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夢うつつ

目を覚ますと、飛び込んできた現実が夢であるような錯覚があった。
無意識に、見た夢が現実であることを願っていた。

よろよろ起き上がって、寝ぼけ眼を擦る。ふらふら歩いて、乾いた口内に歯ブラシを突っ込む。

鏡に映る寝癖をぼおと眺める。しゃこしゃこと馴染んだ音が耳に響く。

君の夢を見たのはいつぶりだろう。
この先の長い長い人生の中で、二度と出会えない人。そんな君と出会える場所。だから眠るのが好きなのだ。眠たい。今寝たらまだ続きが見れる気がする。

あまりに鮮明だったものだから、まだ君の笑顔が張り付いている。確かに私の心を溶かした、あの蕩けた胸中の感覚も。

10年前の恋が、ある朝突然胸に湧き出してしまって、脳が混乱している。
心だけが中学生の時のまま、タイムスリップしてきてしまったような。

既に忘れたはずの思春期と、息もできないほどに溢れる行き場のなさを、心が勝手に追憶している。

忘れたくない。折角会えた。私の目を見て笑ってた。その仕草ひとつで私は石になって、次の瞬間には蕩けている。
身体を巡る血液がふつふつと沸騰して、甘い汁になって垂れ出てしまうような感覚。
恋は麻薬。思春期の恋は特にそうだ。私の恋の頂点の記憶を、このまま都合よく塗り替えてしまえたら。

14歳の恋は、24歳の頬すら上気させる。
口内に溜まった唾液を吐き出す。
血が出るほど歯を磨いていた。気付かなかった。

日常は何も変わらない。顔を洗って、紅茶を淹れて、パンを焼いて、バターを塗って、口に放る。
合間にちょっと、君の朝ごはんは何だったのかなと思うだけ。

出勤途中にコンビニでおにぎりを買う。
有線から流れる流行りの音楽を、君は知ってるだろうかと思う。
私の好きなこの歌詞を、君はなんと思うだろうか。

こんな小さな繋がりの希求も、明日にもなれば少しずつ薄れていって。
またしばらく日常を過ごして。
いつかまた君の夢を見て、また同じようなことを思うんだろう。

青い空。夏の陽射しを存分に身体に浴びて、
どこかで君が笑っていますようにと祈る。
今日見たあの笑顔が、ずっと君の元に有ればいい。

私たちは日々を生きていく。

路傍には向日葵が咲いている。




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