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短編小説集

84
短編小説を挙げています。
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#恋

観覧車

観覧車

 夏休みに入って、二週間が過ぎた。普段、キャンパスで顔を合わせる仲間との一時的な別れが寂しく思えるくらいに、僕の大学生活は鮮やかだった。
 久し振りの再会は、葛西臨海公園だった。リーダーが言い出したバーベキュー大会は、これで四回目。大学生活の夏はバーベキューという変な刷り込みに従順な僕は、良くも悪くも青春を謳歌していた。そうでもなければ、スーツ姿で京葉線に揺られることはなかったと思う。開始時刻は1

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きっと貴女は遠くで泣いているから

きっと貴女は遠くで泣いているから

 当たり前が当たり前じゃ無くなった。失って気付く幸せなんて、よく分からなかったけれど、突然目の前に現れると大きさに自覚的になってしまう。僕はきっと傲慢で、無頓着だ。
「今年の花火大会、中止らしいよ」
 電話口で彼女は寂しそうな声を漏らした。今年の春に上京した彼女は、地元に残っている僕よりも地元のことに詳しかったりする。不思議な感覚に陥るけれど、軽いホームシックのようなものに苛まれているのだと勝手に

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ハムレット

ハムレット

「久し振りだな」
 右手を申し訳ない程度に挙げて、彼は微笑んだ。会っていなかった空白の時間なんてものは存在しなかったのではないかと疑ってしまうくらいにフランクで、それこそ昨日一緒に居たかと思わせるほど普遍的な彼の姿に僕は彼に倣うように左手を挙げることしかできなかった。右手に持ったゴミ袋が不意に重くなった気がした。
「まだ、ここでバイトしてるのか?」
 彼は近づきながら問いかけた。僕はゴミ収集場所に

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