ひでき

和歌山県日高町の中尾秀樹です。元高校教師で在職中に直木賞作家藤本義一氏の文筆家養成所「…

ひでき

和歌山県日高町の中尾秀樹です。元高校教師で在職中に直木賞作家藤本義一氏の文筆家養成所「心斎橋大学」に通っていました。そこで「月に10冊は読むように」と云われて実践に努めています。詩心のある作家が好きです。今読んでいるのは塩田武士著「存在のすべてを」。よろしくお願いいたします。

最近の記事

アガサ・クリスティー「そして誰もいなくなった」日高新報2024年7月18日付掲載ブックレビュー

全世界で1億部突破の大ミステリー小説である。  イギリスの西部の孤島(兵隊島)にいわくありげな10人が集められた。  元判事(無実を死刑にしたことがある)、元教師(生徒を溺死させたことがある)、元大尉(戦地で部下を誤った命令で死亡させた)、老婦人(使用人の娘を自死に追いやった)、青年(スピード狂でひき逃げをした)、元警部(犯人を死亡に追い込んだ)、医師(手術中に患者を死亡させた)、元陸軍将軍(敗色濃厚の戦地に部下を派遣し死亡させた)。そして孤島の別荘の執事夫婦である。それぞれ

    • 「九十歳。何がめでたい」佐藤愛子著ブックレビュー:日高新報7月12日付掲載

       直木賞作家・佐藤愛子のエッセイである。先月から映画も公開されている。  新聞の人生相談などは大嫌いな佐藤愛子である。もし相談があれば「何をそんなにくだくだ悩んでいるんだ。しっかりしろ!」と一喝して終わってしまうからだという。著者は大正十二年生まれ、戦前、戦中、戦後と大変な時代を生き抜いてきた肝っ玉ばあさんであるからだ。そんな佐藤愛子が銀座の三越百貨店を訪れたときのことである。  以下、本文より。 ー私は三越のトイレに入った。用をすませて、水を流そうとしたら、どこにもハンドル

      • 「小説太宰治」檀一雄著:「日高新報」6月28日付け掲載ブックレビュー

        太宰治が死んだのは昭和二十三年六月十三日である。今年も桜桃忌の季節がやってきた。  本作品を読んでいると多くの文学者が登場してくる。例えばこうだ。  中原中也は、 ー雪が夜中の雨にまだらになっていた。中原はその道を相変わらず嘯くように、  汚れちまった悲しみに  今日も小雪の降りかかる  と、低吟して歩き、やがて、車を拾って、河上徹太郎氏の家に出掛けていった。-  また、佐藤春夫邸に出向くと、檀の小説の表紙を太宰と二人で頼んだ。 ー「ああ、いいだろう。描いて見よう」と佐藤先生

        ¥200
        • 三島由紀夫「暁の寺」:日高新報6月14日(金)掲載ブックレビュー

          「豊饒の海」第三巻が本作品である。全編の背後には常に死の影が漂っている。  第一巻「春の雪」では、華族に生まれた松枝清顕と綾倉聡子との儚くも激しい恋とその死。  第二巻「奔馬」は、清顕の生まれ変わりの飯沼勲の人生と昭和維新に破れた勲の割腹自決。  本作品では清顕の魂はタイへ飛んでいた。  七歳になったタイの王女は自分は日本人だという。故郷である日本へ帰りたい泣き叫ぶのであった。  清顕の友人、弁護士の本多繁邦は、五井物産の法律顧問としてタイを訪れる。そこでタイの王女に謁見をし

          ¥200

        アガサ・クリスティー「そして誰もいなくなった」日高新報2024年7月18日付掲載ブックレビュー

        • 「九十歳。何がめでたい」佐藤愛子著ブックレビュー:日高新報7月12日付掲載

        • 「小説太宰治」檀一雄著:「日高新報」6月28日付け掲載ブックレビュー

          ¥200
        • 三島由紀夫「暁の寺」:日高新報6月14日(金)掲載ブックレビュー

          ¥200

          西村賢太「芝公園六角堂跡」ブックレビュー。日高新報5月31日付け掲載

           学歴なし(中卒)、日雇い労務者で風呂なし四畳半一間で暮らしていた中年の男が芥川賞を受賞して話題を呼んだ西村賢太であるが、その5年後に発表したのが本作品である。  主人公の北町貫多は五年後も相も変わらず四畳半の風呂なしのアパートに住んでいた。ただ違うのは境遇を綴った私小説で新人賞を受賞しいささか出版社との付き合いも出来るようになっていた。中学時代から音楽とは無縁の生活をしていた貫多であったが、唯一姉のラジカセで聴いたのがきっかけとなってお気に入りになったのが歌手のJ・Iさんで

          ¥200

          西村賢太「芝公園六角堂跡」ブックレビュー。日高新報5月31日付け掲載

          ¥200

          スローグッドバイ・石田衣良より「you look good to me」(邦訳:君はすてきだね)5月24付「日高新報」掲載

          直木賞作家・石田衣良の恋愛短編集である。この中に「you look good to me 」という短編が収められている。これはジャズピアニスト、オスカー・ピーターソンの名曲「you look good to me」(邦訳・君はすてきだね)を聴いているときに、ストーリーが頭に浮かんで書き上げた作品だという。ストーリーが浮かんでくる曲とはどんな音楽なんだろう。そう思ってyoutubeで調べてオスカー・ピーターソントリオのその曲を聴いてみた。  ピアノが優しくイントロを奏でる。つら

          ¥0〜
          割引あり

          スローグッドバイ・石田衣良より「you look good to me」(邦訳:君はすてきだね)5月24付「日高新報」掲載

          ¥0〜

          6年ぶりの新作:村上春樹「街とその不確かな壁」5月10日付「日高新報」掲載ブックレビュー

          村上春樹といえば、毎年ノーベル文学賞の候補としてマスコミを賑わせる日本を代表する国体的作家である。ノーベル文学賞発表の日は書店にファンが集まりテレビ局が中継するお馴染みの光景となっている。そのノーベル文学賞を受賞する大きな要因の一つがノーベル図書館における貸し出し冊数だというのはご存じだろうか?。ストックホルムにあるノーベル財団の図書館であるが、この図書館はノーベル財団関係者だけが利用できる図書館ではなく一般の市民も利用できる図書館なのである。ここで毎年どのような作家の本が数

          ¥300

          6年ぶりの新作:村上春樹「街とその不確かな壁」5月10日付「日高新報」掲載ブックレビュー

          ¥300

          エミリ・ブロンテ「嵐が丘」世界三大悲劇翻訳比較:「日高新報」令和6年4月19日付け掲載

          「嵐が丘」は世界三大悲劇として有名な小説である。(他は「リア王」と「白鯨」)。 寒風吹き荒れる丘に建つ屋敷(嵐が丘)の主人に拾われた主人公のヒースクリフ。屋敷の娘キャサリンに恋い焦がれながらも若主人の虐待に耐え忍んできた。そこへ持ち込まれたキャサリンの結婚話。絶望のうちに屋敷を去るが、やがて大富豪となって復讐のために嵐が丘へ戻ってきたという話。 その名作が日本では昭和7年より翻訳されてきた。その数なんと14作品。海外物はその翻訳によりかなり差異が見られる。今回は世界文学史上も

          ¥0〜
          割引あり

          エミリ・ブロンテ「嵐が丘」世界三大悲劇翻訳比較:「日高新報」令和6年4月19日付け掲載

          ¥0〜

          「あなたのための短歌集」木下龍也著ブックレビュー:令和六年四月12日付「日高新報」掲載

           あなたは誰かのために何かをしたことがありますか?。またあなたは誰かからあなたのために何かをしてもらったことがありますか?。そしてそれは文学として。 ここにあるのは誰かのためにではなく、あなたのためだけに作られた短歌なのです。歌人の木下龍也が、全国から寄せられた読者からの手紙に応えた短歌集です。 その幾つかを紹介します。 「まっすぐ生きたい。それだけを願っているのに、なかなかできません。まっすぐ生きられる短歌をお願いします」  ー「まっすぐ」の文字のどれでもが持っているカーブ

          ¥0〜
          割引あり

          「あなたのための短歌集」木下龍也著ブックレビュー:令和六年四月12日付「日高新報」掲載

          ¥0〜

          国際ブッカ―賞にノミネート:ノーベル文学賞に繋がるか?金井美恵子は?(令和6年3月29日付「日高新報」掲載ブックレビュー

          国際ブッカ―賞という文学賞をご存じだろうか。イギリスの文学賞である。選考の対象となるのは英語以外の言語で書かれて英語に翻訳された作品である。昨年ノーベル文学賞を受賞したヨン・フォッセはノルウェー人の劇作家でこの賞を受賞した。つまり原作はノルウェー語というわけである。この賞を取るとノーベル文学賞の可能性が高いということだ。この国際ブッカ―賞に金井美恵子がノミネートされた。つまり、ノーベル賞も取る可能性が出てきたというわけだ。  日本人作家でノーベル文学賞の可能性があるのは村上春

          ¥100〜
          割引あり

          国際ブッカ―賞にノミネート:ノーベル文学賞に繋がるか?金井美恵子は?(令和6年3月29日付「日高新報」掲載ブックレビュー

          ¥100〜

          史上最高の投手サチェル・ペイジ「2000勝投手はこうして誕生した」佐山和夫著ブックレビュー・令和6年3月22日「日高新報」掲載

          野球において最も偉大なピッチャーは誰かと問われて、サチェル・ペイジと答えることができる人はかなりの大リーグ通である。2000勝もの勝ち星を上げノーヒット・ノーランも100回を超えている。この数字は大リーグだけのものではないが、戦前に存在した黒人リーグとオフシーズンに諸外国を回ったその合計数である。この勝ち星の理由は、黒人リーグでは、ほぼ毎日投げていたからである。しかも1日1試合とかではなく2試合の日もあれば3試合の日もあった。オフシーズンにはメキシコ、キューバ、ハイチ、ドミニ

          ¥0〜
          割引あり

          史上最高の投手サチェル・ペイジ「2000勝投手はこうして誕生した」佐山和夫著ブックレビュー・令和6年3月22日「日高新報」掲載

          ¥0〜

          妖気と魔性の世界・坂口安吾著「桜の森の満開の下」ブックレビュー(令和6年3月15日付「日高新報」掲載)

           花見という風習が世間に広まったのは、江戸時代以降のことである。  関西で花見の名所といえば吉野山や京都・円山公園が有名であるが、円山公園の枝垂れ桜は他の名所とは一線を画していると思える。というのは枝垂れ桜は昼間と夜とでは様相が一変するからである。夜に訪れると、そこには妖気が漂っているかのようだ。円山公園の枝垂れ桜のような桜の花の妖気と魔性の世界を描いたのが坂口安吾の「桜の森の満開の下」である。  内容をかいつまんで紹介する。  鈴鹿峠の山中に一人の山賊が住んでいた。旅人を襲

          ¥0〜
          割引あり

          妖気と魔性の世界・坂口安吾著「桜の森の満開の下」ブックレビュー(令和6年3月15日付「日高新報」掲載)

          ¥0〜

          日本で核実験:衝撃の事実!「硫黄島上陸」酒井聡平著(令和6年3月8日付「日高新報」掲載)

          「硫黄島上陸・友軍ハ地下ニアリ」は衝撃の本である。そのブックレビューをここに紹介する。  硫黄島は東京から1200キロ離れた東京都小笠原村に属する無人島である。しかし戦前はこの島に1000人もの住民が住んでいた。現在は米軍と自衛隊の共同管理下に置かれている。ここは太平洋戦争時における激戦地の一つである。著者の酒井聡平氏の祖父は、この硫黄島の近くの父島で訣別の電報を受け取った通信兵であった。  その電報とは、  1945年3月17日午後5時50分。  「本戦闘ノ特色ハ 敵ハ地

          ¥0〜
          割引あり

          日本で核実験:衝撃の事実!「硫黄島上陸」酒井聡平著(令和6年3月8日付「日高新報」掲載)

          ¥0〜

          傑作ミステリー「九マイルは遠すぎる」ハリイ・ケメルマン著・ブックレビュー(令和6年2月23日『日高新報』掲載)

          「九マイルは遠すぎる。まして雨の中ならなおさらだ」。 そういって安楽椅子探偵は座ったまま事件を解決した。 ふつう、人はどれくらいかかるのかと訊かれると、  「十マイルくらいかな、とか、二時間ぐらいかかるのかな」とか答えるものだ。九マイルというのは実際に本人が歩いたに違いない。しかも、これから向かうのではなく、こちらに向かって歩いて来たから正確に距離が分かったのだというのである。しかも、雨の中である。歩く理由もまたある。電車もバスもない。つまり、終電が終わって始発もまだ出ていな

          ¥100

          傑作ミステリー「九マイルは遠すぎる」ハリイ・ケメルマン著・ブックレビュー(令和6年2月23日『日高新報』掲載)

          ¥100

          「野球短歌」!,阪神版”サラダ記念日”ブックレビュー(令和6年2月16日付「日高新報」掲載)

          二月になっりプロ野球もキャンプが始まった。 ここに「サラダ記念日」の阪神タイガース版ともいうべき本がある。 一昨年のことである。阪神タイガースは開幕九連敗で始まった。 この本の書き出しの1ページ目は、 ー いつまでたっても阪神が勝たないから、短歌を作ることにしました。ー 著者はこれまで短歌を作ったことがなかったそうだ。 プロ野球の試合は年間143試合。著者はここから阪神タイガースの全試合について短歌を作っていった。阪神愛に溢れた「サラダ記念日」なのである。 阪神が連敗続きの

          ¥100

          「野球短歌」!,阪神版”サラダ記念日”ブックレビュー(令和6年2月16日付「日高新報」掲載)

          ¥100

          三百年の難問!「フェルマーの最終定理」多くの数学者が敗れたのは何故か?ブックレビュー(令和6年2月9日(金)「日高新報」掲載)

           受験シーズンである。そこで今回は数学の問題を提議してみようと思う。     その前に著者のサイモン・シンについて少し略歴を記しておこう。  インド系イギリス人としてイギリスの南西部サマーセット州に生まれた彼はケンブリッジ大学大学院で素粒子物理学を学び博士号を取得する。しかし研究者の道へは進まずイギリスのテレビ局のテレビ局BBCに就職をした。BBCのスタッフとしてドキュメンタリー番組「フェルマーの最終定理ーホライズンシリーズ」を制作し放送することになった。この番組によりドキュ

          ¥0〜
          割引あり

          三百年の難問!「フェルマーの最終定理」多くの数学者が敗れたのは何故か?ブックレビュー(令和6年2月9日(金)「日高新報」掲載)

          ¥0〜