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漫画のキャラクターに憧れて、数年間ブランデーを探した話


初めに


私の唯一無二の漫画のキャラクターがxxxHOLiCの壱原侑子である。
屈託ない笑顔を見せたかと思えば、冷酷な選択肢を客に提示する。辛辣なことを言う一方で、愛情深い。綺麗で可憐で人の通理から外れた女。
憧れの彼女のファッションに影響を受けた。リッチでセクシーな衣装の数々。小学生の頃はドレスのデザインを考えたり、家にあるユニクロの浴衣の着方を覚えた。(作り帯はよくわからなかった。)
彼女みたいになりたいとは思わなかった。コスプレイヤーになるとか、美容を磨くという方向にベクトルは向かなかった。
大学生になってもなお彼女への思いは尽きることがなかった。
小学生の頃読み込んだ『新版 ×××HOLiC読本 (KCデラックス)』には彼女の飲酒シーン特集が組まれており、お酒とおつまみが何点か原作のコマつきで掲載されている。
本は手放してしまったもの、しっかり覚えていた。私が沖縄料理専門店で泡盛を飲みに行ったのも、彼女が飲んでいたからである。
そして、侑子さんがフォンダンショコラと共にカルヴァドスを飲みたいと言っていたシーンも覚えていた。カルヴァドスはりんごを原料としたブランデーである。
あの座敷童子に魂ごと引っこ抜かれる事件のくだりである。
高校生の頃も作品のファンだったのでフォンダンショコラを作った。
20歳を越えてからカルヴァドスを探すのが困難だった。

そして

酒屋巡り

が始まった。

候補1 小売店



中小の酒屋チェーン、地域の場末の酒屋、スーパーの酒コーナー。百貨店の酒コーナー。
食品の買い出しにスーパーへ行って、お酒ゾーンを確認しない日は無かった。
商品自体がそこそこ値が張る。ブランデー置いているだけでそのスーパーの近隣は富裕層が住んでいると推測できる。輪をかけてアップルブランデーとくると品揃えに厳しいものがある。
百貨店でアップルブランデーを見つけたが、ニッカの商品では妥協できないと面倒臭いオタクマインドを発揮した。

候補2 通販


通販も確認した。
amazonにあったが、どうにも食品を買うことには抵抗があった。瓶なのも手伝ってどうにも腰が引けていた。
酒屋の通販サイトでも確認していたが、銀行振り込みという部分で腰が引けていた。

候補3 バー



いよいよ街中のカルヴァドス置いてそうなバー情報も探し始めた。高いのは分かっていたからショットで十分だった。
成人になった老若男女OKなバー、男のみ入店可とHPにはっきり書いているバー。
調べておいてなんだが、20代の女が一人でバーに行く時点で嫌な予感がする。バーに行くのは諦めた。

そして見つけたカルヴァドス
諦めず探し続けること4年以上。
いつものルーティンで確認だけしていた家電量販店の酒コーナー。閉店間際のセールの垂れ幕が下がる店内で、カルヴァドスを見つけた。
もうほぼ衝動買いだった。
瓶は重たかったが、ようやく見つけた嬉しさはなにものにも変えがたかった。
7月のことだった。

700mlのブランデーの消費方法



度数40%700mlはやっぱり多かった。
ロックでちびちび飲んだり、ブランデーケーキにした。
酒好きの友達相手にプレゼントのお返しとして試飲会を開いた。
バレンタインデーにフォンダンショコラと共に飲もうと六ヶ月もダラダラ残した。
せっかちな性分なのでいつもなら700mlの酒瓶は家族も飲んで、一週間で空ける。私にしては相当耐えた。


実食


そして1月6日。
ついに耐えられなくてフォンダンショコラを作った。フォンダンショコラを作るのは約10年ぶりのことである。バレンタインでもなんでもないので製菓用のチョコは売られていない。
高校時代のレシピはマフィン型で作ることを肯定していたので、今回もマフィン型で作る。
やはり時期を逸しているので紙製の型はスーパーに売られておらず、100均へ向かう。さすがダイソー、イベントのスペースに売られていた。


作るのは30分程度で済んだ。レシピ自体は単純である。

そして出来立てのフォンダンショコラとカルヴァドスが揃った。
フォンダンショコラは身も蓋もない言い方をすると生焼けのチョコケーキみたいなもんである。
中を割るとチョコがどろっと出てくる。
それがおしゃれポイントというかなんというか。
オーブンの火力も程よく、生焼けに成功した。
サクサク熱々の表面を口に入れる。中身のチョコをスプーンですくって食べ、カルヴァドスを飲む。
美味しい、そして新しい発見があった。
カルヴァドスは有識者の言うところのアルコールの尖りを感じたあと太い甘さが広がるのだが、いまいちチョコの暴力的な甘みで感じ辛い。
破茶滅茶に甘い←→度数の高い辛みを往復する。
そしてチョコのとろみで熱い。そこにロックの氷の冷たさ。温度感も揺さぶられる。
お酒のアテに暖かいケーキを選んだことそもそもない。
新鮮である。あいも変わらずカルヴァドスのりんごの匂いもリッチだ。
なんで侑子さん、もといCLAMPのメンバーはこんな飲み合わせを思いついたのか。
正直めちゃくちゃマリアージュっていうわけでもない。
憧れの人の感じた味覚を追っかけているだけである。バレンタインデーを先行してしまったが、悔いはない。

彼女に憧れてやり残したところはおそらく取りあえずないと思う。
推し活って楽しいですね。

後日談
「喫茶カルメル堂」でカルヴァドスが提供されていた。


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