見出し画像

「AIのこれから」はまだ誰にもわからない(植田かもめ)

植田かもめの「いま世界にいる本たち」第13回
"Architects of Intelligence: The truth about AI from the people building it"
(知能の設計者たち:開発者が語るAIの真実)
by Martin Ford(マーティン・フォード)2018年11月出版

本書"Architects of Intelligence"(知能の設計者たち)は、人工知能(AI)の専門家たちへのインタビュー集である。

AIを論じる本は既に無数にある。もはや「何をAIと呼んでいるか」の定義から人によってバラバラの状態ではないだろうか。

ロボットの脅威ーー人の仕事がなくなる日』などの著作で知られるマーティン・フォードによる本書は、この点で好感が持てる。最初に用語集がついているからだ。機械学習、ディープラーニング、バックプロパゲーション(誤差逆伝播法)といった専門用語について、意味と関係性を簡単にまとめている。

AI研究における偉人たちが登場

具体的にどのような人がインタビューを受けているかを紹介しよう。

総勢23名におよぶインタビュー対象は、さながらAIのこれまでの歴史における「重要人物まとめ」になっている。1960年代からAIの研究を行ってきた「ゴッドファーザー」たちであるヨシュア・ベンジオ、ジェフリー・ヒントン、ヤン・ルカン。囲碁の世界チャンピオンを負かしたAlphaGoを開発したDeepMind社のデミス・ハサビス。オープンソースの機械学習ソフトウェアであるTensorFlowを開発したGoogle Brainを率いるジェフ・ディーン。さらに、技術論というよりは文明論の観点でAIを語るレイ・カーツワイルやニック・ボストロムといった論者にもインタビューを行っている。

こうした固有名詞に既になじみがある人にとっては情報のまとめとして、なじみがない人にとってはより詳しく知るための索引として、本書は非常に有益な本だと思う。

AIの「汎用性」はいつ実現する?

さて、そもそも、なぜAIはこんなに注目を受けるのだろう。フォードの言葉を借りれば、それはAIが「汎用的な技術」(general-purpose technology)になり得るからだ。

でも、本書の専門家の多くに共通するのは、現在のAIはまだまだ「特定の目的」にしか使えないという認識である。

たとえばGoogle Brainの共同設立者であるアンドリュー・エンは次のように語る。「現在のAIは技術的にはディープラーニングとほぼ同義で使われている。これはオンライン広告や音声認識、自動運転といった領域で絶大な成果を挙げた。でも、それは特別な知性であって、汎用的ではない(specialized intelligence, not general)

また、ディープラーニング研究の先駆者であるヨシュア・ベンジオは、「データやコンピュータ処理能力がいくら増えても、汎用的なAIのための基本的な材料を自分たちはまだ見つけられていないのではないか」と語る。

では、人間レベルのAI、またはAGI(汎用人工知能)が実現するのはいつだろうか。本書の巻末にはこの質問に対する回答の一覧が記されている。その結果は、最も楽観的なレイ・カーツワイルの予想で2029年、最も悲観的なロドニー・ブルックス(iRobot社創業者)で2200年だ。中央値は2099年で、これはメディアなどで騒ぎ立てられている年数よりもかなり遠い将来ではないだろうか。

インタビューならではの面白さ

さて、最後に本書の面白い点をもうひとつ紹介したい。インタビュー集という形式を取っているため、まだはっきりとした形になっていないアイデアをマーティン・フォードは引き出している。

たとえば、この連載でも著作を紹介したコンピュータ科学者のジューディア・パールは、「自由意志、倫理、モラル、責任の概念を機械にどうプログラムさせるかの基本スケッチを自分は持っている」と漏らす。こんな“生煮え”の構想が聞けるのはインタビューならではだと思う。

マーティン・フォード編"Architects of Intelligence"は2018年11月に発売された一冊。AIのこれまでがよくわかる本。そして、AIのこれからがまだ誰にもわかっていないことがよくわかる本。フィナンシャル・タイムズ誌の2018年ブック・オブ・イヤーリストなどにも選ばれている。

なお、本書には登場しないが、以前紹介したカイフー・リーも「AIは発見から実装の時代に入った」と語り、本書の登場人物と同じような認識を示している。

執筆者プロフィール:植田かもめ
ブログ「未翻訳ブックレビュー」管理人。ジャンル問わず原書の書評を展開。他に、雑誌サイゾー取材協力など。
Twitter: http://twitter.com/kaseinoji
Instagram: http://www.instagram.com/litbookreview/

この記事が参加している募集

推薦図書

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
翻訳書ときどき洋書

よろしければサポートをお願いいたします!世界の良書をひきつづき、みなさまにご紹介できるよう、執筆や編集、権利料などに大切に使わせていただきます。

本を読まれましたら、ご感想お待ちしております!😊
タトル・モリエイジェンシーが世界の本棚から、お薦めをご案内。火曜日更新!2018/5/8オープン!