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turtle
2020年5月26日 19:23
誰だって会社なんて行きたくない。誰でも職場が合わない、ただ……。朝食後阿部はもう30分も自宅のトイレに閉じこもっている。このまま蟄居して化石になりたい。「唖倦啊厭屙荒遭痾安遭......。」 とか考えてもしょうがないのだ。安部には家族がいる。子供たちも中学と高校お金のかかる時期だ。家のローンも残っている。ここ、しか、ない、のだ。 アベノミクスで景気は一見上向いたかにみえる。さらに経済特区が
2020年5月26日 19:33
「こ、古藤さんまた休みだそうです。」ADHDの吉川君が、電話を何度も切りそこねつつ報告した。さて、本日の休みは古藤さんらしい。「また休みか……。」 阿部は溜息をつく。別に彼女じゃないといけない仕事があるわけではない。カバー出来るよう、タスクワールドで仕事の進捗状況は把握できている。もっともこの職場程度の仕事なら、エクセルで十分なのだが。そのくせ出退勤は、カードに出入り口に設置してある打刻器で
2020年5月26日 19:43
「ああ、この季節は曇ると気が滅入る。」 鬱病持ちの小山は歩道の手すりにもたれつつ、諦めて職場に電話をした。電話に出たのは課長で、その落ち着いた声が彼を安心させる。「課長、すみません、今朝の出社、ゆっくり行きます。」「無理しなくていいよ、直接コミュニテイハウスに向かってもいいよ。」 課長は静かに優しく言う。欝の人には当然の対応だが、この課長には誠意が感じられる。病人は馬鹿ではない。というより
2020年5月26日 19:52
「そ、それでは地域の見回り行ってきます。」 ADHDの吉川は、母親に教えられた通りの丁寧な挨拶をして外に出た。看護婦さんとペアで、地域の独り暮らしのお年寄りを訪問するのだ。「この季節は歩いていて気持ちがいいから、ちょっと回り道しない?」 看護婦の井上さん珍しい事を提案した。「そんなに気持ちいいかな?」 吉川は少し疑問を抱いたが素直に従う。実はこの道は井上の通勤ルートで、この先に日赤の募金
2020年5月26日 19:58
山田課長は淡々と仕事をこなす。定時出社、定時帰宅。管理職としてはこの上ない待遇である。彼は自分の処遇になんの不満もない。 妻と二人の夕食。妻は庭木についてぽつりぽつりと話す。山田はうんうんと頷く。特に多弁なわけではないが、話をしないわけでもない。よくある50代後半の夫婦だ。 2年前、前立腺がんのため摘出し夫婦の関係はないが、その遥か以前からそのようなことは無かったし、自分でもそんなものだろう
2020年5月26日 20:03
「相変わらず古藤さんは遅れているなあ。」 安部は貧乏ゆすりをしながら、盆踊りに使う広場前で皆の点呼をとっていた。「まあまあ、主任、古藤さんは準備時間開始には現れますよ。」 ADHD吉川は場の雰囲気に気を配る。 要領がよければいいってもんじゃねえ!再び叫びたくなる阿部であった。でもまあ、今週の勤務態度はまあまあであった。 今回の祭りの目標は「怪我なく、事故なく、そこそこ楽しく。」 ミ