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衣食住が揃う総合スーパーが再び輝くためのポイント

日常生活に必要なものが取り揃えられている総合スーパー。近年は、キャッシュレスやプライベートブランドの開発、宅配サービスを取り入れるなど、消費者ニーズの変化に合わせて進化している印象です。しかし、最盛期のような輝きを取り戻すためには、さらなる変革が必要なようです。
今回は各社の取り組みを通し、これから求められる総合スーパーの在り方について「販売革新」編集委員 梅澤聡さんにレポート頂きました。

総合スーパーとは、衣料、食品、住居関連の商品を一つの館に集めた業態です。一般的にGMS(ゼネラル・マーチャンダイジング・ストア)と呼ばれますが、GMS発祥のアメリカでは食品を扱わず日本とは定義が異なるため、厳密には総合スーパーとGMSは異なります。
総合スーパーは、かつて名だたる企業が売上高ランキングの上位を占め、日本における小売業の代表格でした。しかし現在、店舗数はピーク時と比較して激減、その存在意義が問われています。総合スーパーに、どんな未来があるのか、新しい時代に求められる店の在り方を、各社の取り組みから考えてみます。

売上を徐々にはぎ取られた総合スーパー

1972年、百貨店の三越に代わって総合スーパーのダイエーが売上高日本一になります。その後、イトーヨーカ堂、西友、ジャスコ、ニチイといった企業が追いかけ、80年代から90年代にかけて売上高ランキングの上位を総合スーパーが占めるようになります。
しかし、一部の企業では過剰投資とバブル崩壊による経営危機、さらに衣料品では、ユニクロやしまむらといった専門店チェーンが台頭、住居関連ではホームセンターやドラッグストアの店舗網拡大により、総合スーパーは、各部門で売上を徐々にはぎ取られていきます。

これまでの経緯は省きますが、現状の総合スーパーは、広域エリアではイオンリテールとイトーヨーカ堂、限定エリアではユニー、平和堂、イズミが主だったところです。
いずれの企業グループも、総合スーパー単体で稼いでいるわけではなく、グループとして別の業態を持っています。ショッピングセンター(SC)や食品スーパー、コンビニといった安定して稼げる業態の支えがあります。

イトーヨーカ堂は、126店舗(23年2月末、同年9月に経営統合した食品スーパーの「ヨーク」は除く)を展開していますが、親会社のセブン&アイ・ホールディングスが米国投資ファンドより、23年5月の株主総会でグループからの切り離し(売却)を迫られました。

この株主提案は否決されましたが、セブン&アイは、イトーヨーカ堂をグループに残しつつも、店舗で扱う“直営の”ファッション衣料から撤退を表明(テナントは継続)するなど、現在も効率化を進めています。直営部門は食品の充実だけでなく、これまで弱かったドラッグ部門や子ども関連を強化して、新しい総合スーパーの構築に取り組んでいます。

イトーヨーカドーららぽーと横浜店(神奈川)は23年4月に改装、
子ども関連の売場を拡充して総合スーパーの再生を目指す。
売場には、すべり台の付いた砂場や遊び放題のおもちゃなどで
ファミリーが楽しめる売場をつくった(23年4月撮影)

老若男女問わず買物が楽しめる空間が強み

この一連の改革が始まる前年(22年)8月、イトーヨーカ堂代表取締役社長の山本哲也氏は総合スーパーの存在意義を次のように語っています。

(コロナ禍により)今住んでいるわが街に興味を持つお客様も増えたと思います。そうして、住んでいる場所と、働く場所がイコールになってくると、今度は住んでいる場所が中心の生活に変化します。私たちのお店は、その街の中心部や駅前にあるので、イトーヨーカドーの在り方も変わっていきます。人口が減少し、共働き世帯が増加すると、今度は街自体がコンパクトシティ化していきます。私たちのお店は街の中心部に多くあるので、将来的に役割が大きくなっていきます

総合スーパーは呼び名の通り、何でも揃える総合店です。衣食住すべてを集めた便利な店舗ですが、その半面、売場面積に限りがあるため、各部門の品揃えがどうしても中途半端になりがちです。立地も地価の高い街の中心部や駅前のため、例えば、大型のポリバケツといった、場所をとり単価の低い商品などは効率が悪くて陳列できません。

確かに、品揃えの広さや、扱う品種の深さは、ホームセンターや、専門店チェーンに比較して見劣りするかもしれませんが、食品から衣料品、日用品から雑貨まで、老若男女問わず買物が楽しめる空間は総合スーパーの強みでもあります。衣料品でいえば10代から高齢者まで、手頃な価格の商品が一つの店舗で買い揃えられる魅力を有しています。

前出の山本社長は「暑い時期には、少し涼みに来ながら、家族で来店して、ゲームで遊び、フードコートで食事して、買物を楽しむといった “家族っていいな”と感じる“家族の時間”を私たちは提供していきたい」と、総合スーパーの強みを発揮していくといいます。

例えば、22年7月に改装オープンしたイトーヨーカドー幕張店(千葉県)では「家族」を強く意識した販促を実施。アウトドア関連商品では、近隣の公園で“プチピクニック”ができる簡易なテントや調理器具、簡便食品を1カ所で陳列。また、夏の花火大会用に両親と子ども用の浴衣を訴求するなど、(当時)親子の買物を想定した売場をつくっていました。

イトーヨーカドー幕張店のアウトドア関連売場。
本格的なアウトドア用品ではなく、
自宅の庭や近隣の公園で楽しめるアイテムを揃えた(22年8月撮影)

ちびっこ職場体験を初の“全店一斉”で実施

さらに、イトーヨーカ堂は、23年7月31日から8月6日の期間、「夏休み ちびっこ職場体験ツアー」を全店舗で同時開催。全店舗による同一期間での開催は、同社として初の取り組みとなりました。

イトーヨーカ堂は「生活に身近な小売業への理解を促進する地域貢献の一環」として、以前から職場体験ツアーを実施。店舗にて地域の小学生や中学生を中心に、年間約 1 万人の職場体験の受け入れを行ってきました。
コロナ禍の影響により、店舗での職場体験の受け入れが中断するなどしましたが、23年は子どもたちの夏休み期間中である1週間、全店一斉に実施することで、この企画の認知度を高めていく意向がありました。

実際に筆者が視察したイトーヨーカドー武蔵境店(東京)では、同店のインスタグラムや店内ポスターなどを見て応募した65組のうち当選した8組16人が参集していました。

職場体験の内容は、最初に「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」の練習を社員食堂の一角を借りて実施。次に開店前のバックヤードと売場を巡るツアー、10時には入り口前に全員が並んでお客様へ挨拶、続いて日用品売場で紙製品の品出し、陳列、メインイベントのレジ精算の体験(お客様役は子どもの保護者)、最後に社員食堂に戻り、ラッピング教室をインストラクターを招いて実施。試食会の後、子どもたち一人一人に「認定証」が授与されていました。

総合スーパーの存在意義が問われる中で、地域コミュニティの中核として確固たるポジションを示そうとする同店の意志を垣間見ることができました。

イトーヨーカドーは全店一斉の「夏休み ちびっこ職場体験ツアー」を実施、
難易度の高いレジ精算に挑戦する子どもたち(23年8月撮影)

総合スーパーやGMSという概念からの脱却

平和堂は関西・東海・北陸エリアに156店舗(23年2月末)を展開し、このうち総合スーパー37店舗を有しています。23年10月には、総合スーパーを核に据えた自社の基幹店舗「ビバシティ彦根」(滋賀)を、全館リニューアルオープンしました。

その際に話を伺った平和堂代表取締役社長執行役員 営業統括本部長の平松正嗣氏は、総合スーパーの在り方について、非常に興味深い見解を示していました。

私たちは“総合スーパー”や“GMS”という概念から脱却したいと考えています。総合スーパー、あるいはGMSを言葉だけから捉えると、“いろいろな商品を売っている”ことしか表現していないのですね。それだけではない存在になっていきたいと考えているのです

それだけではない存在とは何か? 平松社長のお話をまとめると次のようになります。

地方に出店する総合スーパーは大都市圏と比較すると、地域との距離感が近い中で商売をしています。働いている人、住んでいる人、買物をしている人が、それぞれ同じ地域に暮らしているのです。
一方、地域の人たちが参加する自治会の活動が、少子高齢化などで減少しています。対策として、行政が中心となって、公民館などで「〇〇教室」といった勉強会や各種イベントを実施して、地域コミュニティの活性化に努めています。
それも重要ですが、平松社長は“日常生活の中で世代を超えた人たちが集う環境が大切”だと考えています。それを実現できるのが、人々の生活動線の中にある平和堂の店舗であると位置付けているのです。

ビバシティ彦根であれば、客層やテーマに応じた平和堂直営とテナントを組み合わせた売場づくりであったり、ボウリング場や映画館、ゲームセンターといったエンタテインメント施設であったりします。

さらに施設の中心エリアには、地域コミュニティの核として、ライブビューイングなどに使える大型サイネージを新設したイベントスペースを用意しています。また、子どもたちには、行政と共同で運営する「広場」を中心とした遊び場も用意しています。

重要なのはハードウエアの部分だけではなくて、お客様に喜んでいただけるソフトの部分を全館で充実させることです

平松社長によると、ビバシティ彦根と同じ地域にある「アル・プラザ彦根」(滋賀/1979年オープン)は、かつて屋上に遊園地を持ち、人気歌手のショーも催していました。その後、長らく屋上を閉鎖していましたが、22年12月に改装オープン、人工芝を敷いて、彦根城を展望できる憩いのスペースとして復活させ、地域の人たちに加えて、観光客の来店にもつなげています。

地域の方たちが、“とりあえずアル・プラザに行こうか”と足が向くようなサービスを用意しています。体操や囲碁や将棋、卓球、健康セミナー、お昼はカフェでおしゃべりしたり、お弁当を買って帰ったりすることもできます。午後になると子育て世代も集い、夕方には高校生が立ち寄るなど、地域の方たちが館内のあちらこちらで動いている状態が、とても大切であると考えています」(平松社長)

小売業である以上、商品を販売しないと店は成り立ちませんが、それよりも前述のような上位概念“日常生活の中で世代を超えた人たちが集う環境が大切”だと考えているのでしょう。

思いつきのイベントで毎日のスケジュールを埋めていくのではなく、子育て世帯に向けた企画であれば、年間を通して計画的に提案していくとか、イベントスペースを地域の方たちの発表の場にするのであれば、定期的な実施を案内するなど、人が集える環境づくりに尽力していくとしています。

大型サイネージを新設したビバシティ彦根のイベントスペース。
ハードだけではなく、地域の方たちが通いたくなるような企画を用意していく(23年10月撮影)

「モノ」だけでなく見えない「コト」の構成を強める

広島市に本社を置くイズミは自社のSC「ゆめタウン飯塚」を23年7月、福岡県の飯塚市にオープンしました。同社は広島、熊本、福岡、山口を重点エリアと位置付け、SC、総合スーパー(GMS)、スーパーマーケット(SM)によるドミナント戦略を加速させています。ゆめタウン飯塚は、総合スーパーを核店舗にSC業態として64店舗目になります。

今後の成長戦略に関してイズミは『10年後、地方圏では大規模SCが、地場企業や公共施設と連携しコミュニティ機能も備える「街の核」となることを念頭に変革を目指していく』としています。

イズミ代表取締役社長の山西泰明氏も平和堂と同様、人が集える環境が大切だといいます。

ただ単にモノを売るだけのSCではなくて、地域の皆さんに、ここに集っていただけるような人流をどうやってつくるのかが大切だと考えています。見えている“モノ”(ハード)だけではなく、見えない部分の“コト”(ソフト)により大半を構成していきます

物販にしても、単なる「モノ」をお値打ち価格で売るだけではなく、商品に込めたこだわりや商品の持つ価値といった「コト」を訴求して、生活の豊かさを地域の人たちに提供していくとしています。

同時に、サービス施設やアミューズメントの充実により、時間消費型の施設の在り方を強めて、地域活性化に貢献していく考えを示しました。

子ども関連売場と同じエリアに、彦根市地域子育て支援センターと
平和堂が共同で運営する「まんまるひろば」(23年10月撮影)

最新デジタル活用のコスト削減もテーマ

総合スーパーの今日的な意義を、これまでの取材を通してまとめてみました。かといって総合スーパーの未来が決して明るいわけではありません。セブン&アイ・ホールディングスの24年2月期第2四半期決算の説明会で、イトーヨーカ堂の店舗数を現状(23年2月期)126店舗(食品スーパーのヨークを除く)から、26年2月期までに、33店舗を閉じて93店舗にまで縮小すると発表しました。
地域コミュニティの中核が失われないためにも、運営側には、地域マーケットに適応した売場構成、品揃えが求められるし、最新デジタルを活用したコスト削減なども喫緊のテーマになっていくでしょう。

(取材・文:「販売革新」編集委員 梅澤聡)

総合スーパー各社の取り組みから見えてきた、変革の兆しと今後の可能性についてレポートしていただきました。
イトーヨーカ堂代表取締役社長・山本氏が述べるように、コロナ禍をきっかけに自分が住んでいる場所が生活の中心となり、地域のコミュニティや街について興味・関心を持つようになった人も多いのではないでしょうか。そのような中で家族と過ごす時間や子育てを応援し、地域の人たちが集まる場づくりに注力してきた総合スーパーは、世代を超えて根強いファンに愛される、その街にとって欠かせない存在になる可能性を秘めています。
ターゲットを意識した商品の品揃えや売り場づくりをすることはもちろん、平和堂のようにみんながくつろげる憩いの場の創出、ライブビューイングもできるイベントスペースの設置、そして魅力的なコンテンツなど、人が集まりたくなるような仕掛けを生み続けることがカギになりそうです。
総合スーパーがかつてのような輝きを取り戻す日はやってくるのか、今後のさらなる発展に期待したいと思います。

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