポールに拠点を置く、国際関係や地政学の専門家であるパラグ・カンナは、アジアをひとつの巨大なシステムと位置付けて、本書でその歴史的な文脈を考察する。

「アジア化」するアジア

まず、いったいアジアにはどこまでが入るのだろうか。

本書は「日本海から紅海にまで至る巨大な地域(megaregion)がアジアだ」と定義して、ロシアとオーストラリアもそこに加える。

とはいえ、たとえばEUに加盟しようとしているトルコや、アラビア半島の中東諸国を中国などと同列にしてアジアを語るのは無理があるのではないか。

そんな疑問に対して、本書は、中東やトルコをアジアから分けようとするのは、最近の数世紀の植民地主義という例外的な時代の見方であり、ニュートラルな地理的定義に立ち戻ってアジアを捉えるべきだと主張する。

過去数千年の歴史の大半において、トルコ、アラブとペルシャ、インド、中国と日本や韓国は絶えずゆるやかにリンクしていた。それは、商業(Commerce)、紛争(Conflict)、文化(Culture)を通じたつながりである。

21世紀のアジアは、この「通常モード」に回帰していく。それがパラグ・カンナの見立てであり、「アジアのアジア化」という言葉を本書は使う。なお、この言葉の元ネタは、日本のジャーナリストである船橋洋一のエッセイだという。

アメリカは「代わりが見つかる存在」になる?

アジアがアジア化するとは具体的にどういうことか。それは、現在は他の地域から提供を受けているサービスや資源を、アジア内で自前で調達できるようになることだ。

その帰結として、特にアメリカの相対的な地位の低下を本書は予想する。

本書によれば、アジア、アメリカ、ヨーロッパの3地域間の貿易額を比較すると、2017年時点で既に、アジアとヨーロッパ間の貿易額が一番多い。アメリカと両地域との貿易額はいずれもこれを下回る。そして、アジア域内で完結する貿易額も増加を続けている。

たとえばiPhoneがカリフォルニアでデザインされて中国で製造されているように、「アジアはアメリカにモノやサービスを提供している」というのが現在の実態であり世界観だろう。

けれども、アジア各地域の動きを俯瞰しながら、将来的にこの関係が逆転するだろうと本書は予想して、次のように述べる(以下、日本語訳は筆者)。

中国から見たアメリカは、覇権国ではなく、サービス提供者である。アメリカの武器、資本、石油、テクノロジーは、グローバル市場の公共財(utilities)だ。アメリカは、ひとつのサービス業者(vendor)であり、アジアはその最大の顧客であると同時に、競争相手でもある。安全保障、資本、テクノロジーを提供する存在として、かつてはアメリカがデフォルトの選択肢だった。しかし、アジアの国々はこれらのサービスを次第に相互に提供し始めている。アメリカは、自分たちが思っている以上に、いなくても代わりが見つかる(dispensable)存在になりつつある。

世界も「アジア化」する

こうしたアメリカとの関係のように、アジアの変化は、他の地域にも影響を及ぼす。19世紀にはヨーロッパが、20世紀にはアメリカが世界中に大きな影響を与えたように。

本書のタイトルである”The Future Is Asian”は、少し変わった言い回しだ。「未来はアジア的」という意味に取れるこの言葉が示唆するのは、アジアだけでなく、世界の未来が「アジア的」になるという事である。

では「アジア的」であるとはいったい何だろうか。はっきりとした定義を本書がしているわけではないが、本書内の言葉でひと言で表現するならば、それは「融合」(fusion)かもしれない。

本書によれば、アジアの歴史の一番重要なレッスンは、ひとつの勢力だけによる支配は長続きしないという点だ。モンゴル然り、明の王朝然り、帝国主義時代の日本然り。中国の覇権拡大といったニュースは近年よく見かけるが、実は中国は歴史的に外敵からの侵略に対して脆弱だ(これはアメリカとの違いでもある)。多様なアジアは、ひとつの勢力やイデオロギーが浸透するには、雑多すぎる。だから、トルコもアラブもインドも中国も、それらをつなぐ日本など周辺のアンカーも、ときに衝突しながら交易を続け、文化を融合させてきた。それがアジアの歴史であり、もしかしたら世界の未来かもしれない。

パラグ・カンナ著"The Future is Asian"は2019年2月に発売された一冊。米中の貿易戦争や中国の一帯一路構想をめぐる賛否など、個別のニュースを見ているだけでは味わえない、歴史と地理を俯瞰した視点を得られる本である。

執筆者プロフィール:植田かもめ
ブログ「未翻訳ブックレビュー」管理人。ジャンル問わず原書の書評を展開。他に、雑誌サイゾー取材協力など。ツイッターはこちら

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