”サステナブルファッション”にも貢献。「バーチャル試着」の取り組みをレポート!
アパレル業界でニーズが高まる、店舗の体験価値向上と環境負荷対策
今、アパレル業界ではテクノロジーやデータを活用した店舗の体験価値向上に取り組む企業が増えています。また、大量生産・大量廃棄による環境負荷問題がSDGsの潮流もあいまって世界的な注目を集めており、アパレル業界全体での対応が求められています。
国内でも環境省が「サステナブルファッションの推進に関するホームページ」を立ち上げて、アパレル業界が与える環境負荷の定量的な分析や、対策に向けた具体的なアクションを紹介しています。環境省が2021年に実施した消費者アンケート調査では、消費者の約6割がサステナブルファッションに関心を持っており、大量生産・大量廃棄に対する課題意識も高いことが分かります。また、同アンケートでは、サステナブルファッションに取り組む上で解決が必要だと思う項目に「消費者の好みや体型等のデータに応じた服の個別受注・生産システムを導入する」を挙げる人が一定数います。
こうした背景から、アパレル業界の課題を解決する手段の一つとして注目されているのが、デジタル上での試着を可能にするバーチャル試着(バーチャルトライオン)です。
アパレル業界ではECが新たな販売チャネルとして順調に浸透しつつありますが、一方でオンラインショッピングだとサイズの間違いや、パソコンやスマホでみた時の印象と実際に着てみた時の印象が違うなどの理由から、返品されるケースが少なくなく、結果として大量生産・大量廃棄を引き起こす要因に。この返品率を改善する方法として、海外ではバーチャル試着(バーチャルトライオン)を取り入れるアパレル企業が出てきているのです。
バーチャル試着(バーチャルトライオン)を含む小売のバーチャルショッピング動向について、以前noteで記事にまとめたので、よろしければこちらもご参照ください。
東芝テックの出資先である「株式会社VRC」は、最先端3Dモデリング技術と独自のクラウドレンダリング技術を軸に、手軽かつスピーディに自分そっくりのアバター作成やオートフィッティングができるソリューションを開発しているスタートアップ企業。出資後、成長支援を行いながら協業の可能性を続けてきましたが、このたび2021年11月に、バーチャル試着ソリューションのプロトタイプを開発し、東芝テックのショールームにて体験コーナーを設置しました。
「VRC×東芝テック」の新しいバーチャル試着サービスとは
今回、VRCとの協業により実現したのが、高速3Dボディスキャン装置「SHUN’X Apparel」とバーチャル試着アプリ「Virtual Palette」を組み合わせたバーチャル試着ソリューションです。
「SHUN’X Apparel」は店舗の試着室やポップアップイベントなど省スペースで設置可能で、装置に入って全身をスキャンすることでボディサイズの測定やボディラインを推定をし、本人そっくりのアバターを生成します。なお、装置を使用せずにスマートフォンに専用アプリをダウンロードすることで、ユーザー自身で全身をスキャンし、ユーザーの操作により採寸精度は少し変わりますが、自身のアバターを生成することも可能です。
「Virtual Palette」では、作成したアバターを活用して、アプリ上の洋服やコーディネート一覧から、自分の体型に合わせた自由自在な試着を体験できます。サイズ感やフィット感はもちろん、動いた時の服の質感なども再現し、従来は実際に試着をすることでしか得られなかった直観的な試着感を、スマートフォンのアプリで可能にしました。
本サービスは、東芝テックの最新ソリューションを含む先端技術を体験できるショールーム「TEC 01 SIGHT SHOWROOM(テック・ゼロワン・サイト・ショールーム)」にて、体験コーナーを設置。実際にご利用いただいたお客様からのフィードバックも参考にしながら、実用化に向けてアップデートしていく所存です。
開発経緯や今後の展望など、詳しくはCVCウェブサイトで紹介していますので、ぜひご覧いただけると嬉しいです。
実際にバーチャル試着を体験!
今回、ショールームでバーチャル試着を体験してきたので、その感想をまとめたいと思います。
まずボディスキャン装置ですが、思ったよりもコンパクトなサイズ感で、既存店舗のフィッティングルームや敷地が限定されているポップアップストアなどにも問題なく設置できそうでした。装置の中には複数のカメラが張り巡らされており、撮影後1〜2分程度で自分そっくりのアバターが誕生します。
スマートフォンによるアバター生成も試してみたのですが、こちらはより顔が鮮明にスキャンされる印象です。簡易に生成できるメリットがある一方、サイズ感は装置で撮影したほうが正確に再現できるそうです。
アプリはフィッティングルームに備え付けの二次元コードからダウンロードし、完成したアバターの読み込みも二次元コードで行います。アバター生成中にアプリのダウンロードや使い方を案内することで、より効率よくシームレスな体験ができそうです。
アプリでは通常のECサイトのようにさまざまな洋服やファッションアイテムを閲覧できます。その中から気になる商品を選択するだけで、自身のアバターに試着させることができます。実際にアバターに着せてみると、袖や丈の長さや自分の体型に対するフィット感、さらに歩く動作に合わせた服の質感なども再現されるので、通常のECサイトでモデルが着用している商品写真を見るよりも、明らかに多くの情報を得られます。確かに、これならパソコンやスマホで見た時の印象とのギャップが限りなく減るので、返品率の低減に貢献できると感じました。
また、試着したアバターでスタンプ画像を生成できるのも面白い機能だと思いました。バーチャル試着自体がこれまでにない新しいユーザー体験なので、LINEスタンプに使ったりエンターテイメントとしての活用方法もいろいろと考えられるのではないでしょうか。
バーチャル試着体験後、今回の協業プロジェクトを担当した入澤にインタビューを行いました。
Q. 今回の協業にあたって、VRCとはどのようなコミュニケーションを取りましたか?
A. 毎週の定例会に加えて、必要ならすぐに電話などで細かくコミュニケーションを取りました。キックオフから約2ヶ月でプロトタイプ完成と、かなりスピードの早いプロジェクトでしたので、お互いの意見や考えをすり合わせながら迅速に進めることを心がけました。
Q. スタートアップ企業との協業を通して、新たに学んだことを教えてください。
A. スタートアップ企業のスタンスで非常に参考になったのが、本当に必要なものは何かを見極めて、それ以外の要素はいったん捨てるという点。大企業の開発プロセスだと、つい色々なニーズに対応しようと要素を盛り込んでしまいがちなのですが、スタートアップ企業の場合は何にフォーカスするのか、課題の絞り込みがとてもハッキリしています。いわゆる MVP(Minimum Viable Product)開発スタイルですね。確かに、いきなり全ての課題は解決できないし、全部に応えようとすると、いつまで経ってもプロダクトを市場に出せません。スピードを求める開発や新規事業の場合、大企業もスタートアップ企業のやり方から学べることがあるのではないかと感じました。
Q. 今後、店舗やポップアップストア以外での活用シーンはありますか?
A. 例えば、3Dで作成した自社ブランドの洋服をユーザーが自分のアバターに試着させ、SNSで拡散してもらうことでマーケティング活動にも活かせると思います。また、近年はゲームの世界でアバターをコーディネートするバーチャルファッションのニーズが伸びていますし、VTuberの方々が手軽にアバター生成するためのツールとしてもご活用いただけると思います。
最後にこのプロジェクトへの想いを聞いたところ、入澤は「これからも引き続きVRCと共に、お互いに提供し合える強みを掛け合わせて、私たちだけでは辿り着けない新たな価値創造を実現させていきたいと思います」と語りました。
今後も引き続き、店舗の体験価値向上に関するトレンドや、出資先スタートアップ企業との取り組みを紹介していきたいと思います。