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「あなたのための短歌集」木下龍也著ブックレビュー:令和六年四月12日付「日高新報」掲載

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 あなたは誰かのために何かをしたことがありますか?。またあなたは誰かからあなたのために何かをしてもらったことがありますか?。そしてそれは文学として。
ここにあるのは誰かのためにではなく、あなたのためだけに作られた短歌なのです。歌人の木下龍也が、全国から寄せられた読者からの手紙に応えた短歌集です。
その幾つかを紹介します。
「まっすぐ生きたい。それだけを願っているのに、なかなかできません。まっすぐ生きられる短歌をお願いします」
 ー「まっすぐ」の文字のどれでもが持っているカーブが日々にあったっていいー

「お題は緑色かワンピース、もしくはその両方でお願いします。昨年の夏に失恋してから、大好きな緑色のワンピースを買いました。まだ見せたい人は見つからないけれど、またいつか」
 ーひとり占めさせてあげますとびきりの緑色のワンピースのわたしをー

「先日、入籍しました。コロナ過で式や同居もすぐには出来ず、憂鬱になる日もありますが、前向きに乗り越えたいと思います。楽しい夫婦生活でお願いします」
-山を越え「ふう」と漏らしたため息にあなたが「ふっ」て笑いを添える-

「私の名前の『さくら』でお願いします」
 ーさくらって呼ばれるたびに突風であなたへ散ってしまいたくなるー

「東京に来て、友達もあまりなくて、仕事もなれず、一人暮らしも初めて。何より大好きな彼氏と会えないことがすごく寂しく、拠り所がありません。救いとなる短歌をください」
 ー方言にときどき混じる東京の言葉をきみが笑ってくれるー

 最後に詩人の谷川俊太郎さんからのお願いが。
「十八歳から詩を書き始めいつのまにか九十歳になってしまいました。こんな私に短歌をお願いします」

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