マガジンのカバー画像

2024年劇場鑑賞録

23
ワルプルギスが廻天しますように。
運営しているクリエイター

#映画感想文

差し伸べられたのは分岐点。『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』

差し伸べられたのは分岐点。『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』

 東京での公開から数ヶ月遅れで我が地元にやってきた『ベイビーわるきゅーれ』一作目を、ミニシアターの小さなスクリーンで観たのが3年前。続く二作目は大手シネコンにて全国一斉にロードショーされるようになり、そして今回の三作目は地上波で連続ドラマが並走して放送中、かつ池松壮亮や前田敦子がキャストに集うような作品になっていた。いくらなんでも、デカくなりすぎである。

 して、今回の『ナイスデイズ』は冒頭の空

もっとみる
真剣だから、面白い。『侍タイムスリッパー』

真剣だから、面白い。『侍タイムスリッパー』

 時折、「あぁ、映画っていいなぁ」と思える作品に出会えること、あるじゃないですか。本作がそれです。これ以上は何も調べなくてもいいし、何ならこのnoteも読まなくていいです。行って、映画館に。いいから、絶対に。

 それでも何とか推薦文のようなものを書くとしたら、本作は「手ぶらで観に行って笑える、万人に開けたコメディ」であることを、まずは推したい。

 幕末時代の会津藩士が、雷に打たれたことで現代の

もっとみる
関係ない人なんていない。『ラストマイル』

関係ない人なんていない。『ラストマイル』

 8月22日、会社で「コピー用紙が無くなったので発注してください」と頼まれる。なんで無くなる前に言ってくれないのかな、という小言を飲み込んで、「明日には納品されます」と返した。

 8月23日、会社を休んで、映画館で『ラストマイル』を観ながら、ちゃんとコピー用紙は届いたかな、と思う。それが爆発しないといいのだけれど。

 もう辛抱たまらず、『ラストマイル』を観た。『アンナチュラル』と『MIU404

もっとみる
グレン・パウエルは今日も絶好調。『ツイスターズ』

グレン・パウエルは今日も絶好調。『ツイスターズ』

 先日、わりと大きな地震があったことと、とあるイベントで3.11の揺れを再現した実験車に乗る機会があり、立っていられないほどの大地震をその身に経験したことで、再び防災意識を高めている。

 それはそれとして、映画館という空調の効いた安全な空間で、絶対被災したくないなぁという巨大災害を扱った映画を観に来ている。ディザスターはスクリーンの中に限る、ということだ。

 実際に公開されるまで実感の湧かなか

もっとみる
『密輸1970』潜れるヤツだけが掴める黄金。

『密輸1970』潜れるヤツだけが掴める黄金。

 そういえば私、『あまちゃん』観たことないんです。いつか観よう、今年こそ観ようとズルズルやってたら、もう5〜6年とか経ってる。NHKの朝ドラ、一本くらい完走してみたいものですが、さて果たして。

 そんな負い目を抱きつつ、観てきました、『あまちゃん』を。まぁ正確には『あまちゃん』に密輸王とチンピラと税関とサメを足した、『アウトレイジ』みたいに悪いヤツしか出てこない版なのですが。

 バイオレンスと

もっとみる
みんな、元気でやってたかい?『デッドプール&ウルヴァリン』

みんな、元気でやってたかい?『デッドプール&ウルヴァリン』

 MCU疲れ、という言葉を意識する機会が増えてきた。

 映画の連続ドラマ化を実践してきた最大手であるMCUが、今度は本当に配信ドラマ(『ホワット・イフ...?』はアニメだけど)まで始めてしまい、供給量と余暇時間のバランスの不一致が広がり、サノスを倒す以前と以後では自分の中でのこのユニバースに対する熱量は大きく差が開いてしまった。仕事の繁忙期を言い訳に、『マーベルズ』を劇場鑑賞ではなく配信で済ませ

もっとみる
草葉の陰で、シーザーが泣いている。『猿の惑星/キングダム』

草葉の陰で、シーザーが泣いている。『猿の惑星/キングダム』

 つい先日、猿が強制労働させられているという共通点を持つ『ゴジラxコング 新たなる帝国』の感想にも書いたけれど、私はリブート版『猿の惑星』三部作が大好きだ。

 CGの進歩によって成し遂げられた「人間を憎み、エイプに感情移入する映画」の発明により、私は“シーザー”の勇姿に喝采を送り、彼の存在そのものが神格化され物語が閉じる様を観て、落涙した。

 各作がジャンルを変えながら、それでいてシーザーの波

もっとみる
“キング”コングになるために。『ゴジラxコング 新たなる帝国』

“キング”コングになるために。『ゴジラxコング 新たなる帝国』

 生まれてこの方特撮ファンをやらせてもらっているが、間違いなく今、「ゴジラ」というIPがもっとも元気である。

 国産最新作『-1.0』がアカデミー視覚効果賞を受賞し今なおロングラン公開が続き、TVでは『ちびゴジラの逆襲』の新しいシーズンが放送中である。数年前とは比較にならないほど、ゴジラの名を目にする機会が増えた。新作が長い間途絶えたことのある歴史を踏まえれば、考えられないほどに恵まれている。

もっとみる
かくも愚かしき人という生き物。『オッペンハイマー』

かくも愚かしき人という生き物。『オッペンハイマー』

 『オッペンハイマー』を観た。観てしまった、という気持ちで頭がいっぱいになってしまっている。日本での公開が遅れた理由も、本編を観た今ならわかるというか、配給事情について無責任な心情を抱いてしまったことに反省するばかりである。

 『オッペンハイマー』、センシティブな題材ゆえにこの言葉を当てはめるのが正しいかは今なお悩ましいけれど、一個人の身勝手な感想としては非常に面白かった。伝記モノかつ三時間の長

もっとみる
映画『ゴールド・ボーイ』嗚呼過ぎ去りし黄金の刻よ。

映画『ゴールド・ボーイ』嗚呼過ぎ去りし黄金の刻よ。

 一人の怪獣少年として、金子修介監督には勝手に恩を感じている。なので、『ゴールド・ボーイ』の前売り券を買った。あらすじも調べず、予告編すらも観ず、完全に信用取引のみで観に行った。以下、感想をつらつらと。

 まず、ネタバレにならない触りの部分として、岡田将生が素晴らしかった。彼のパブリックイメージであるところの清廉で優しい印象を表では振りまきつつ、その裏では他者を踏み台にし、殺すことも厭わないサイ

もっとみる
新機軸と原点回帰のハイブリッド『ウルトラマンブレーザー』と、『大怪獣首都激突』が放つミニチュア特撮の輝き

新機軸と原点回帰のハイブリッド『ウルトラマンブレーザー』と、『大怪獣首都激突』が放つミニチュア特撮の輝き

 ウルトラマンブレーザー。初報の段階からこれまでの作品とは異なる雰囲気と風格をまとって我々の前に姿を現した巨人は、長きに渡るシリーズの中でもかなりの挑戦作であったことに、異論はないはずだ。

 劇場作品の出自ながら度々作品を跨いで登場し、後輩ヒーローのまとめ役を努めたゼロ。新たなTVシリーズの嚆矢として始まった『ギンガ』からバトンを繋ぎ、10年の大台を突破したニュージェネシリーズ。その歴史の中で、

もっとみる
唸れ必殺の“黙秘拳”『犯罪都市 NO WAY OUT』

唸れ必殺の“黙秘拳”『犯罪都市 NO WAY OUT』

 前作の感想を“2年に一本くらいのペースで新作が観てぇなぁ!!!!”とか“来日が実現するといいな”で〆たら本当にそうなったし、まさかマジで青木崇高と國村隼が出るとは思わなかった。そんな『犯罪都市』シリーズ最新作、楽しませていただきました。同じ劇場で観たのに明らかにマ・ドンソクの打撃音が前作よりも爆音になっていたので、次回作は耳栓必須になると思います。

 腕っぷしの強さでピカイチの検挙率を誇るマ・

もっとみる
映画『カラオケ行こ!』“今しかない瞬間を”歌え、叫べ。

映画『カラオケ行こ!』“今しかない瞬間を”歌え、叫べ。

 背丈が無駄にデカいので、「バスケかバレー部だったでしょ?」と数え切れないほど言われてきたけれど、その実態は、部活には入らず生徒会役員を努め、内申点だけで受験を乗り切ってきたというのがオチ。運動神経が壊滅的だったし、とはいえ文化系においても自慢できる特技も研鑽を重ね続ける度胸もなく、弱い自分を変えられないまま学生生活を終えてしまった。

 たとえ下手でも、何かしらを続けていれば、今の自分にはない特

もっとみる